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2020.04.23

人事制度の普遍的な目的とは

人事制度の普遍的な目的とは

「歴史からみる人事制度のトレンド」では、人事制度の成立ちを説明しました。繰り返しとなりますが、概要を簡単に説明します。

歴史から見る人事制度の成立ち

明治時代

労働の対価としての報酬に、賃金を支払う概念が確立し、賃金制度が登場します。この時代、賃金は出来高で決定するなど、賃金を決めるための評価制度も同時に登場しました。

大正時代~昭和前半

生活給を基本とした生活給制度が整います。この生活給は、年功的に運用されていたため年功給とも呼ばれています。

昭和前半~昭和後半

日本独自の生活給という考えと欧米の仕事給(職務給)という考えが融合し、職能給という形の人事制度(職能資格制度)が完成し、この時代に等級制度が普及します。

平成時代

年功的に運用されていた職能資格制度が見直され、成果主義が台頭します。しかし、完全な成果主義は日本企業文化に馴染めず、同一賃金同一労働という考えに沿う、欧米の職務等級制度が再度見直されるようになります。

最終的に既存の職能資格制度との折衷案として、役割等級制度という形で新たな制度として落ち着きます。

しかし、役割等級制度における「役割」の定義が難しく、人事制度として普及するまでには至りませんでした。

令和時代

政府主導の働き方改革が唱えられ、企業の雇用の在り方に変化を求められる時代に突入します。企業のグローバル化に対応するためにも、「同一労働同一賃金」の欧米の職務等級制度が再度見直されるようになります。

この時代、従来の「職務」という言葉ではなく「ジョブ型」という言葉が使われます。

人事制度の確立の流れ

雇用体系の中で人事制度が変化する過程では、労働の対価として報酬を賃金という形で支給する賃金制度が誕生し、出来高などで賃金を決定するための評価制度が現れました。そして、賃金を決定するために社員を区分する等級制度が登場します。

そして、人事制度が賃金制度・評価制度・等級制度の3本柱で構成されると、時代と共に人事制度として発展していきます。その発展の過程では、3本柱の各制度が関係しながら、一つの人事制度として変化していきます。

つまり、賃金制度が変われば、それに伴う評価制度も変わり、それによって評価される社員の等級制度も変えて行く必要があります。

しかし、不易流行と言われるように、人事制度でも、“変える必要のあるもの”と“変える必要がないもの”があるのは事実です。では、人事制度で変える必要のないものとは何でしょうか?

言い換えれば、人事制度の普遍的な考えとは一体どのようなものでしょうか?

人事制度を設計する上で普遍的な考えは「欲求」

人事制度の普遍的な考え方を理解して頂くために、人事制度の発展の過程を、マズローの五段階欲求説と照らし合わせて説明します。

マズローの欲求5段階説から見る労働に対する報酬の変化

生理的欲求

明治時代の住み込みによる雇用形態は、働くことに対する報酬として、雇う側は物質的な生活基盤を提供していました。

すなわち、労働に対する報酬は、生活の基本となる衣食住の生理的欲求を満たすことであったと考えられます。

安全欲求

大正時代から昭和戦後までに確立された報酬制度が、生活給という考え方です。この生活給に代表されるように、この時代の働くことに対する報酬は、生涯に渡って安心して暮らすことができるという金銭の提供でした。

すなわち、労働に対する報酬は、金銭的に生活が保障がされるという安全欲求を満たすことであったと考えられます。

社会的欲求

戦後の高度経済成長期には、欧米から入ってきた職務給という考え方と、従来からの生活の基盤となる生活給の考え方が、職能資格等級という日本独自の制度を生み出します。

この高度経済成長期には、完全失業率も1%程度にまで低下し、いわゆる労働市場は、売り手市場となり、雇う側は、雇われる側の欲求に応える必要性が出てきます。

その結果として、「部長になりたい」などの“役職”という社内での地位であったり、「有名企業に就職したい」といった社会的な地位が、雇われる側の欲求として表面化してきたと考えらえれます。

これはすなわち、労働に対する報酬は、一種の社会的欲求を満たすことにあったと考えられます。

承認欲求

高度経済成長からバブル崩壊後は、完全失業率は5%を上回り、この時期にいわゆる成果主義という考え方が流行りました。これは、企業側の人件費を削減したいという意図もあったかと思います。

しかし、雇われる側からみると、社内での役職という立場や、有名企業への就職と言った社会的欲求から、労働に対する報酬として、一個人として「働いている自分を正当に評価して欲しい」という承認欲求を満たすことに変化したと考えることができます。

自己実現欲求

そして近年、働き方も多様化しており、フリーランスとして企業に所属しない働き方や、学生で起業するなど、自己実現することを目的として働き方を選ぶ傾向になりつつあるのではないでしょうか。

つまり、労働に対する報酬が、自己実現欲求を満たすためであるという価値観に変わっていると理解することができるのではないでしょうか。

マズローの欲求5段階説と労働に対する報酬の考え方について、下図にようにまとめられると考えられます。

まとめ

制度変革の歴史とマズローの欲求5段階説から、人事制度で大切にして頂きたい考えを説明しました。そして、会社が雇う側として人事制度を考える場合、雇われる側である社員の5大欲求を満足する制度内容とする必要があると、私は考えています。

すなわち、仕事(労働)することに対する社員への報酬として、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求のそれぞれの欲求について、自社の人事制度は、どのように応えているかを考える必要があると思います。

では、実際にこれらの欲求にどのように応えるべきかを理解して頂くために、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」を是非、参考にして頂きたいと思います。

このハーズバーグの二要因理論については「ハーズバーグの二要因理論で社員満足度を考える」について、別途説明しています。是非、合わせてご一読下さい。

具体的な人事制度は、それらを言語化した一つの形にしかすぎません。人事制度というと、等級制度や評価制度に焦点が当たる傾向にありますが、制度の中に存在する、その意図・意味について十分に考えて頂く必要があると思います。

今回のブログが、人事制度について改めて考えて頂く機会になっておれば幸いです。

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