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2020.08.07

「ほめる」のではなく「認める」

「ほめる」のではなく「認める」

子育てでも社員育成でも「ほめて伸ばす」という言葉を聞くことがあります。また、「自分はほめられて伸びるタイプだ」という方もいます。一見、正しいように聞こえるこれらの言葉は、本当に正しいのでしょうか?

結論から申し上げると、育成のための“手段”として「ほめる」こと自体は問題ではありません。しかし、「ほめる」ことが“目的”となってしまっては問題が生じます。

ここで、“手段”と“目的”という言葉を使いましたが、手段とは「やり方」であり、目的とは「考え方」です。

今回は、“手段”として「ほめる」を使うこと、“目的”として「ほめる」を使うこと、この2つの違いについて説明し、本当の意味での育成とは「認める」ことであることを説明していきます。

「ほめる」と「認める」の違い

「ほめる」の使い方の違いを説明する前に、まずは「ほめる」とよく比較される「認める」との違いについて説明します。

「認める」とは、事実・存在をそのまま相手に伝えることであり、肯定・否定に関わらず評価を含みません。言い換えると、「認める」とは、相手のありのままの存在や、起きた事実を、ただそのまま受け止めることです。相手を他の誰かと比較することや、起きた事実に対する評価や批判を含みません。

「ほめる」とは、事実に対して良い点や成果を取り上げ、相手を肯定的に評価することです。言い換えれば、「ほめる」とは「事実を認め、良いことを肯定的に評価する」ことです。

一方、「ほめる」の反意語の一つとして「とがめる」という言葉があります。この「とがめる」とは、事実に対して悪い点や失敗を取り上げ、相手を否定的に評価することです。つまり、「とがめる」とは「事実を認め、悪いことを否定的に評価する」ことです。

以上から、「ほめる」とは、認めた上で肯定的に評価することであり、「とがめる」とは、認めた上で否定的な評価を下すことです。このことから、「ほめる」と「とがめる」の前段階に「認める」があります。

何故、「ほめる」が“目的”になってはいけないのか?

“手段”としての「ほめる」と、“目的”としての「ほめる」

“手段”としての「ほめる」とは、つまり、コミュニケーションのひとつの方法として相手を「ほめる」ことです。つまり、“手段”としての「ほめる」は、相手をほめる時もあれば、ほめない時もあります。

一方、“目的”としての「ほめる」は、基本的に「ほめる」を使うことで相手とコミュニケーションを取ることを言います。つまり、どんな時でも相手を「ほめる」ことが基本となります。

言い換えれば、“手段”としての「ほめる」は、時と場合によって「ほめる」を使う。“目的”としての「ほめる」は、常に「ほめる」を使うこと。と整理することができます。

“目的”としての「ほめる」による弊害

「ほめる」ことは「良いことを肯定的に評価する」ことであると述べました。つまり、“目的”として「ほめる」ことは、「常に良いことを肯定的に評価する」ということです。

その結果、“目的”として「ほめる」を使っている会社では、「悪いことは評価せずに、良いことだけを評価する」ことを実践されている場合が多く見受けられます。

つまり、そのような会社は、社員に対して「悪いこと(失敗)が起きても、その失敗をとがめるのではなく、良かったこと(できたこと)を取り上げて、そのできたことをほめましょう」と教えられています。この教えを社員が素直に守ると、どうなるか?

上司は、ほめ疲れてしまう

上司は、「良いことを肯定的に評価して、常にほめなければいけない」と考えますが、会社業務では良いことばかり起きるわけではありません。その結果、真面目な上司では、以下のような症状が出てきます。

  • 部下の新しく「ほめる」点が見当たらなくなり、「ほめる」点を見つけるのに苦労する。
  • 新しく「ほめる」点がないと、同じ点を「ほめる」ようになる。
  • 最終的に、心から「ほめる」ことができず、「ほめる」ことに苦悩する。

先ほど、「ほめる」ということは「良いところを肯定的に評価する」ことと定義しました。もう少し踏み込んだ表現を用いるなら、「ほめる」ということは、「達成したことや成長した部分を認めて、評価すること」です。つまり、会社で常に「ほめる」ためには、社員に成長し続けてもらう必要があります。

しかし、常に成長を続けることはできません。確かに、入社間もない時期は、著しい成長が認められ、「ほめる」ことも容易だと思います。ところが、社員の成長が停滞した時にも「ほめる」となると良い所を探すことが難しくなってきます。

そして、新たに「ほめる」点を見つけることができなければ、同じ所を「ほめる」ことになります。ここで、真面目な上司ほど、同じ言葉で「ほめる」ことを避けようとして、違う言葉で「ほめる」ことを試みようとします。

しかし、「ほめる」言葉としては、「すごい」「さすが」「上手」「えらい」など元々数が少ないため、上司は「ほめる」言葉を絞り出すことになります。この絞り出すことで、嘘っぽく「ほめる」ことになります。

その結果、心からほめなければいけないと真面目に「ほめる」上司ほど、「ほめる」ことに対して苦悩し始めます。最終的に、「ほめる」こと自体が重荷になってしまいます。いわゆる、ほめ疲れです。

部下は、ほめ慣れてしまう

部下の立場で、常にほめられると、失敗がとがめられないため、「失敗しても良い・問題ない」という考えに至っても不思議ではありません。

特に、「ほめる」言葉として、「よくやった」「頑張った」も「ほめる」言葉に含まれますが、この「よくやった」「頑張った」という言葉を掛けられると、部下は「今やっていることで、いいのだ」「現状で評価してもらっている」と勘違いしてしまいます。その結果、「ほめる」ことが「おだてる」になる可能性があります。

そして、それが常態化してしまうと、「悪いこと(失敗したこと)」は棚に上げて、「ここまでやったのだから、私はほめられて当然だ」とか「ここまでやったのに、ほめてくれなかった」という風に、ほめられること自体を求めてしまい、それが叶わないことによって反対に不満が高まる危険性があります。

社員育成の本来の考え方

会社経営している中では、必ず良いことも悪いこともあります。良いことは、更に改良していく必要があります。また、悪いことは改善していく必要があります。つまり、会社では、良いことも悪いことも、会社の成長に変えていく必要があるはずです。

しかし、“目的”として「ほめる」を使ってしまうと、最悪な場合「悪いことは無視して、良いことは肯定的に評価する」という状態に陥ってしまいます。

社員が一番成長する時は、失敗を乗り越えた時です。つまり、本来の育成は、「失敗しても良い・問題ない」だけど、「その失敗を次にどう生かすか?」を同時に問うことです。

元々、社員の成長を促すために「ほめる」を使っていたはずです。それが、「ほめる」ことが“目的”となるような使い方になってしまうと、社員の成長を妨げる結果になることは、十分に理解する必要があります。

「ほめる」ことを“目的”するのではなく、良いことも悪いことも「認める」。その上で、良いことに対しては「ほめる」を“手段”として使う。という意識が極めて大事です。

「認める」ことの意味

「認める」ことは評価ではありません。「ほめる」ことよりも、じわじわと本人の内面から気持ちが湧き上がるような、持続力のある意欲を喚起します。なぜなら、「認める」ことが「自信」に繋がるからです。

「自信」とは、「自己肯定感」と「自己効力感」で構成されています。「自己肯定感」とは「自分大好き!」という存在承認であり、「自己効力感」は「自分はできる!」という意欲承認・行動承認・成果承認です。詳しくは、こちら「組織を強くする「自信」」をご確認下さい。

つまり、これらの「認める(承認)」により、人は安心感を持ち、自分自身をより信頼する気持ちが生まれます。安心感を得ると、次の目標へ向けて前向きな行動を起こすことができるようになります。また、自己信頼が増すことで、失敗にも立ち向かえるにようになります。

具体的な「認める」行為

「認める」は、「ほめる」よりも簡単です。「ほめる」とは、良いところを評価して、相手が嬉しくなる言葉を伝える必要がありますが、「認める」とは、事実・存在をそのまま相手に伝えることです。

具体的な行為について、「自己肯定感」の存在承認と、「自己効力感」の意欲承認・行動承認・成果承認に分けて説明します。

存在承認という「認める」行為

普段の何気ない動作でも相手を「認める」ことに繋がります。特に近年では、目を見て話をする人は少ないと言われています。社員が声を掛けてきたときに、パソコン画面や資料を見ながら話をしているという方は、相手を見ることを意識してください。他の具体的な行為も合わせて、以下に記します。

  • 目を見て話をする
  • 挨拶をする、挨拶を返す
  • 仕事を任せる
  • 意見を聞く
  • 人に紹介する際に良い点をアピールする

意欲承認・行動承認・結果承認という「認める」行為

相手の行為自体をリフレーミング(オウム返し)することも「認める」行為です。このため、「ほめる」のように表現が枯渇することはなく、言葉を探す必要はありません。

具体的には、まずは事実を受け止めて「認める」だけです。例えば、お願いしていた資料を社員が持ってきたらシーンでは、以下のようになります。

社員 :「資料ができました」
あなた:「資料ができたね」(事実のリフレーミング)

そして、可能なら、自分の気持ちを添えて、相手が嬉しい言葉を伝えることができれば、更に良いです。具体的には、以下のステップで社員を認めることができます。

あなた:「資料ができたね、助かるよ!」(事実+自分の気持ち)
あなた:「資料ができたね、助かるよ、さすがだね!」(事実+自分の気持ち+相手が嬉しい褒め言葉)

まとめ

「ほめる」は、コンサルタントや研修講師の方がよく使われる言葉です。様々なところで「社員を育成するために、ほめましょう」というアドバイスは聞いたことがあるかと思います。しかし、この言葉をそのまま鵜呑みしてはいけません。

何故なら、コンサルタントや研修講師は「ほめる」ことを育成の“手段”として提案しています。しかし、短時間での研修内での説明や、聴き手の受け取り方によっては、「ほめる」ことを積極的に使う必要があると勘違いしてしまいます。その結果、最終的に「ほめる」ことを“目的”にしてしまう可能性があります。

あくまでも、「ほめる」は“手段”であることを十分に理解する必要があります。繰り返しますが、本来の社員の成長には「認める」ことが重要です。何故なら、「認める」こと自体が、社員の「自信」に繋がり、その「自信」が社員の自己成長を促すからです。

また、コンサルタントが「ほめる」を積極的に使えるのは、社外の人間だからです。コンサルタントは毎日社員と接することがありません。そのため、社員の良いところを見つけやすい立場と言えます。

特に、従来の育成方法で成長が止まっている社員に対して、コンサルティングの初期に「ほめる」ことは非常に効果的であるため、「ほめる」ことが正しい育成方法だと間違った認識を引き起こします。

そして、何より、コンサルタントは一時的な関係です。コンサルタントがいなくなった途端に、「ほめる」ことができなくなった会社は多いです。何故なら、上述のように「ほめる」ことを継続することは難しいからです。

一方、あなたを含め、社内の人間は、毎日社員と接するため、良い所も悪い所も見えています。また毎日接しているため、社員の変化に気付きにくい立場でもあります。

これは、あなたのご両親があなたのお子さん(ご両親にとって孫)と久しぶりに会って、交わす以下のようなシーンに似ています。

シーン1
ご両親:「ちょっと会わない間に、大きくなったね~
あなた:「そうかな?毎日見ているから、実感が湧かないわ

シーン2
ご両親:「久しぶりに会ったし、何でも欲しいものを買ってあげるよ
あなた:「買ってくれるのは嬉しいけど、あまり、甘やかさないでね

つまり、たまに会うからこそ、成長に気付くことができたり、会う前から「何か喜ぶことをしてあげよう」という心づもりでいるからこそ、実際に会った時に、直ぐに相手が喜ぶ言葉がかけられるのです。

しかし、家族でも、社員でも毎日顔を合わせている関係では、よほど注意していなければ変化を見つけることは難しいのです。また、悪い所も見え、その悪い所を直して欲しいと思うからこそ、なかなか素直に良い所をほめられないのだと思います。

「ほめる」を使う時は、使う側が、この一連の内容を十分に理解して頂く必要があります。しかしながら、「ほめる」という“手段”が独り歩きしてしまい、多くの方が間違った「ほめる」の使い方をしています。

あなたは、「認める」と「ほめる」の違いを十分に理解されて、「ほめる」を使われていますか?

社員の自立した成長を促したいのであれば、「自信」を醸成する必要があります。この「自信」を醸成するためには、「認める(承認)」が必要です。是非、社員育成に必要な「正しい考え方」を身に付けて頂ければと思います。

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