何か物事に取り組む時に「モチベーション」という言葉がよく使われます。
・モチベーションを上げる
・モチベーションを維持する
あなたも、会社でこれらの言葉を使われたことがあるのではないでしょうか。
では、質問です。
社員のモチベーションを上げたらどうなりますか?
当然、社員のモチベーションを上げたら「社員が自発的に動いてくれる」と考えたでしょうか。
では、その後は?
今回、人事コンサルタントの立場から、多くの経営者がよく使われる「モチベーションを上げる」ことの危険性を説明し、経営者が「上げるべきもの」を提示します。
モチベーションは上げるな!
さて、改めて、経営者の多くが「社員のモチベーションを上げるには、どうしたらいいか?」とモチベーションを上げることを前提にしています。
しかし、そのように考える経営者が見落としているのが「上がったモチベーションは必ず下がる」という事実です。
何らかの施策で、社員のモチベーションが上がるかもしれません。しかし、その状態に慣れてしまえば、その後は時間経過とともに、上がったモチベ―ションは下がります。
そのため、その次に「モチベーションを維持する」という言葉が出てきます。
しかし、そのモチベーションを維持する(下がった状態を上げる)ために、更に次の施策を打つ必要が出てくる。そして、その施策の効果が薄くなったら、また次の施策を打つ必要が出てくる。
このように、一度、「モチベーションを上げる」ことに焦点を合わせると、常に「モチベーションを上げる」ことを考え続けることになります。
経営者が社員のモチベーションを上げる施策を考えるために時間を取られて、経営者の本来の仕事ができなくなるのは本末転倒です。
この観点から、人事コンサルタントの立場で常にお伝えしていることは、モチベーションを上げようと考えてはいけないということです。
確かに、人が行動するためには、その動機付けはとても重要です。その点で、「モチベーション」は大切だと思います。
でも、あえて言います。経営者が社員の「モチベーションを上げる」ことを意識してはいけません。
上げるのは「行動基準」
では、何を上げるのか?それが「行動基準」です。
もし、あなたが「社員のモチベーションを上げるには?」と悩まれていたのであれば、是非、「社員の行動基準を上げるには?」と問いを変えて下さい。
この行動基準とは「会社が求める行動基準」であり、「会社としての当たり前の行動基準」です。
社員の行動基準を上げるには?
上げるのは「行動基準」だとは言っても、社員の方はその「行動基準」通りに動いてくれない、というのも事実。そして、イライラする。あなたはそんなことはありませんか?
「すべての人の悩みは対人関係の悩みである」と言ったのは心理学者のアドラー。
この言葉を少し読み替えると、「目の前の人が、自分が期待した反応を示さないから人はイライラする」のではないでしょうか。
子どもに怒るのも、結局は、自分の思い通りに動いていなから、という理由。妻にイライラするのも、結局は、期待していたことを妻がやってくれていなかったから。
繰り返すと、自分が期待している基準に対して、満足するレベルに達していないから、怒ったり、イライラするのです。
メキシコ人と韓国人の基準
ここで注意しなければいけないのは「行動基準」は人それぞれです。
例えば「時間」
今でこそ、日本では時間に厳しい国となり、「電車は定刻通りの運行が常識」となり、海外でお手本にされるぐらいです。
しかし、幕末は、オランダ人から「日本人の悠長さは呆れるくらい」と言われるほどだったといいます。そして、現代でも国によって「時間」の基準は異なります。
メキシコでは、会議の時間より30分遅れるのは珍しいことではないそうです。一方で、韓国では、時間厳守に重い価値を置き、遅刻することは失礼なことと見なされます。
このような「時間」の基準が異なる韓国人とメキシコ人が会議をした時、時間に遅れてくるメキシコ人に韓国人がイライラしても、メキシコ人はどこ吹く風です。
この例でお伝えしたいことは、会社経営では、社員の「行動基準」を上げなければいけませんが、あなたは、「会社が求める行動基準」を明確に伝えられていますか?ということ。
人事制度で「会社が求める行動基準」を示す
会社経営では、この「会社が求める行動基準」をまとめたものが人事制度です。
あなたの会社には、人事制度がありますか?そして、人事制度に「会社が求める行動基準」が明確に示されていますか?
そして、社員にそれが伝わっていますか?
伝えていないのに、「社員が思い通りに行動しない」というのは、韓国人がメキシコ人に対して、会議に遅れてイライラするのと同じです。
「休まず、出勤して下さいね」という行動基準
さて、人事制度における「会社が求める行動基準」、つまり「会社の当たり前の行動基準」について考えてみます。
例えば、給与手当に「皆勤手当」があります。この皆勤手当は、所定の期間、1日も欠かさず出勤したときに支給する手当です。
つまり、「休まず、出勤して下さいね」「遅刻、早退がなければ、奨励金を出します」という会社からのメッセージです。
逆に言うと、皆勤手当てを支給している会社の当たり前の行動基準は、「欠勤・遅刻・早退がゼロ」ではなく、「欠勤・遅刻・早退がある」という状態。
あなたの会社では、どちらを会社の当たり前の行動基準としますか?
給与手当に「皆勤手当」があったら、一度、考えてみて下さい。
行動基準は時代とともに変わる
なお、皆勤手当は歴史的に必要な時期がありました。しかし、歴史と共に当たり前の基準は変わります。つまり、時代と共に人事制度も変えていく必要があります。
基準がなければ、まずは基準をつくる必要がありますが、一度定めた基準が今の会社の実態に合っているかの見直しは常に必要です。
そして、「会社の求める行動基準」を明確に示していても、社員が期待通りに行動してくれない場合もあります。
その時は、どうすればいいのか?
行動基準を元に人事評価する
それは人事評価で評価を下すだけのことです。
まずは「会社が求める行動基準」を示す。そして、その「基準」に基づいて評価を下す。社員の「行動基準」を上げるためには、この繰り返しが必要です。
これが人事制度を運用する上で、重要な視点です。是非一度、この繰り返しができているか、考えてみて下さい。