BLOG

ブログ

2020.06.11

ハーズバーグの二要因理論で社員満足度を考える

ハーズバーグの二要因理論で社員満足度を考える

あなたは「ハーズバーグの二要因理論」という言葉を耳にしたことありますか?

これは、人事労務管理に大きな示唆を与えてくれる理論です。今回、この理論から、あなたの会社をより良い会社にする方法を学んで頂ければと思います。

ハーズバーグの二要因理論(Herzberg’s theory of motivation)

ハーズバーグの二要因理論は、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg)が、19世紀に発表した「How do you motivate your employees?(邦題:モチベーションとは何か?)」という論文で提唱した理論です。

このハーズバーグの二要因理論により、仕事においてどのようなことが社員の満足する要因となり、逆に社員の不満足となる要因であるのかが、明確に示されるようになりました。

ハーズバーグが二要因理論を提唱した時代背景

このハーズバーグの二要因理論が提唱された19世紀当時は、急速に産業化が進み、個々の生産効率を最大限に発揮することが重要視されていた時代です。

ハーズバーグは個々の生産効率を上げるために、仕事への態度を決める要因は何なのか、仕事への満足度やモチベーションを決める要因は何なのかを研究し始めたのが始まりです。

そして、1959年にハーズバーグとピッツバーグ心理学研究所が行った調査における分析結果から、この二要因理論が導き出されました。

ハーズバーグの二要因理論の調査方法・結果

ハーズバーグは調査の方法に「臨界事象法」と呼ばれる方法を用いました。

この「臨界事象法」は、被験者に対して、過去の出来事のうち、特に印象深い、好ましいもしくは好ましくない出来事について詳細に調査する調査方法の1つです。

具体的には、約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上どのようなことによって幸福と感じ、また満足を感じたか」「どのようなことによって不幸や不満を感じたか」というインタビューを行い、これまで職場で得られた良い感情、あるいは悪い感情を引き起こした出来事を思い出してもらいました。

そして、そのような感情が引き起こされた理由、その感情が本人の態度に及ぼした影響を詳しく語ってもらいました。

最終的に、このインタビュー調査から抽出された5000もの具体的な動機付けに関する内容を「達成すること」や「承認されること」などの抽象的な要素に落とし込みました。

その結果、社員が感じる仕事への満足度やモチベーションを決める要因には2つの種類があることを明らかにしました。そして、それぞれの要因が社員の行動に及ぼす作用が異なることがわかったのです。

ハーズバーグは仕事そのものと社内環境の2つの要因を明らかにした

この研究結果から、ハーズバーグは人事労務管理に必要な要素を「動機付け要因(Motivator Factors)」と「衛生要因(Hygiene Factors)」の2種類に分けて考えるべきだと提唱しました

この2つの要因の言葉を用いて、ハーズバーグの二要因理論は、ハーズバーグの動機付け・衛生要因理論とも呼ばれます。

実際、ハーズバーグの二要因理論は、「フレックスタイム制」や、社員が何種類かの福利厚生施策を自由に組み合わせる「カフェテリア・プラン」など、現在の数々のシステム誕生に貢献しています。

動機付け要因は、満足に繋がる要因

ハーズバーグが提唱した動機付け要因とは、達成すること・承認されること・仕事そのもの・責任・昇進・(向上)といった、仕事の満足度に関わる要素です。つまり、人が仕事に満足を感じる時は、仕事そのものに向いていることがわかりました。

そして、これらが満たされると仕事に「やりがい」などの満足感を得ることができますが、逆に欠けていても仕事に対して不満足を引き起こすわけでないことも判明しました。

すなわち、動機付け要因は、「ないからといってすぐに不満が出るものではない」が、「あればあるほど仕事に前向きになる」要素です。言い換えれば、動機付け要因は、仕事の満足に繋がる「満足要因」と言えます。

衛生要因は、不満足に繋がる要因

一方、衛生要因とは、給与・福利厚生・経営方針・管理体制・同僚との人間関係・監督(上司との関係など)といった、仕事の不満に関わる要素です。つまり、人が仕事に不満を感じる時は、その人の関心は自分の社内環境に向いていることがわかりました。

これらが不足すると仕事に対して不満足を引き起こします。しかし、満たされたからといっても満足につながるわけではありません。この要素は、単に不満足を予防する意味しかないことが判明しました。

すなわち、衛生要因は、「整備されていないと社員が不満を感じる」が、「整備していても満足につながるわけではない」要素です。言い換えれば、衛生要因は、社員の不満足に繋がる「不満足要因」と言えます。

満足と不満足は対極にあるのではない

一見すると、「満足」と「不満足」という言葉は、対極にあると考えてしまいます。

すなわち、あなたは「社員が満足できなければ、社員の不満につながる」、「社員の不満を解消すると、社員が満足してくれる」と考えていないでしょうか?

しかし、「動機付け要因(満足要因)」と「衛生要因(不満足要因)」は対極にある要素ではないことを示してくれます。

つまり、動機付け要因と衛生要因が示すことは、「満足」の反対は「満足でない」ということであり、「不満足」の反対は「不満足でない」ということです。

繰り返しとなりますが、仕事における社員の満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではありません。

いわば、このハーズバーグの二要因理論は、社員の「満足」に関わる要因(動機付け要因)と社員の「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別の次元で考えることが重要であるということを示しています。

具体的には、給与に不満がある状態で仕事の成果を褒められたとしても、「褒め言葉はいいから給料を上げてくれ」と思うのではないでしょうか。

逆に、やりがいや将来性を感じられないような仕事では、給与に不満が無くても「今の仕事を続けていていいのだろうか」という不安感やモチベーションが低下する恐れがあります。

その結果、「それなりの給与なのに、何故、彼は辞めてしまったのか?」というような、優秀な社員の思わぬ離職や転職につながることになります。

社員の満足度を上げるために、動機付け要因と衛生要因の関係性を理解する

社員の満足度を上げるためには、動機付け要因と衛生要因のどちらか一方だけ満たせばよいというわけでありません。

社員のモチベーションを上手に扱う上では、まずは、この「不満足の反対」が「不満足でない」という点を十分に理解することが必要です。

つまり、仕事に満足してもらおうとして、衛生要因を解消したとしても「不満がなくなる」のであって、決して「満足する」わけではありません。

更に、衛生要因である「給与」や「福利厚生」は、不足・悪化すると不満足を引き起こす要素ですが、求める水準を超えて改善してもあまり影響がなくなります。

一方、動機付け要因である「達成」や「承認」は、仕事の満足度を高める上で重要な要素ですが、衛生要因が満たされていない状態では、動機付け要因だけ満たしても限定的な効果しか得られません。

すなわち、動機付け要因と衛生要因の両方の課題を解決する必要がありますが、衛生要因における課題を解決した上で、動機付け要因を満たす必要があります。

マズロー欲求5段階説を合わせて理解する

この衛生要因を解決した上で、動機付け要因を満たすという順番は、マズローの欲求5段階説と合わせて考えて頂くことで、このハーズバーグの二要因理論の理解が進むと思います。

すなわち、衛生要因は、マズローの欲求段階説でいうと、「生理的欲求」「安全・安定欲求」と「社会的欲求の一部」の欲求を満たすものと対応付けて考えることができます。

また、動機付け要因は、マズローの欲求段階説でいうと「自己実現欲求」「自尊欲求」さらに「社会的欲求の一部」に該当する欲求を満たすもの対応付けることができます。

マズローの5段階欲求説は、下位層の欲求から満たされる必要があると説かれています。この点からも、衛生要因の課題を解決した上で、動機付け要因を同時に満たしていく必要があることを理解して頂けると思います。

社員の満足度を上げるための具体的な方法

ここまでお読み頂いたあなたは、是非、会社の社員満足度を上げたいと考えて頂いていると思います。

そのために、まずは、この「動機付け要因」と「衛生要因」の2軸を使い、各領域の会社の特徴を整理してみます。

現時点で、あなたの会社はどの領域に存在するとお考えでしょうか?これまで説明してきた、「動機付け要因」と「衛生要因」を考え、整理してみてください。

  • タイプA:動機づけ要因が満たされ、衛生要因の課題も解決している「健全ホワイト企業」
  • タイプB:動機づけ要因は満たされているが、衛生要因の課題は解決できていない「やりがい搾取企業」
  • タイプC:動機づけ要因は満たされていないが、衛生要因の課題が解決されている「ぬるま湯企業」
  • タイプD:動機づけ要因も満たされず、衛生要因の課題も解決されていない「闇のブラック企業」

如何でしたでしょうか?

以下では、あなたの会社をタイプAに変えていく、また現時点でタイプAであっても更に会社をより良く改革していくためのやり方について説明していきます。

ハーズバーグの二要因理論をマネジメントに活用する方法とは?

ハーズバーグの二要因理論を活用して、タイプAの会社にしていくために、動機付け要因と衛生要因が社員に対してどのような影響を与えるかについて、改めて説明します。

動機付け要因が与える具体的な影響とは?

動機付け要因は、簡単に言えばいわゆる「やりがい」と呼ばれる要素で、生産性に直接関わる要因です。

「やりがいのある仕事です!」という募集がブラック企業の決まり文句のような扱いをされているように、悪く言えば「やりがい搾取」に関わる要因ですが、動機付け要因が満たされていない職場では優秀な人材はやりがいのある仕事を求めて離職してしまいます。

衛生要因が与える具体的な影響とは?

衛生要因は「きちんとしていないと社員の意欲が落ちる」要因です。

給与や福利厚生が満たされていない状態では、いくらやりがいのある仕事であっても、ほとんどの人は生活のために離職を選びます。

ただし、多少給与が低くてもやりがいのある仕事をしたがる人が多いように、一定の水準さえ満たしていれば衛生要因よりも動機付け要因が重要になる点に注意が必要です。

社員の満足度を高めるためには、正しい認識と正しい施策が必要

ここで気を付けて頂きたいのは、より良い会社にしていくために、社員の満足度を上げようと考えた時、「やりがい搾取企業」ほど、さらに動機づけ要因を強化して社員の満足度を高めようとする会社が多い傾向にあります。

また一方で、「ぬるま湯企業」ほど、さらに衛生要因を強化しようとする会社が多い傾向にあります。

これまでに説明してきたように、「やりがい搾取企業」がさらに動機づけ要因を強化しても「健全ホワイト企業」の領域には到達しません。また、同じように「ぬるま湯企業」がさらに衛生要因を強化しても「健全ホワイト企業」にはなれません。

このように、間違った対応を取ってしまう原因は、過去の成功にある可能性があります。つまり、過去に動機づけ要因または衛生要因のどちらか一方を強化して、良い結果が得られた経験が、同じ対応を取る行動を取らせてしまうのだと思います。

しかし、上記の4つのタイプに分類したように、動機づけ要因が高い会社は、衛生要因を強化する必要があます。

また、衛生要因が高い会社は、動機づけ要因の強化に注力する必要があります。

自社分析の効果的かつ具体的なやり方は「社員に聞く」

経営者の立場では、なかなか現状を把握して、自社が4つのどの領域に存在するかを確認することが困難である可能性が考えられます。そして、具体的に何をどのように改革していけば良いか分からないことも予想されます。

そのような時、一番効果的で具体的なやり方は、「社員に実態を聞く」ということです。例えば、まずはあなた自身で考えて、4つのどの領域に存在するのかを考えた上で、その後に社員にも(匿名で)「どの位置にあると感じているか」ということを、シールを張って表現してもらうやり方が考えられます。

また、冒頭で説明したように、ハーズバーグは調査の方法に「臨界事象法」を用いました。この「臨界事象法」は、被験者に対して、過去の出来事のうち、特に印象深い、好ましいもしくは好ましくない出来事について詳細に調査する調査方法の1つですが、同様に、社員にインタビューするやり方も考えられます。

いずれにせよ、「今、社員が満足しているか?不満足を感じているか?」を直接確認することが、第一歩です。

まとめ

ハーズバーグの二要因理論は新しいものではなく、今から半世紀以上前に提唱されたものです。

しかし、この理論を知っている方は少ないと思います。なぜか?その理由の一つとして、当時から学術研究としての調査方法や結論の導き方に対する批判が多くあったことが挙げられます。

しかしながら、社員の満足度を上げるという、経営者として目の前の大きな課題の前では「満足」と「不満足」が同軸上に存在すのではなく、別々の軸上にある。すなわち両者は次元が異なるという考え方は、大変気づきが大きい理論ではないでしょうか。

まずは、あなたの会社でも、この動機付け要因と衛生要因の二つを区別して社内の状況を整理することで、新たな視点が得られことを期待しています。

そして、客観的に見つめ直すことで、より社員の満足度が高い会社にしていくためには、動機付け要因と衛生要因の両方を改善していく、継続的な取組みの必要性を感じて頂き、明日からの活動の気付きにして頂ければ幸いです。

 

追伸:最後まで読んで頂いて、「給与」は衛生要因なのか?動機付け要因なのではないか?と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。この話については、別途機会を改めて説明したいと思います。

BLOG LIST