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2023.01.22

評価基準の明確化は半分だけ正しい

評価基準の明確化は半分だけ正しい

経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」の中で、最も重要な経営資源が「ヒト」であることは、誰しもが容易に想像できると思います。

この最も重要な経営資源の「ヒト」に関する仕組みが人事制度です。すなわち、人事制度は、極めて重要な経営の仕組みです。

なお、この人事制度は等級制度・報酬制度・評価制度の3つの制度によって成り立ちます。そして、これら3つの制度が上手く連動することによって、「ヒト」に関する経営の仕組みとして機能します。

時々、「人事評価制度」という言葉で、評価制度のみをサポートする専門家がいますが、やはり、3つの制度の関係性が極めて重要です。

評価制度の2つの目的

さて、今回は人事制度の中でも「評価制度」についてお話します。この「評価制度」には、色々な目的が考えられますが、私が特にお伝えしたいのは、次の2点。

・価値観の共有化
・人材育成

価値観の共有化

様々な人間が何かの縁で繋がって、一つの会社で働く際、皆が好き勝手動いていては、会社経営は成り立ちません。

様々な個性を持つ人間が集まって、共通の目的・目標を達成するには、「価値観の共有化」が大事です。ここでの「価値観」とは、会社で大事にしていることや行動基準とも言えます。

この「価値観の共有化」が、評価制度の目的の一つです。

人材育成

そして、もう一つの評価制度の目的が「人材育成」です。

「人材育成」とは、社員の育成のことですが、評価制度では、「上司(評価者)の育成」が特に重要です。

多くの会社で評価制度が上手く機能していない話をよく耳にします。これは、「上司(評価者)の育成」ができていないことが原因です。

つまり、評価制度が上手く機能していない理由は、上司が間違った認識で、部下を評価しているからです。

評価の「甘い・辛い」を使っていませんか?

多くの企業では、評価の場面で「甘い・辛い」という言葉を使う傾向にあります。あなたの会社でも「甘い・辛い」という言葉を使っていませんか?

しかし、実は、この「甘い・辛い」は、典型的な評価の誤った認識をしている時の表現と言えます。

どういうことか?

人事評価とは、「上司の主観で部下を評価する」のではありません。
本来、人事評価とは、「上司が会社を代表して部下を評価する」のです。

評価の「甘い・辛い」という言葉は、評価者である上司たちの主観の違いを表現しています。

本来、上司によって部下の評価が変わるということがあってはいけません。同じ部下に対しては、上司が変わっても同じ評価である必要があります。

しかし、上司の主観で評価することは、上司の価値観、すなわち、上司が仕事で大事にしていることや、上司が考える行動基準で部下を評価していることになります。

つまり、上司が変わると部下の評価が変わるのは、上司の主観で評価しているからです。

個人の価値観が異なることは、当然です。だからこそ、上司の主観を部下の評価に持ち込んではいけないのです。あくまでも、部下の評価は、会社の価値観に基づいて行わなければいけません。

評価の場面で「甘い・辛い」と表現している時点で、上司の主観(価値観)に基づいて評価を行っている。すなわち、評価制度が機能していないことを物語っているのです。

人事評価とは、「上司が会社を代表して部下を評価する」もの。このためには、評価制度の目的でもある会社の「価値観の共有化」が重要となります。

そして、会社の代表として部下を評価するための「価値観の共有化」により、会社で大事にしていることや行動基準が浸透し、その結果、上司の育成、つまり「人材育成」に繋がるのです。

評価基準が不明確だ!という不満

多くの企業において評価制度を上手く運用できていない理由は、評価者である上司が評価について誤った認識をしているからです。

その誤った認識の1つ目が、上述したように、上司の主観で評価していること。つまり、評価は、“会社を代表して”という客観的な視点が必要です。

そして、もう一つの誤った認識が、部下を相対評価していること。

なお、評価制度のルールとして、相対評価を採用する場合もあります。よって、相対評価が全て誤った認識とは言えません。

ただし、相対評価の運用は極めて難しく、よほどの考えがない限り、評価制度に相対評価を採用しない方が無難です。その意味で、意識的に相対評価をルールとして採用している以外は、誤って相対評価をしている可能性が高いです。

不満が出やすい相対評価

どのような誤った相対評価が発生しやすいか。具体的には、以下のような場面が挙げられます。例えば、A君、B君の二人の社員がいて、B君よりA君の方が優秀な社員であったとしましょう。

場面1:「A君は前期から成長が見られない。一方、B君は前期から成長した」
場面2:「A君は優秀だから、もっといい結果を残せたはず。一方、B君は実力なりに結果を残した」

場面1、場面2とも、コメントからは、A君よりもB君の方が高く評価されることは想像して頂けると思います。

でも、現実的にB君よりもA君の方が優秀。本人らも周りもA君の方が優秀だと“認識”している。でも、上述のような相対評価では、B君の方が“評価”されやすくなり、本来優秀なA君は“評価”されにくい。

これでは、A君は面白くありません。「B君よりも自分の方が優秀で、会社への貢献度は高いはずなのに、何故、B君よりも評価が低いのか?」という不満が出るのは容易に想像が付きます。

「一体、どのような基準で評価を下しているのか?評価基準が曖昧だ!」というような社員の不満の声をよく耳にします。それは、このような相対評価を行っていることが理由です。

不満を生みにくい絶対評価

A君のような「評価基準が曖昧だ!」という不満を生まないために、どうしたらよいのか?

それが、会社の評価基準を設けて、その基準に対して絶対評価を行うことです。この絶対評価が「上司が会社を代表して部下を評価する」という意味です。

この評価基準を設け、評価基準に基づいて評価を行うことで、公平な評価制度になります。

 

さて、以上をまとめると、多くの企業で認められる評価制度の誤った認識は大きく2つ。

一つ目が、評価者の主観で評価してしまっていること。
そして、二つ目が、社員を相対評価していること。

あなたの会社では、この二つの観点は大丈夫でしょうか?

評価基準の明確化は半分だけ正しい

評価制度を上手く機能させるためには、上司が客観的に絶対評価を行う必要があります。そのためには、会社としての評価基準を定めることが求められます。しかし、その評価基準を定めることが難しい。

評価制度に対する不満で「評価基準が曖昧だ!」という社員の声がよく挙がります。

この社員の不満を受ける形で、「評価基準の明確化」をうたい、「評価内容の数値化」を提案する評価ツールが出回っています。

しかし、「評価基準の明確化」も「評価内容の数値化」も、実は「価値観の共有化」の方法であり、手段に過ぎません。

すなわち、評価制度における本来の目的は「価値観の共有化」です。

言い換えれば、評価内容を数値化することで評価基準を明確化しやすくなり、その結果、価値観が共有化できる、というわけです。

では、価値観を共有化する方法は、評価基準の明確化しかないのか?

結論から先のお伝えすると、他の方法も存在します。つまり、価値観を共有化するために、評価基準の明確化することは、有効な方法ですが、半分しか正しくありません。

では、残り半分の正しさ何か?

それが、コミュニケーションです。コミュニケーションとは「言葉」や「行動」を用いた意思疎通。「言葉で伝える」「行動で示す」という言葉のように、コミュニケーションを通じて価値観を共有化するということも極めて重要な取組みです。

あなたは、人事評価において、「価値観の共有化」を図るために、評価基準の明確化を図らなければ、とお考えかもしれません。

でも同時に、コミュニケーションによる価値観の共有化が行えていますか?

人事評価するデジタルツールは、便利ですが、便利であるがゆえに、見落とされることも多いのも事実。

是非、この価値観の共有化を図るためのコミュニケーションも忘れないでください。

なお、評価基準の明確化の手段として、数値化以外にも文字化(明文化)もあります。価値観の共有化には、これらの方法、手段を上手く使うことが必要です(具体的なやり方については別途説明します)。

コミュニケーションの場を作る

私がサポートしている人事制度では、この「価値観の共有化」を図るためのコミュニケーションの場として、「人事調整会議」という会議を開催します。

人事調整会議は、「価値観の共有化」という会社で最も大切な場であるため、経営の最重要会議に位置付けています(人事調整会議の詳しい説明は、別途説明します)。

是非、あなたの会社でも「価値観の共有化」を行うためのコミュニケーションの場を設けてみてください。

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