仕事・人生のABCがあります。
それが、
A:あたりまえのことを
B:バカになって
C:ちゃんとやる
これは、経営コンサルタントである小宮一慶氏の書籍タイトル『あたりまえのことをバカになってちゃんとやる』(2009年)です。小宮氏は、「仕事も人生もABCが大事」と説きます。
では、ビジネスを成功させる上での「あたりまえのこと」とは一体何か?
それは、「相手のことを知ること」です。
マーケティングでは、ペルソナやターゲットの設定が大事、と言われます。何故、これらが大事なのか?それは、相手となる「お客さまを知ること」が大事だからです。
また、経営で成果を出すためには人材の適材適所が必要です。そのためには、相手となる「社員を知ること」が必要です。
つまり、ビジネスとは、人と人との関わりによって成立します。そのため、ビジネスを成功させるためには、相手のことを知ることという、あたりまえのことが大事というわけです。
では、何のためにお客さまを知ること、社員を知ることが必要なのか?
それは、お客さまが、自社の商品・サービスを購入する。また、社員が主体的に仕事に取り組む。つまり、これらの相手に行動を起こしてもらうために、相手を知ることが必要なのです。
人の行動原理は快楽原則
人の行動原理は、たった一つと言われています。
つまり、お客さまが、あなたの商品・サービスを購入する理由も、この行動原理によるものです。そして、社員が主体的に仕事に取り組む理由も、この行動原理によるものです。
その行動原理が「快楽原則」です。
この快楽原則は、心理学者のグスタフ・フェヒナーが作り上げ、精神科医のフロイトが取入れた精神分析学の概念です。
具体的には、「人は苦痛を避け、快楽を求めるために行動する」という原則です。
すなわち、お客さまが、あなたの商品・サービスを購入する理由は、苦痛を避けるためであり、快楽を得るためです。そして、社員が、仕事に取り組む理由は、苦痛を避けるためであり、快楽を得るためです。
このどちらかの理由しかありません。
言い換えれば、お客さまを知ることは、
- お客さまが、避けたい苦痛は何か?
- お客さまが、得たい快楽は何か?
を理解することです。
そして、「社員を知ること」は
- 社員が、避けたい苦痛は何か?
- 社員が、得たい快楽は何か?
を理解することです。
お客さまを知る
では、どうすれば、お客さまを知ることができるのか?
それは単純に「お客さまに聞くこと」です。
よく、自社の商品やサービスをPRするときに、社内で自社の強みを洗い出したり、サービスの特徴を考えたりすることがよくあります。
しかし、ここで注意点があります。
お客さまは、あなたの商品・サービスが素晴らしいから、商品・サービスを購入したのではありません。
お客さまが、あなたの商品・サービスを購入したのは、あなたの商品・サービスによって、自分自身の苦痛を避けることができ、快楽を得ることができると思ったからです。
あなたの商品・サービスによって、お客さまが、どのような苦痛を避けることができたのか?どのような快楽を得ることができたのか?
これらは、お客さまに聞くことが最も直接的で効果的な方法です。
社員を知る
経営者のお悩みとして、よく挙げられるのが、社員についての以下のような内容です。
- 「最近の若手は何を考えているかわからない」
- 「なぜ、もっと責任をもって仕事に取り組めないのかわからない」
このお悩みを解決するためにも「あたりまえのこと」である、社員のことを知ることが必要です。
すなわち、社員の避けたい苦痛は何か?得たい快楽は何か?これを知ることが必要です。
可能なら対話を通じて、直接社員の方に聞いてみて下さい。間違いなく断言できることは、社員の方の得たい快楽の一つが、「自己成長」です。
マズローの欲求5段階説にある「自己実現欲求」の一つの形が、この自己成長です。この観点から、社員の方の求めている自己成長とはどのようなものか?
そして、これを理解することが「社員を知ること」のゴールとも言えます。
世代が変われば、考え方や価値観が変わって当然です。
「最近の若手は何を考えているかわからない」「なぜ、もっと責任をもって仕事に取組まないのか?」と現状に頭を抱えるのではなく、
まずは、今の仕事を通じて社員の方が「得たい快楽は何か?」「どのように自己成長したいのか?」という観点で、相手を知ることに時間を割いて下さい。
経営者と社員との関係
「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言ったのは心理学者のアドラー。
つまり、人間という言葉は、文字通り「人の間」を生きる動物ですが、これを「人と人の関係性」と考えた時、経営者という「人」と社員という「人」の「関係性」とは、どのようなことを言うのか。
ここに、経営者と社員との間で常に生じている問題の答えがあると考えています。
具体的には、私は「経営者と社員とは、会社という場を共有して、お互いの自己実現に協力し合う関係」だと考えています。
ここでのお互いの自己実現とは、
経営者の方にとっては、会社の経営理念の実現であり、
社員の方にとっては、自己成長・自己実現と言えます。
つまり、経営者の方にとって、「社員とは、会社の経営理念の実現に力を貸してくれている協力者」であり、社員にとって、「経営者とは、自己成長・自己実現の応援者」であると言えます。
そして、お互いが、お互いの協力者・応援者になるためには、
- まずは、相手がどのようなことを望んでいるのか?
- どのように協力して欲しいのか?
- どのように応援して欲しいのか?
これらを共有することが、お互いの関係性を構築する第一歩だと信じています。
統計が古いですが、中小企業の数は、2016年時点で358万社です。数ある企業の中から、あなたの会社を選んでくれた社員は、とても尊い存在だと思います。
そのような尊い存在のために、経営者として何が協力できるか?
一度そのことについて、社員に聴いてみてください。
さいごに
松下幸之助は、「社員は大事にせんとあかんよ」と説いていました。
「社員を大事にする」
そのことの始まりは、社員を知ることだと思います。
是非、社員の方との対話の時間を取ることを意識してみて下さい。社員との関係性が変われば、きっと社内も変わるはずです。
そして、この相手を知ることの方法が、近年話題となっている「1 on 1ミーティング」です。すなわち、この相手を知ることが重要視されるからこそ、1 on 1ミーティングが注目されているのです。
もし、「1 on 1」にご興味があれば、こちらもお読みください。「時代に合った組織開発法の1 on 1とは」、「1 on 1の基本的なやり方と考え方」