仕事での「報連相=ホウレンソウ」といえば、次の3つを指し、仕事の基本と言われています。
- 報告
- 連絡
- 相談
私は、研修講師として企業の新人研修に登壇することがあります。その新人研修では、必ずと言っていいほど、この「報連相」が研修の項目に入っています。
なお、大手の企業研修では、企業が研修テキストを作成します。研修講師は、そのテキストに沿って研修を行うため、講師独自の考えを伝えることはできません。
そのため、この「報連相」を新人の皆さんにお伝えする時、毎回、歯がゆい思いをします。
なぜ、私が歯がゆい思いをするのか?
それは、報連相の「意図」が、きちんと教えられていないから。
新人研修では、「報連相とは、報告・連絡・相談であること」、ならびに、仕事を進める上で「報連相が大事」という、報連相の「意味」を教えます。
でも、ここでの説明には、報連相の本来の意図、言い換えれば「考え方」が全く伝えられていません。
ちなみに、「報連相」の生みの親である山崎富治氏は、報告・連絡・相談について、以下のように説明しています。
- 上下の報告
- 左右の連絡
- 上下・左右にこだわらない腹を割った相談
「報連相」の本来の意図は、この言葉からも想像が付きますが、この「報連相」という言葉が生まれた経緯も含めて、本ブログでは話題提供していきます。
本ブログを読み終わったころに、あなたの「報連相」に対する意識が変わっていることを期待しています。
報連相が生まれた問題背景
さて、繰り返しとなりますが、「報連相」といえば、今では仕事の基本と言われ、企業の新人研修では必ず取り上げられます。
報連相とは、報告・連絡・相談のことです。新人研修では、それぞれ以下のような意味として教えられます。
報告:部下が上司の指示に取り組みつつ、途中経過を報告すること
連絡:自分の意見や憶測を含めない関係者への状況報告
相談:自分だけで業務上の判断が困難なとき、上司に意見をきくこと
つまり、報連相とは、主に部下から上司への態度・姿勢として説明されることが一般的です。
あなたも、このように理解していませんか?
でも、このような報連相の「使い方」を覚えるだけでは、本来の目的が果たせません。
やはり、大事なのは「考え方」です。
報連相が生まれた瞬間
報連相を生んだのは、山種証券(現SMBC日興証券)の社長・山崎富治氏です。山崎氏は、父・山崎種二が創業した山種証券の社長に1966年に就任し、親子経営で山種グループを率い、その独自路線が話題となりました。
その一つが、「報連相」でした。
では、生みの親である山崎富治氏は、どのような「考え」から、この報連相を思いついたのか?
時は、1980年代、社員の数が一千人を超す規模になり、社員の声が、社長の耳にスムーズに入ってこなくなり、社員の顔を見ても、名前がすぐに浮かんでこなくなった。
社員の様子がわからず、声が伝わりにくくなっていることに、懸念を持ち始めた、と山崎氏はいいます。
これは、社長と社員との関係だけではなく、組織が大きくなったとたん、社内のタテ・ヨコの繋がり、情報の流れがぎくしゃくし始めた、と感じるようになった。
そして、ある時、「社員が他社に引き抜きぬかれる」という決定的な事が起こります。
引き抜きにあった先は、決して魅力があると言えない会社。「それにも関わらず、なぜ、引き抜かれてしまったのか?」
原因は社内に問題があったと考え、山崎氏は原因解明に乗り出します。
その結果、引き抜かれた社員は、日ごろ住宅問題で悩んでおり、「入社二年目では住宅資金の貸付が受けられない」という社内規定の壁にぶつかっていた。これが社員が山種証券を辞めた原因だったのです。
この理由を知った山崎氏は「なんとつまらない理由で…」と憤ったといいます。
「引き抜かれた社員は中途採用で、上司や周りに相談することもできず、孤立していたのではないか?」
また、社内規定も新卒と中途では、規定を杓子定規に適用できないこともあったはず。
そして、情報の流れが停滞したことで、貴重な人材が失われてしまった。
山崎氏は「こんなことが繰り返されるようだと、会社が大きくなったメリットより、下手をすれば、マイナスの方が大きくなってしまうと思った」といいます。
そして、このことが頭につねに引っ掛かって
どうしてもっと、
- 上下の報告がきびきびと行われないものか
- 左右の連携がスムーズにとれないものか
- 上下、左右にこだわらない腹を割った相談がなされないものか
と考えを巡らせていたと云います。
そして、その答えが「報連相」だったのです。
報連相が目指したもの
報連相を生んだ山崎氏の考えの根本には、以下のような信条がありました。
人と人の意思の通いあい、気持ちの通いあいが悪くては、会社がうまくいかない以前に、社長以下、働いている人自身が楽しくない。
もちろん、会社は儲けなければ、企業ではない。しかし、いくら儲けても、楽しくなければ意味がないのではないか。
つまり、山崎氏は、ご自身を含め社員が楽しく働くことができる「風通しの良い会社」を目指して、「報連相」を考えたのです。
決して、新人研修で教えられるような「業務を円滑に進めるため」ではありません。
あなたの会社は、「風通しの良い会社」ですか?
もし、今は「風通しの良い会社」ではないと感じ、「風通しの良い会社」にしたい、と思われるのであれば、是非、「報連相」から見直してみてください。
報連相がつくる「心理的安全性」
さて、報連相が「風通しのよい会社」を目指すために生まれた、という事実を知った時、私は、ある言葉が思い浮かびました。
そして、次のような感想を抱きました。
- 「なるほどね」
- 「やっぱりね」
その、思い浮かんだ言葉とは一体何か?
それが「心理的安全性」
「心理的安全性」とは、ハーバードビジネススクールの教授であるエドモンドソンが1999年に提唱した概念で、「チームの誰もが、非難される不安を感じることなく、自分の考えや気持ちを率直に発言できる状態」を表しています。
2015年に、Googleの社内調査で、「チームの生産性向上の最重要要素」と結論付けられたことで注目を浴びるようになりました。
あなたも聞いたことがあるかもしれません。
もう、お気づきかもしれませんが、「心理的安全性」と「風通しの良い会社」は、同じ意味ではないでしょうか。
山崎氏が、「報連相」を思いついたのは1980年代。
エドモンドソンが「心理的安全性」を提唱したのは1999年。
そして、Googleで「心理的安全性」が唱えられたのが2015年。
人は、どうしても、目新しい言葉に惹きつけられますが、でも実は、意味を考えると、「報連相」と同じように、それは日頃から使っている言葉だったります。
新しいことに目を向けるより、まずは、今、目の前のことをきちんとやり切ることが大事。
まさしく、ビジネスのABCです。
- A:あたりまえのことを
- B:バカになって
- C:ちゃんとやる
あなたは、ビジネスのABCができていますか?
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