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2020.08.15

「子育て」と「人材育成」の共通点

「子育て」と「人材育成」の共通点

経営者の大きな悩みの一つとして、社員の育成(人材育成)があるかと思います。

その人材育成のプロとして、人材育成コンサルタントが存在します。しかし、その人材育成のプロであっても、自分の子どもの育成(子育て)は、思い通りにいかないと言われています。それほど、自分の子どもの子育ては難しいものです。

しかし、この子育てと人材育成には、共通点が多く、どちらも参考になることがあります。今回は、子育てと人材育成の共通点を見ながら、どのように人(子ども・社員)を育成してくべきかについて考えて行きたいと思います。

子育てと人材育成に共通する3年という期間

三つ子の魂百まで

あなたは、子育ての重要性を語ることわざとして、「三つ子の魂百まで」は聞いたことがあるかと思います。このことわざの意味は、「幼い頃に体得した性格や性質は、一生変わることがない」という例えです。

なお、全世界88か国でも同じような言葉が存在していると言われ、3歳までの幼児期の子育ての重要性は世界共通と言えます。

欧米では、「ゆりかごで学んだことは、墓場まで持っていくことになる」という意味の「What is learned in the cradle is carried to the grave」が有名ですが、「Zero to three」という短い言葉が使われることもあります。

3歳までの子育ての重要性は、脳科学的にも解明されています。脳の重量は、3歳で成人の約80%、6歳で約90~95%に達します。成人の脳にある約140億個の神経細胞は、妊娠7週から20週までの間にほぼ全部作られ、出生後は増えません。脳の重量増加は、脳の神経細胞であるニューロン同士を繋ぐシナプスが増えることや、ニューロンの突起が複雑に伸びたりすることが要因とされています。

つまり、出生後に脳の神経細胞の数は増えないが、神経細胞(ニューロン)間の連絡網(シナプス)の形成により初めて脳全体が機能するようになり、その脳の成熟が3歳ごろであるということです。このこのため、3歳ごろまでの外部からの刺激が大変重要であるという訳です。

生まれてから3歳ごろまでが子育てには重要であるということについては、会社においても同じことが言えます。

新入社員3年目までの教育研修

会社では、入社したばかりの社員が社会人として必要な知識やスキルを身に付けたり、会社への理解を深めることを目的に、新入社員研修を行います。人材育成は、会社の運営と発展に欠かせない要素であり、新入社員研修はその人材育成のスタートに当たると言えます。

そして、この社会人がスタートした時の人材育成の重要性を認識しているからこそ、多くの企業はこの3年目までの研修教育に力を入れています。

人事労務分野の情報機関である産労総合研究所が毎年行っている「教育研修費用の実態調査」の教育研修について、2019年度(第43回)の調査結果(対象企業:3,000社)では、階層別教育は、「新入社員教育」の実施率が95.7%と報告されています。また、「新入社員フォロー教育」が77.7%、「中堅社員教育」が70.7%という実施率でした。

最も大切な育成の要素は「存在承認」

以前の「結果を出す核は存在承認」でお伝えしたように、結果の核は「存在承認」にあります。この「存在承認」の重要性は、子育てと人材育成にも同様のことが言えます。

子育ての「存在承認」

近年、「キレる子ども」により、教育現場では学級崩壊するなど、「キレる子ども」が社会問題となっています。

この「キレる子ども」は、感情を理性で抑制できないことが原因です。この理性を司る脳が、人間脳と呼ばれる大脳新皮質であり、「キレる子ども」はこの大脳新皮質(具体的には、前頭連合野の一部である眼窩前頭皮質)の発達が不十分であることが分かっています。

そして、この大脳新皮質の発達を促すために、育児現場で提唱されていることが2つあります。1つ目は、子どもに十分な愛情を与えること。2つ目は、習慣を身に付けさせること。この2つです。

この1つ目の十分な愛情とは、子どもの存在そのものを愛するということ。つまり、「存在承認」してあげることと言えます。

では、子育てにおける「存在承認」とはどのような行為を言うのでしょうか。

赤ちゃんの出生直後は、誰しもが「生まれてきてくれてありがとう」と我が子を抱きかかえ、赤ちゃんの「存在承認」を行います。この時点では、赤ちゃんにとっては、受動的に「存在承認」されていると言えます。

そして、赤ちゃん本人の意思で、能動的に「存在承認」を欲求するのはいつでしょうか。

それは、泣いた時です。

つまり、赤ちゃんが泣く理由は、その時々ですが、赤ちゃんにとって、自分が泣くことで親がそれに反応することこそが、正に自分の「存在承認」を満たしてもらうことに他なりません。

赤ちゃんが泣いた時に、抱っこしてあげるという行為は、子育てにおいて極めて重要な「存在承認」の行為と言えます。

人材育成の「存在承認」

社員の人材育成の「存在承認」の意味について、以下の2つの研究例・調査例から考えてみます。

最初の上司との相性が会社員人生を決める

経営学では、VDL(Vertical Dyad Linkage)モデルと呼ばれる、「縦の二人関係における繋がり具合」という概念が唱えられています。

これは、最初の配属でどのような上司について、その上司とどのような関係にあったかが、入社後の会社への適応や、更にはその後の社内キャリア(昇進・昇格など)に大きな影響を与えることが示されました。

つまり、従来の考えでは、社員の成長は、個人能力に大きく依存していると考えられていましたが、このモデルにより、最初の配属先の上司との相性が人材育成に大きく左右することがわかったのです。

モチベーションは上司の資質に左右される

学校法人三幸学園が運営する東京未来大学が、2019年1月に転職経験の無い社会人3年目の男女300名を対象に実施した「仕事のモチベーション」に関する調査の結果を発表しています。

本調査では、「あなたは仕事におけるモチベーションは上司の資質に左右されると考えますか?(n = 300)」という質問に対して、「非常にそう思う」、「そう思う」への回答が、8割を超える結果となったことを報告しています。

そして、この質問の結果を受け、「上司のどのような行動によって、仕事に対するモチベーションが向上するのか?」について、男女別で比較した結果、男女ともに最も多い回答が「仕事ぶりを評価する」でした。男性で59.1%、女性では60.2%と高い数値でした。

また、上司からの声掛けに対してモチベーションが上がる傾向があり、「労(ねぎら)いの言葉をかける」や「意見に耳を傾ける」も上位に並んでいます。逆に、男女ともに最も低い回答となったのが、「責任のある仕事を任せる」ことでした。

この「責任のある仕事を任せる」よりも、「労いの言葉をかける」ことが、新入社員のモチベーションに繋がるという結果は、VDLモデルの査証であり、正に「存在承認」の重要性を示しているものと言えます。

戦後の子育ての大きな誤解

先ほど、上記で「泣いた時に抱っこすること」が、子育ての極めて重要な「存在承認」の行為とお話ししましたが、この提案に違和感を覚えることがある人も多いのではないでしょうか。

つまり、あなたは「抱っこ癖が付くので、泣いても直ぐに抱っこしてはいけない。」という子育ての方針を耳にしたことがありませんか?もし、先ほどの提案に違和感を持たれたとしたら、この子育て方針を耳にしたことがあるからだと思います。

この違和感を正してもらうためにも、歴史的な流れを説明しておきたいと思います。

第二次世界大戦後、アメリカの小児科医であるベンジャミン・スポック博士の著書で『スポック博士の育児書』という本が全世界を風靡しました。日本でも「子どもの自立心を育む」育児法として、広く認知されるようになります。その内容の一部に以下のような内容があります。

  • 赤ちゃんが泣いても、いちいち抱き上げない。
  • 抱き癖がつくと、必要もないのに甘え泣きをするようになる。
  • 添い寝は自立心を妨げるので、夜は個室に入れ、一人で寝かせる。

これらの考え方は、母子手帳にまで反映され、1980年代まで長らく記載されることになります。しかし、スポック博士は、時代に合わせて8版の改定を重ねており、細部は大幅に変わっていきます。日本で広がったのは、初期の育児法だったのです。

当時、真面目なお母さんほど、忠実にこれらを守って、厳しい子育てに勤しみました。当然、我が子のことを思い、良かれと思っていたはずです。しかし、この子育て法の弊害が生じます。それが、圧倒的な愛情不足です。さらに言うならば、「存在承認」の不足です。

そして、この「スポック博士の育児書」全盛期時代に、親から突き放されて育てられた人たちが、子育て世代を迎えた時に起きた弊害が、赤ちゃんや子どもを「どう可愛がっていいかわからない」「どうしても可愛いと思えない」と悩むことです。可愛がられた記憶が希薄であるため、戸惑うのです。

先ほど、説明したように、赤ちゃんが泣くという行為は、「存在承認」を欲求しているというシグナルです。それにも関わらず、いつまでも抱っこしてもらえず、「存在承認」を満たしてもらえないとどうなるでしょうか。

また、夜中に目を覚ました時に、真っ暗な中、親が近くにいないことに対する不安は計り知れないものがあると思います。大きな不安やストレスは、大きなトラウマとなり、脳の成熟に悪影響を及ぼします。

本来の子育てとは、赤ちゃんが泣いて「存在承認」を求めたら、迷うことなく、抱っこして「存在承認」してあげることです。一緒に添い寝して、夜中に目が覚めても、親がすぐそばにいるという安心感の元で寝させてあげることです。

もし、あなたに小さなお子さんがいて、もし、「抱き癖が付くから、泣いても抱っこしない。」または、「夜中は一人で寝かせている。」という子育てをしているようであれば、是非、改めて頂きたいと思います。

まとめ

子育てと人材育成を「教育」という言葉に置き換えてみます。「教育」とは「教え育てること。人を教えて知識や技術を教えること」と説明されます。しかし、「教育」の本来の意義は、「子どもに備わった素質を引き出し、伸ばすこと」ではないでしょうか。

その「教育」には「自信」が大きく影響します。子育てでは、肌と肌の触れ合いと、目を見て交わす笑顔が、子どもに“愛されている”という全能感と信頼感を与え、「自尊感情」という自己肯定感を育みます。十分に甘えた子ほど、自身をもって巣立ち、自立していくことができるのです。

全ては、「存在承認」から始まります。それは家庭の子育てでも会社の人材育成でも同様です。そして、「存在承認」は、本人が自ら構築していくものではなく、“周りとの関わり”によって満たされていくのです。

日本では、OJT(On-the-Job Training)という教育方針が浸透しています。これは、「新入社員が上司について、“仕事を覚える”」という意味で使われているように思います。しかし、OJTの本来の意味は、「上司が新人社員について、“その社員の素質を引き出す”」ことではないでしょうか?

もし、あなたの会社で、若手社員があなたの思うような結果を出すことができていないと感じるのであれば、若手社員本人の問題に焦点を当てるのは止めましょう。まずは会社として、その若手社員の素質を引き出し、伸ばすためには、その若手社員とどのように“関わり”を持てばよいのか。そのような視点で社内を見渡してみて下さい。きっと今まで違う世界が見えてくると思います。

今回のブログが「子育て」と「人材育成」の新たな視点になれば幸いです。もし、色々な気付きを得て、変わったことがあれば、是非、嬉しいお声を聞かせて頂ければと思います。あなたの嬉しいお声をお待ちしています。

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