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2020.04.30

賃金は何に対して支払われているのか

賃金は何に対して支払われているのか

労働の対価としての報酬は、時代共に変化しています。そして、労働基準法で「賃金が労働の対価」と定義されてからも、賃金の捉え方は時代と共に変化しています。

今回は、この賃金の捉え方の変化について歴史から紐解きます。この整理を通じて、経営者として従業員に支払う賃金に対する考えを深める機会にして頂ければ幸いです。

賃金は何に支払っているのか?

民法では、雇用契約のあり方を「労働に従事すること」と「報酬を支払うこと」の債権契約と定められています。そして、労働基準法では「賃金は労働の対価」と定義しています。

では、現代での報酬の主体である賃金は、何に対して支払われているのでしょうか?
この時のポイントとなる考えが、雇用する側と雇用される側のいずれに立っているかという点です。

人に支払う日本式

日本的な考え方は、雇用される側に立っており、人に対して報酬を支払っているという考えがあります。この考え方は「pay for parson」と表現されます。

つまり、日本独自に発展した職能資格制度は、職務を遂行する能力を有する“人”に対して報酬を支払っているとする考え方です。

この職能資格制度には、年齢給や年功給と呼ばれる年齢と共に給料が上がる賃金体系です。これは、経験を積むことで職務を遂行する能力が年齢と共に高まっていくという考えが基本にあります。

仕事に支払う欧米式

一方、欧米的な考え方は、雇用する側に立っており、仕事そのものに対して報酬を支払っているという考えです。この考え方は「pay for job」と表現されます。

欧米の職務等級制度は、仕事と報酬は連動しており、その仕事(職務)に対して報酬を支払うという考え方です。この考えは「同一労働同一賃金」と呼ばれます。

賃金体系の変化からみえてくるもの

以下では、マズローの欲求5段階説とを照らし合わせながら、日本における賃金体系の変化の歴史を「pay for parson」と「pay for job」の立場を紐解きます。

江戸時代

江戸時代には、労働と報酬は直接的に結びついておらず「奉公」という雇用形態(奉公人制度)を取っていました。この奉公制度により、雇う側は雇われる側の衣食住の生理的欲求を満たしていたと言えます。
ここでは「pay for parson」と「pay for job」の中間から、スタートします。

明治時代

明治時代は「出来高給」に代表されるように、工場の働き手である職工は働きに応じて報酬が支払われていました。

つまり、「出来高給」は、完全な「pay for job」であったと言えます。

大正時代~昭和前半

そして、大正時代から昭和前半の戦後に至るまでに、人に焦点が当たった「生活給(年功給)」が完成します。この生活給により、雇う側は雇われる側の日々の生活に対する金銭的な安全欲求を満たしていました。

つまり、「生活給」は、完全な「pay for parson」であったと言えます。

昭和前半~昭和後半

そして、昭和前半から昭和後半にかけて、職務給という、職務に応じて賃金を支払う「pay for job」の考え方が欧米から入ってきます。しかし、従来の「pay for parson」の考えである生活給(年功給)との均衡を保つことで「職能給」という考えに至ります。

同時に、この「職能給」の賃金制度を含む、職能資格制度(等級制度)が確立し、雇われる側は、社内出世などを通じて社会的欲求が満たされるようになります。

ここでは「生活給」と「職務給」の融合という意味で、「職能給」は、完全な「pay for parson」ではなく「pay for job」の要素も含まれていると考えられます。

平成時代

しかし、バブル崩壊の平成時代には、仕事の結果を重視する成果主義として「成果給」が台頭します。しかし、成果主義は従来の日本企業の文化に馴染むことがなく、失敗に終わります。

その後、既存の「職能給」と欧米型の「職務給」を再度融合することで、「役割給(職責給)」という新たな概念を生み出します。

この背景には、年功的な横並びの評価ではなく、一個人として「働いている自分を正当に評価して欲しい」という承認欲求が現れていると考えられます。

報酬として賃金体系を考えた場合「役割給」は「職能給」よりも「pay for job」の要素がさらに強まったと言えます。

今後

そして、これからの賃金体系の展開を考えた場合、フリーランスという働き方、つまり仕事単位で業務を委託・受託する「請負給」は、完全な「pay for job」の考えと言えます。

なお、フリーランスという働き方は、まさしく自分らしい働き方という意味で自己実現欲求の現れではないでしょうか。

しかし、この「請負給」には日本的な「pay for parson」という概念がありません。上記の歴史的な賃金体系の変化を見てくると、再び何らかの形で「par for parson」の要素が入ってくることが予想されます。

時代背景により賃金体系の見直しが迫られた時、常に欧米的な「pay for job」の概念が入ってきます。そして、新たな日本的な賃金体系として落ち着きを見せる時、マズローの欲求5段階を1段上がっているように見えます。

このように、賃金体系も時代と共にマズローの欲求5段階の上位欲求を満たすように、螺旋階段を登るようにして変化しています。

(時代の変化とマズローの欲求5段階との関係性は「歴史から見る人事制度のトレンド」をご参照ください)

(また、螺旋階段を登るという考え方は、田坂広志氏の「未来を予見する5つの法則」を説明した「イノベーションを促進する第一の法則」をご参照下さい)

まとめ

賃金体系について、歴史を追って「pay for parson」と「pay for job」の要素を切り口に見てきました。

その結果、「pay for parson」と「pay for job」の間を揺れ続けながら、賃金体系が変化してきたことが分かります。

また、時代の変化の波が訪れた時、常に「pay for job」の観点によって賃金体系が見直されてきました。しかし、必ず「pay for parson」の要素を含むことで、日本的な賃金体系として落ち着きを見せているように思えます。

今後も、「pay for parson」と「pay for job」の間を揺れ続けることが予想されます。しかし、どちらの位置か、どこの位置が正解というわけではありません。

「経営者として賃金に対して、どのように考えるのか?」

要は、経営者として、この問いに対する回答を用意することです。あなたの会社の賃金体系の基本となる考えは「pay for parson」ですか?それとも「pay for job」ですか?

今回の内容が、今一度、会社の賃金体系を考える機会になっておれば幸いです。

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