いきなりですが、中小企業が永続するための基本的な戦略は「高価格化」しかありません。
しかし、中小企業の多くの経営者が「‟価値”に見合った‟価格”を付けられていない」と感じています。つまり、経営資源で圧倒的な差がある大手企業と「低価格化」で競争している、という状態です。
このように大手企業と「低価格化」で戦っていては、会社も従業員も、そして何より、経営者ご自身が疲弊して、長く永続できないことは火を見るよりも明らかです。
つまり、多くの中小企業は、‟価値”に見合った‟価格”にするための「値上げ」の活動が必要です。
そこで、この「値上げ」の考え方とやり方について、本ブログで順番にお伝えしております。その順番は以下です。
- まず、経営者ご自身が「値上げ」の必要性について理解する
- 次に、従業員にも「値上げ」が必要であることを納得してもらう
- 後は、取引先やお得意様などのお客さまに「値上げ」を受け入れてもらう
今回、この「値上げ」をお客さまに受け入れてもらうための手順を説明します。
まだ、経営者が「値上げ」を理解するための手順「中小企業の値上げの考え方ー経営者にむけてー」をお読みになっていない方は、そちらもご参照下さい。
従業員に「値上げ」を納得してもらう手順は、「中小企業の値上げの考え方-従業員にむけて-」をご参照ください。
お客さまに理解してもらう-基本編-
「値上げ」の大前提として、経営者ご自身や従業員の方々は、基本的に同じ側の立場ですが、お客さまは全く逆の立場であることを理解しておく必要があります。
例えば、原材料が上がったから値上げする場合、会社にとって値上げは当然と考えても、お客さまがそれを当たり前と受け取るわけではないということです。
この自社の事情とその事情に対するお客さまの受け取り方は異なることを前提に、値上げに際してお客さまに伝える基本姿勢は以下の3つです。
お客さまに伝える基本姿勢
1つ目は、利益をむやみに増やそうとした値上げではないということ。あくまでも提供している価値に見合った価格であること。
2つ目は、本来であればもっと値上げをすべきところを、企業努力をした上で必要最低限の値上げとしていること。
最後3つ目は、自社特有の値上げではない場合、つまり業界の競合も値上げする場合、自社だけが特別な事情で値上げをしているわけではないとこと。
値上げを感じさせない方法
この3つは、基本姿勢に過ぎません。例え、お客さまの理解を得たとしても安心してはいけません。値上げ分をお客さまに負担して頂く代わりに、お客さまにはきちんと値上げ以上の高い価値を約束することが重要となります。
‟価格”と‟価値”には、お客さまが感じる‟価値”に対して、納得して支払うことができる‟価格”が存在します。つまり、お客さま毎に納得する‟価値”と‟価格”がバランスしている点があります。
この‟価値”と‟価格”がバランスしている商品・サービスに対して、単に値上げをすると、お客さまは「値段が高くなっただけ!」と不満要因となります。しかし、値上げしても、それ以上に‟価値”を感じてもらえれば、「いい買い物ができた!」と満足してもらうことができます。
言い換えれば、値上げ以上に‟価値”を感じてもらう。これが値上げの際の大切な考え方です。
最も大切なのはお客さまとの関係性
そして、重要なことは、お客さまの信頼を獲得できているかということです。
自社に対して信頼を寄せ、これまでの関係性も重要視してくれる優良なお客さまのことをロイヤルカスタマーと呼びます。
伸びる会社には必ずロイヤルカスタマーが存在しています。もう少し馴染みのある表現とするならば、自社のファンと呼べます。
では、いかにしてお客さまの信頼を勝ち取り、ロイヤルカスタマー、もしくはファンになって頂けるのか。そのためには、まず、心から目の前のお客さまのお役に立つことを考えることができているか。
つまり、お客さまが、何に困っていて、その課題を解決するために、何を必要としているかを理解することが大前提になります。
お客さまへの伝え方-手法編-
では、次に手法編として、お客さまに値上げをスムーズに受け入れてもらうための具体的な方法を説明します。
お客さまに値上げを伝えるためには、次の3段階に分けて考える必要があります。
- 値上げを伝える前
- 値上げを伝える時
- 値上げを実施する時
では、各段階でするべきことを整理してきます。
値上げを伝える前にするべきこと
値上げをする際、一番初めに考えるのは、お客さまに対して、
「どのように“値上げ”を説明しようか?」
「どのような理由なら、“値上げ”を理解してもらえるか?」など、
“値上げ”の伝え方や理由について考えてしまいがちです。
しかし、値上げを伝える前に、まずやるべき事があります。それは、お客さまに対して「自社の商品・サービスは、もっと素晴らしい‟価値”がある」ことを理解してもらうことです。
まずは、価値を伝え切る
仮に、初めに値上げをして、価値を後付けで説明した場合、「値上げをします。それは○○といった価値があるからです」と言ってしまうと、単純に‟価値”が十分に伝わったとしても、それが「言い訳」に聞こえてしまいます。
このため、値上げに見合う価値をしっかりと伝える前振りが重要です。この前振りがあることで、後で値上げしやすくなります。つまり、最初に「前振りで‟価値”を伝える。」次に「‟価値”が十分に伝わった上で値上げを伝える。」この順序が大切です。
‟価格”は値札で確認することができます。しかし、‟価値”はブランドのロゴなど目で見て分かるから、機能など実際に使ってみないと分からないもの、さらには原材料など目に見えないものまで多岐に渡ります。
このため、‟価格”については、売り手と買い手とで明確な数字情報として共通認識できますが、‟価値”については、明確な情報として共通の認識が持てません。
つまり、皆さんがお客さまに対して、日頃から‟価値”を伝える努力をしていないのであれば、「お客さまは、自社の商品・サービスの‟価値”を正しく理解できていない」と認識を改める必要があります。
ラーメン屋を例に
例えば、皆さんが個人経営のラーメン店を出店することにしました。当然、店主である皆さんは、こだわりが詰まったラーメンを出すことを考えます。
しかし、どのようなこだわりがあるかを伝えなければ、お客さまはそれを知る機会がありません。スープのこだわりも、出汁にこだわっているのか、出汁の素材にこだわっているのか、素材の産地にもこだわっているのか。挙げだせばキリがありません。
しかし、それでも何にどこまでこだわっているのかをお客さまにお伝えない限り、お客さまはそのラーメンの本来の‟価値”を知ることができません。
「食べてもらえれば、その‟価値”がわかる」と考える方もいると思います。しかし、そのまずは食べてもらうために、お店に入ってもらう必要があります。
お店の前を通る人に対して、ラーメンの‟価値”を伝えるための看板を店頭に出そうと考えることができますか?また、お店に入って頂いてからもラーメンの‟価値”をより理解して頂くために、更なる情報を店内にも貼り出すことができそうですか?
店主であるあなたの方からラーメンの‟価値”を伝えなければ、お客さまはラーメンの本当の‟価値”を知ることができません。それができなければ、お客さまは‟価格”という単純な物差し”でしか判断することができません。
結果として、自ら競合と価格勝負に挑むことになってしまいます。
価値を伝えるためには?
直接お会いできるのであれば、会って話をすることをお勧めします。対面で会話することで、お客さまの反応を見ながら様々な観点で本来の‟価値”をお伝えすることが可能です。
直接お会いできないお客さまに対しては、ダイレクトメール(DM)などの郵便物でお伝えすることも可能です。
大切な視点は、まずは自社の商品・サービスには「‟価格”以上の‟価値”がある」ということをお客さまにしっかりと伝えることです。
なお、‟価値”には決まった内容はありません。可能であれば、色々な角度から自社の商品・サービスの良さを伝えることが必要です。もし、思いつかないようであれば、お客さまにアンケートを取ることをお勧めします。
‟価値”の伝え方にも表現方法があります。例えば、「競合他社との比較」が有効です。競合他社と比較することで、お客さまが自社の商品・サービスの‟価値”を理解しやすくなります。
値上げを伝える時にすべきこと
値上げを決断し、お客さまに‟価値”を伝えた。そして、値上げを伝える段階にきても、実際に実行に移せないことがあります。これは、「お客さまが値上げを納得してくれるためには、どのようにお伝えすれば良いのか?」というように、具体的な伝え方が分からないという状況から起こります。
この「お客さまへの具体的な伝え方が分からない」という感想は極めて普通です。そして、この「分からない」状況から脱するために、お客さまに伝える時の注意点があります。
それは「既存のすべてのお客さまに一斉に値上げを伝えてはいけない」ということです。
何故、既存のお客さまに一斉に値上げを伝えてはいけないのか。
それは、「どのように伝えて良いか分からない」から「なるほど、このように伝えれば良いのだな」に変化するためには、値上げを伝えた時の実際のお客さまの反応を見て、お客さまがより納得する言い回しを検証するしか方法がないからです。
自社との関係性から伝える順番を決める
伝えるお客さまの順番に唯一の正解はありませんが、お勧めの方法があります。それは「自社にとって重要度の低い順」です。
何故、重要度の低い重要度の低いお客さまから伝えるのか。1つ目の理由は「どのような‟価値”の伝え方であれば、お客さまは値上げを納得してくれるか?」ということを試行錯誤して、伝え方を磨いていく必要があるからです。
試行錯誤していく過程で「この方法は上手くいった!」という感触が得られます。そして、その上手くいった伝え方を元に、更に試行錯誤することで「なるほど、このように伝えれば良いのだな」という伝え方の精度を上げていくのです。
このように「重要度の低いお客さまから」というお話をすると、経営者の皆さんの中には「いや、重要度の低いお客さまなんていない!」という方もいらっしゃるかと思います。そこで、「重要度の低さ」の定義について、以下に参考となる2つの考え方を挙げます。
- 値上げを機に関係が切れてもよいと思うお客さま
- 自社の売上(利益)に占める割合が小さいお客さま
1つ目の値上げを機に関係が切れてもよいと思うお客さまとは、購入してくれるけど、色々とクレームが多いお客さまや、度々支払が滞るお客さまなど。様々なお客さまが考えられますが、極端な例では、個人的にお付き合いしたくないお客さまを考えて下さい。
パレートの法則
2つ目の考え方について、以下に詳しく説明します。経営やビジネスを行う中で、よく出てくる法則として「パレートの法則」があります。この法則は、イタリアの経済学者ヴィルフレッド・パレートが発見した「経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出している」という経験則を指します。別名「80:20の法則」とも称されます。
このことから、ビジネスにおいては「売上げの8割は全顧客の2割が生み出している。よって、売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行うほうが効率的である」と言われています。
極端な表現を用いれば「重要なお客さまは全体の2割に過ぎず、お客さま全体の8割は重要ではない」と言えます。
つまり、2割の重要なお客さまに伝える順番は最後にして、8割のお客さまで試行錯誤して「なるほど、このように伝えれば良いのだな」という伝え方を磨いて下さい。
そして、重要度の低いお客さまから伝えていく2つめの理由が、もし値上げを受け入れてもらえなくても、売上(利益)に占める割合が小さいお客さまであれば、会社に及ぼす影響を最小限に回避することができるからです。
そして、お客さまに値上げを受け入れられなかった場合でも「やっぱり、値上げは無理だ」と値上げに対する消極的な感情を抑えることができます。その伝え方を検証することで、改善して次に活かせば良いと考えることができます。
以上が、伝え方に磨きをかける、値上げに対して消極的にならないためにも、順番を決めて、重要度の低い顧客から伝えていくことをお勧めします。
値上げを実施する時にすべきこと
前項までで、商品・サービスの‟価値”を伝えた後に、値上げを伝える。また、値上げを伝えるお客さまの優先順位があることを説明しました。しかし、値上げを伝えたからと言って、直ぐに実際の値上げを実施してはいけません。
つまり、実際の値上げまでには期間を置く必要があります。
既存のお客さまは特別な存在
前項までで説明した「‟価値”を伝える」と「値上げを伝える」の時間軸には、それほど期間を空ける必要はありません。一方、「値上げを伝える」と「値上げを実施する」には、一定期間を空ける必要があります。
具体的には、3ヶ月や半年間の猶予期間を設けます。但し、それは既存のお客さまを対象にします。これは、既存のお客さまを大切にしているという配慮を形で示す意図があります。
例えば、以下のようになります。
「ご新規のお客さまには、○月○日から値上げを行う予定ですが、既存のお客さまには、○月○日まで値上げはせず、現在のまま価格の据え置きをさせて頂きます」
既存のお客さまには、このような配慮を形として見せる。これが極めて重要です。「お得意様だから、配慮をしてくれているのだ」と顧客に嬉しく思ってもらえることで、お客さまとの関係性をより強いものにすることができます。
お客さまが受け入れてくれるのを待つ
そして、もう一つ理由があります。それは、人は値上げに対して“思考”では理解することができても、“感情”で受け入れられるまでには、多少の時間差が生じるからです。つまり、お客さま側に立って、この“思考”の理解に“感情”での納得感が追い付くまで時間を設ける、ということです。
そして、この時間差を設けることは、お客さまの「その‟価値”は理解できるけど、急な値上げは困る!」という反応も避けることができます。お客さま側に、今後について判断する猶予期間を与える事にも繋がるのです。
まとめ
既存の商品・サービスの「値上げ」は、経営者の誰しもが、一度は「できるなら、是非やりたい」と考えるのではないでしょうか。しかし、大半の経営者は、実際には「やっぱり、値上げは無理だ」と取り組む前に諦めていると思います。
でも、中小企業が生き残っていくためには、商品・サービスの高価格化・値上げは必須活動です。
これまで3回に渡って説明してきた通り「値上げ」には順序・やり方があります。今まで「値上げは無理だ」と思考停止されていた方も、これらのやり方を知って頂き、「値上げ」に対する考え方を変えるきっかけになったでしょうか。
是非、この機会に「値上げ」について真剣に考えて頂ければと思います。