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2020.04.20

中小企業の値上げの考え方ー経営者にむけてー

中小企業の値上げの考え方ー経営者にむけてー

消費税増税、人件費高騰など、企業収益を圧迫する要因が多い現在、あなたの会社でも、経費縮小・コスト削減に取り組まれていると思います。しかし、経費縮小・コスト削減にも限界があります。

このため、一度は「値上げしたい」と考える経営者は多いと思います。ただし、実際には値上げできない中小企業の経営者の方は多いのではないでしょうか。そのような、経営者の方々の現状を理解した上で、あえて断言します。

中小企業が生き残っていくためには「商品・サービスの高価格化」が必須です。

ここで、誤解がないように補足しますが、決して価値がない商品・サービスを高額で販売するべきだ、と言っているわけではありません。

そもそも、提供している価値に見合う価格で販売できていないと考えている経営者がたくさんいらっしゃいます。

そこで今回提案する高価格化とは、商品・サービスの価値に見合った販売価格に変えていく。ということを意味しています。

これから、商品・サービスの高価格化(値上げ)の手順について説明していきます。
読み進めていく中で「是非、自社でも値上げを検討してみよう」と思ってもらえれば幸いです。

経営者ご自身が理解する

値上げなどの高価格化は、あくまでも手段の一つです。まずは、その値上げの目的について、経営者ご自身が理解する必要があります。

つまり、何故、中小企業は自社の商品・サービスを高価格化しなければいけないのか?

それは、一言で表すなら「中小企業が存続するための戦略は、高価格化しか選択肢がない」からです。

2つに分けられる企業の競争戦略

企業における競争戦略は、大きく分けて「同質化戦略」「差異化戦略」の2つに分けられます。この同質化戦略と差異化戦略について、コンビニ・コーヒーを例に説明します。

コンビニ・コーヒーとは、コンビニエンス・ストアのレジカウンターで販売されるカップ入りのコーヒーです。このコンビニ・コーヒーは、1980年代からセブンイレブンが導入を検討開始しましたが、参入・撤退を繰り返し、ビジネスとしてなかなか軌道に乗りませんでした。

しかし、2004年に台湾のセブンイレブンが導入すると、そこから2010年代には、セブンイレブン以外のコンビニ大手各社も導入することにより、一気に普及しました。

ここで、差異化戦略とは、セブンイレブンが他社に先駆けてコンビニ・コーヒーを導入したこと指します。そして、同質化戦略とは、コンビニ大手各社がセブンイレブンの後追いで、コンビニ・コーヒーを導入したことを指します。

「他社とは異なることを先駆けて行う。」これが、差異化戦略です。
そして、「他社に追随して、他社と同じことをマネる。」これが、同質化戦略です。

そして各社は、コンビニ・コーヒーとは別の差異化戦略を取り、また他社が同質化戦略でマネをする。企業の競争はこの差異化と同質化が繰り返されるのです。

以下、差別化戦略について説明します。

差別化戦略

差異化戦略は、マイケル・ポーターが「競争優位の戦略」で示した3つに細分化されます。すなわち、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略です。以下に、この3つの差別化戦略について簡単に説明します。

コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略は、幅広いターゲットを対象に「低価格化」を武器として業界の主導権を握る戦略です。徹底した原価低減を行なうことで平均並みの製品を低価格で販売し、「安く売っても儲かる」仕組みを作ります。

コストリーダーシップ戦略の代表例は、世界展開しているマクドナルドやユニクロが挙げられます。

差別化戦略
差別化戦略も幅広いターゲットを対象とし、「他の企業が持たない特徴」を生かすことにより、業界で特異な地位を占める戦略です。

差別化戦略の代表例は、同じハンバーガーを取り扱う企業でも“質”という点でマクドナルドとは異なる客層をターゲットとしているモスバーガーが挙げられます。

集中戦略
集中戦略は、特定の地域やターゲットなどに経営資源を集中させることにより、コストリーダーシップまたは差別化を推し進める戦略です。資本や規模が比較的小さな企業は、特定の顧客層に対しては大企業にも対抗するために、この集中戦略の考えが必要になります。
弱者の戦略である「ランチェスター戦略」とほぼ同義です。

集中戦略の代表例は、自動車会社のスズキが挙げられます。スズキは、自動車大手が進出した中国や北米ではなく、独自路線で早い時期からインドに進出しています。

ここで、価格という視点で競争戦略を見ると、コストリーダーシップ戦略が低価格化であり、差別化戦略が高価格化という位置づけです。適正価格という考えは当然ですが、二者択一という意味で、低価格化・高価格化という表現としています。

この時、コストリーダーシップ戦略は、安い物を大量に売ることで「安く売っても儲かる」仕組みを作ることができる企業にしか取れない競争戦略です。そして、その多くが大きな経営資源を持つ大企業です。

一方、中小企業は大企業とは異なり、その経営資源の大きさから、限られた商圏や限られたターゲットにしか商品・サービスを提供することができないため販売量も限られてきます。このため、基本的に中小企業は、大量に売ることができないのであれば、コストリーダーシップ戦略は取ることができません。

これが「中小企業は高価格化する差別化戦略を取るしか選択肢がない」とした理由です。

何故、低価格化してしまうのか?

ここで、質問があります。

何故、中小企業は、大企業が仕掛けてきたコストリーダーシップ戦略に巻き込まれてしまうのでしょうか?
言い換えれば、間違った競争戦略であっても、何故、大企業向けであるコストリーダーシップ戦略(低価格化)を中小企業が選択してしまうのでしょうか?

それは、低価格化することが売るための最も簡単な手段だからではないでしょうか。つまり、何も考えずとも価格を安くさえすれば、自然と売れるからです。

いや、残念ながら、今では“売れた”から。という過去形ではないでしょうか。モノが飽和している現代は、価格を下げただけでは売れません。それが、現状をより厳しいものにしています。

すなわち、大企業は、経営資源を活用した企業努力によって「安く売っても儲かる」仕組みが作れるからこそ、コストリーダーシップ戦略の低価格化を打ち出すことが可能なのです。

ところが、中小企業がその仕組みを理解せずに、大企業が表に出してくる価格にのみ反応して、大企業をマネして低価格化という同質化戦略を取れば、結果は火を見るよりも明らかです。

あえて、厳しいことを指摘するならば、低価格化しているということは、価格を安くすること以外、自社の商品・サービスを売るための企業努力を怠っているとも言えるのではないでしょうか。

もちろん、低価格化を選択している中小企業が、何も企業努力をしていないとは言いません。必ず、低価格化するために、経費縮小・コスト削減などに取り組まれてきているはずです。しかし、経費縮小・コスト削減は、自社内の活動です。

ビジネスである商いとは、自分(自社)と相手(取引先・顧客)との相互関係で完結する活動です。自分に対する活動だけでは、片手落ちの活動だと言えます。相手への働きかけも含めて、商いが初めて完全な活動になるのではないでしょうか。

低価格化を続けることの意味

極端な話ですが、低価格化をすることによって、誰が得をし、誰が損をするのでしょうか。逆に、高価格化することで、誰が得をし、誰が損をするのでしょうか。

「高価格化によって、損をするのは顧客」と言われそうですが、本当にそうでしょうか。現代は、モノがあふれている時代です。よほどの商品・サービスでなければ、類似の商品・サービスは、探せば世の中にあります。

つまり、顧客は特定の会社から意に沿わない価格で購入する義務はありません。その価格に納得がいかなければ、他社に乗り換えるだけのことです。つまり、自社が高価格化することによって、顧客は損をしません

では、低価格化によって、損をするのは誰でしょうか。言うまでもなく、会社、経営者だけでなく、従業員も損をしています。場合によっては、仕入先などの取引先にも損をさせています。

つまり、低価格化の最大の弊害は、様々な関係者に負担を強いていることです。近江商人の「三方よし」にあるように、誰かに負担を強いて継続できる商いはありません。

繰り返しとなりますが、一見すると、低価格化は、顧客にとっては得に見えるかもしれません。しかし、自社が低価格化で安い商品・サービスを顧客に提供している場合、どこかで必ず負担を強いている立場の方がいるということを理解して下さい。

高価格化の本当の目的

繰り返しとなりますが、競争戦略の視点から見た場合、中小企業の高価格化は必須です。

では、何故、中小企業は高価格化が必須なのでしょうか
それは、単純に会社に利益を残すためです

では、何故、会社は利益を残さなければならないのでしょうか?
この当たり前の問いについて、今一度考えてみたいと思います。

現在、持続可能な開発目標(SDGs, Sustainable Development Goals)という言葉が世界的に広まっています。ひと昔には企業の社会的責任(CSR, Corporate Social Responsibility)という言葉が使われていました。

これは、企業が自社の利益を追求するだけでなく、自らの組織活動が社会へ与える影響に責任をもち、あらゆるステークホルダー(利害関係者:消費者、取引関係先、投資家等、及び社会全体)からの要求に対して適切な意思決定をすることを指します。

企業の社会的責任

企業の社会的責任は、「経済的責任」「法的責任」「倫理的責任」「社会貢献的責任」の4つに分類されます。

経済的責任は、例えば株価収益率を最大化するような方法で活動することです。法的責任は、政府や法の期待と矛盾しないような方法で活動することです。倫理的責任とは、社会的習慣や倫理的規範による期待と矛盾しないように活動することです。
そして、社会貢献的責任は、フィランソロフィ責任とも呼ばれ、社会からのフィランソロフィや慈善的期待と矛盾しないように活動することです。

これらの社会的責任を果たすために、企業は永続する必要があります。すなわち、企業の一番の目的は「永続」です。そして、企業が永続するために、利益を残していくことを考えなければいけません。

そのための手段として高価格化が必要なのです

まとめ

「自社が提供している商品・サービスの価値を価格に反映できていない。値上げはしたいとは思うけど、値上げなんてできない」と思考停止されている中小企業の経営者の方は多いと思います。

そのような経営者の方に向けて、まずは、中小企業では値上げは避けては通れないこと。そして、値上げの重要性・必要性を理解して頂いたいと考え、中小企業の値上げの考え方について説明しました。

いかがでしたでしょうか?

これを読んで、即「値上げをしよう!」と思う方は少ないと思いますが、それでも「やっぱり、値上げは必要なのかも」と一歩でも前に進んで頂けておれば幸いです。

引き続き「値上げ」について、情報を提供していきたいと思います。この一連の説明が終わるころに「自社でも値上げができるはず!」。そのように考えが変わって行かれることを期待しています。

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