あなたは、「経営資源」について考えたことがあるでしょうか?
企業活動では、商品やサービスを作り、顧客に提供しています。この商品やサービスを作り、顧客に提供するためには、資源(資本や労働力)が必要です。
つまり、経営活動を行うための資源全体が「経営資源」です。
経営資源の様々な定義
経営資源には、「ヒト・モノ・カネ」の3つがあります。この3つは、昔からよく言われており、あなたも耳にしたことがあるかもしれません。
IT技術の発達により、この3つに加え、「情報」も含まれるようになりました。
そして更に、近年では、「時間」や「知的財産」までも含めて考えられるようになり、この6つが経営資源と言われたりします。
知的財産とは、特許などの文書化されているものから、暗黙知(あんもくち)と呼ばれる、いわゆる職人技術のような言語化されていないものまで含まれます。
経営資源の7S
コンサルティング大手のマッキンゼー社では、組織の7Sというものを上げており、これらを経営資源と定義する考えもあります。その7Sが以下です。尚、この7Sはハードとソフトで2大分類されています。
ハード的経営資源
- 戦略(Strategy)
- 組織(Structure)
- システム(System)
ソフト的経営資源
- スキル(Skill)
- 人材(Staff)
- 社風(Style)
- 価値観(Shared value)
経営資源の5M
経営資源の5Mという定義もあります。
- 資金(Money)
- 資材(Material)
- 機械設備(Machinery)
- 方法(Methods)
- 人的資源(Man power)
経営資源の4つの資本
次の4つの資本を経営資源と定義する場合もあります。
この4つの資本の分類は、アメリカの経営学者であるジェイ・B・バーニーが、企業の内部にある戦略に使えるものを全て「経営資源」と呼び、それらは次の4つのカテゴリーに分類できるとしました。
- 財務資本(Financial Capital)
- 物的資本(Physical Capital)
- 人的資本(Human Capital)
- 組織資本(Organization Capital)
そして、ジェイ・B・バーニーは、著書『企業戦略論(上)基本編』で、「一般に企業の経営資源とは、すべての資産、ケイパビリティ(能力)、コンピタンス、組織内のプロセス、企業の特性、情報、ナレッジなど、企業のコントロール下にあって、企業の効率と効果を改善するような戦略を構想したり実行したりすることを可能にするものである。」と論じています。
繰り返しとなりますが、経営資源とは、その企業が経営理念を実現するために、企業が活用できる全ての資源を言います。それが、時代によって変化したり、また人によって色々と定義が異なっているだけです。
経営者の役割は経営資源の配分
しかし、時代が変わっても、変わらないものも存在します。経営においては、その一つが経営者の役割です。
確かに、時代が変われば、経営者の役割は変わってくる可能性があります。しかし、現時点でも、変わっていない経営者の役割とは一体何か。
それは、「経営資源の配分の決断を下すこと」です。
経営資源の配分は経営者しかできない仕事
この「経営資源の配分の決断を下すこと」とは、限られた経営資源を使って、どのように効率よく企業活動を行っていくのかを判断して、実際の活動を意思決定していくすることです。
つまり、経営資源を「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つに分類した時、以下のように問うことができます。
- ヒトの配分:どのような仕事に対して集中してヒトを割り当てるのか?
- モノの配分:製造業において複数製品を作る機械を保有している時、どのような割合で機械を稼働させるのか?
- カネの投資:他の経営資源を手に入れるために、何にカネを割り当てるのか?
- 情報の投資:どのような情報を入手し、どの情報を活用して(経営)判断するのか?
因みに、ひと昔前、経営を語る上で「選択と集中」という言葉が流行りました。これは単に「経営資源の配分の決断を下すこと」を言い換えているに過ぎません。
また、「ビジネスステージの正しい登り方」では、マネージャーの仕事は投資することであると説明しました。これは、カネの投資先に焦点を当てた説明でした。
経営者の役割は、この投資も含めて「経営資源の配分の決断を下すこと」です。そして、この「経営資源の配分の決断を下すこと」は、経営者にしかできない役割です。
それは、いわゆる社内の「決裁権」とも言えます。もし、あなた以外にもそのような権限があるとすれば、それは権限を委任していることにしか過ぎません。
ヒト・モノ・カネ・情報の順番には、きちんと意味がある
よく議論されるのが、この「ヒト・モノ・カネ・情報」の順番です。
「語呂合わせが良いから」とか、「情報は後で付け足されたから」など言われることもあります。
また、「「モノ・カネ・情報」は「ヒト」が動かすことによって初めて意味をなす経営資源だから」という理由も挙げられたりします。
松下幸之助氏が「企業は人なり」と言ったように、「ヒト」が最も大切なものであることは、誰しも納得されると思います。しかし、これでは「モノ・カネ」の順番は説明が付きません。
経営資源は、移動させるコストが高いほど重要
実は、この「ヒト・モノ・カネ・情報」の順番は、移動コストの高い順番に並んでいるのです。
すなわち、情報は、IT技術の発達により、殆どコストがかからずに全世界に送ることができます。カネは、送金コストがかかりますが手数料程度です。モノは、その大小によって輸送コストがかかります。そして、この中で、ヒトの移動コストが一番大きいことは想像に難くないと思います。
例えば、大阪から東京に経営資源を移動させる場合、以下のようなコストがかかります。
- 情報:メール送信料(ほぼコストゼロ)
- カネ:振込手数料
- モノ:配達料・郵送料
- ヒト:交通費(新幹線代)
上記では、物理的な移動コストのみを考えました。しかし、ヒトを人として動いてもらうためには、心を動かす必要があり、それは目に見えないものも含めると、更に大きなコストがかかることであると理解して頂けるかと思います。
経営資源でよく言われる「ヒト・モノ・カネ・情報」の順番には、きちんと意味があります。それは、移動コストの順に並んでおり、その並びが、そのまま重要度に繋がっているのです。
中小企業の経営者にとって、最も大切な経営資源は「時間」
今回、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」について説明してきました。その順番と重要度をお伝えしてきましたが、それだけで終わりではありません。
実は、中小企業経営者の最も大切な経営資源がこの中に含まれていません。それは何か。
「時間」です。
つまり、近年「時間」や「知的財産」というものも経営資源に挙げられるようなっていると冒頭で説明しました。このうち中小企業の経営者に、特に意識して頂きたい経営資源が「時間」なのです。
何故か?
それは、先ほどの経営資源の移動コストを考えた場合、「ヒト・モノ・カネ・情報」というものは、どんなコストがかかろうとも、移動させることができる経営資源でした。
一方で、「時間」は移動させることができません。そもそも「時間」は移動するものという概念がありません。すなわち、「時間」は先の4つの経営資源とは異なる次元にあります。
あなたの会社の経営資源として、「ヒト・モノ・カネ」は投資することで増やすことができますが、経営者であるあなたの「時間」は増やすことができません。
あなたの経営資源である「時間」は1日24時間です。その限られたあなたの経営資源という有限な「時間」を何に配分するのか。
29,200日という限られた時間
人生80年と考えた時、人が生まれてから死ぬまでの日数は29,200日(=365日/年×80年)です。
仮に、あなたが40歳とするならば、残された人生の日数は14,600日です。
また、あなたが今のビジネスに関わるのは何歳まででしょうか?
仮に70歳でリタイヤすると考えれば、あなたが今40歳ならば、ビジネスに関わることができる日数は、後30年の10,950日です。
この日数が長いと考えるか、短いと考えるかは人それぞれです。ただ、考えなければいけないのは、この限られた日数で、あなたはどのようなビジネスを展開されたいのでしょうか?
そのように考えた時、改めて経営資源という「時間」の使い方について考える必要があるのだと思います。
まとめ
大きな企業であれば、専門性が高い豊富な人材を抱えているため、仕事を細分化することで、経営者の有限な「時間」を捻出することは容易なのかもしれません。
しかし、中小企業においては、多くの仕事を経営者に頼っているのが実情だと思います。そのため、多くの経営者の方が「毎日が仕事、仕事で、忙しい。」と時間に追われているのではないでしょうか。
もし、あなたがそのよう状況であるならば、今一度、経営資源という観点で、「ヒト・モノ・カネ・情報」そして「時間」の配分について考える必要があるのだと思います。
「成功の2つのタイプを理解して、社員を活かす」では、「去年より人生が面白くなっているか?」と問いました。
決して、楽をすることを勧めているのではありません。「仕事があって忙しい」ことは素晴らしことです。
しかし、「去年よりも人生が面白くなっておらず、仕事に追われて、忙しい。」と感じるのであれば、裏返せば、限りある「時間」という経営資源の配分の決断を見直す必要がある。ということです。
経営者にしかできない役割は「時間・ヒト・モノ・カネ・情報」の経営資源の配分を決断することです。
是非、一度、この経営資源の配分について、考えてみてください。明日から、見えてくる世界が変わってくるかもしれません。