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「成功」の定義は人それぞれだと思います。しかし、誰しも成功したいと願っていると思います。
もし、あなたが会社を興されたのであれば、きっと何かしらの夢や願望を達成される成功を望まれたのだと思います。
有名な『ユダヤ人大富豪の教え』を書かれた自己啓発書作家の本田健は、成功にも2つのタイプがあると言います。それが、目標型と展開型です。
目標型と展開型の成功の2タイプ
あなたは、小学生の頃、夏休みの宿題は、計画を立ててコツコツとやり遂げた子供でしたか?それとも、8月後半になって、慌てて宿題に取組んでいた子供でしたか?
もし、夏休みの宿題を計画通りにコツコツとやり遂げられた子供であれば、あなたは目標型です。一方、8月後半に慌てて宿題に取組んでいたのであれば、あなたは発展型です。
おそらく、殆どの方が8月後半に慌てて宿題に取組んでいたのではないでしょうか。それもそのはずです。「目標型の人は5%ぐらいしかいない」と本田氏は指摘しています。
つまり、大半の方が展開型なのです。言い換えれば、殆どの方は、目標・計画を立てて、その計画通りに行動を起こせないのです。だからこそ、世の中では、目標達成のノウハウが多く語られるのではないでしょうか。
しかし、本田氏は「目標型の人しか成功できない」とは言っていません。成功には2タイプがあり、それが、目標型と展開型なのです。
そして、この2つのタイプには、それぞれ、心がけるべき点があります。言い換えれば、それぞれのタイプで、より大きな成功を手に入れるための大事な視点があります。
成功を飛躍させるには目標型と展開型のバランスが大切
目標型
目標型とは、明確な目標を掲げて、それに向かって計画を立ててコツコツと地道に行動することで成功していくパターンです。この目標型は時には山登り型とも呼ばれます。山登りをするように、自力で一歩一歩、山頂を目指して登っていくイメージです。
目標型で気を付けたいことは、自分が立てた計画を達成することにこだわると、自分が予期しないチャンスが巡ってきたときに、そのチャンスを見逃す可能性があります。
つまり、目標達成には、自身が立てた計画を達成することも大切ですが、それだけでは自身の予想範囲内の成功しか達成されません。
目標型の人が成功を飛躍させるためには、自分の外からやってくる幸運を逃さないためにも、次に説明する展開型のように時には周りに流されることも大切である、ということを理解しておく必要があります。
展開型
展開型とは、明確な目標は立てずに、周りの出来事に流されながら、人との繋がりによって、成功していくパターンです。この展開型は、川下り型とも呼ばれます。川下りをするように、川の流れに身を任せて、川を下っていくイメージです。
展開型は、基本的には流れに身を任せているため、気付けば漂流状態となり同じ次元を漂い続け、いつまで経っても成功を手に入れられない可能性があります。
つまり、展開型の人が流れに身を任せつつも、自分が想像する以上の成功を手に入れるためには、時には、目標型のように明確な目標を持つ必要があります。
但し、目標型のように、目標に対する細かな計画を積極的に立てたり、一人で淡々と行動したりすることは難しい場合が多いと思います。
このため、自分自身がワクワクできるような目標を立てることが大切です。
また、目標達成に関連付けた行動が取れるような心がけが必要です。具体的には、その目標に関連があり、あなたが興味を持てるグループに属するなどが考えられます。
また、仲間やメンターと呼ばれる仕事上(人生上)の指導者、助言者が変化の鍵になります。つまり、あなたの背中をそっと後押ししてくる人や、迷っている時に、方向性を指し示してくれる人。そのような人を持つことが大切です。
あなたには、そのような仲間やメンターはいますか?そして、展開型の社員が漂流しているところを次元上昇する手助けをできていますか?
何事にも言えますが、目標型、展開型のいずれのタイプにおいても、より大きな成功を手に入れるためには、両者のバランスが重要です。
常に、「去年より人生が面白くなっているか?」を考える
もし、あなたが、行き詰りを感じているようであれば、自分が目標型、展開型のどちらのタイプであるかを認識した上で、上記に上げたポイントの行動を見直してみてください。
特に、あなたが展開型であると分析されている場合、目標を立てることはとても重要です。この時の目標は明確でなくても結構です。方向性を指し示せる程度でも結構です。漠然と「こうなったら、楽しいだろうな」とワクワクできるような目標を立ててみてください。
そして、この行き詰まりの状態を判断する指標は、「去年より人生が面白くなっているか?」です。
あなたが思うような成功に手が届いていないようであれば、「行き詰っている」と感じるかもしれません。しかし、もし、「去年よりも人生が面白くなっている」ようであれば、確実に成功に近づいているはずです。
一方、「目標に対して、計画通りに進んでいる」と思っていても、「去年よりも人生が面白くなっていない」ようであれば、注意が必要です。あなたが立てた目標には近づいているかもしれませんが、あなたが本当に望む成功には近づいていない可能性があります。
常に、「去年より人生が面白くなっているか?」を考え、取り組むことの修正を心がけてください。
基本的に、社員はあなたよりも展開型の思考
目標型は全体の5%程度といい、大半の方が展開型であると言いました。そして、より大きな成功を手に入れるためには、目標型と展開型のバランスが必要ともお伝えしました。
つまり、全ての人は目標型と展開型に完全に分けられるわけではなく、目標型と展開型の要素を含んでいると考えるのが自然だと思います。
言い換えれば、人によって、どちらが強いか。また、その場面によって、目標型と展開型の思考が強く表れるかの違いであると考えるのが自然だと思います。
そして、もし、あなたが経営者であるならば、目標型の要素が占める割合が大きいと考えられます。何故なら、起業・創業という大きな決断は、何らかの大きな目標型の行動の結果だと言えるからです。
よって、もしあなたが小学生の時、夏休みの宿題を8月後半に取り組んでいたとしても、目標型の要素は大きいと考えられます。
一方で、社員の方は、あなたよりも目標型の要素は小さいと言えます。何故なら、もし社員の方に目標型の思考があれば、きっと、自分自身で会社を起こしているからです。
つまり、社内で比較すると、あなたはより目標型の思考であり、社員の方はより展開型の思考であると言えます。
そこで気を付けて頂きたいことが、あなたの目標型の思考基準で、社員の方に目標型の思考を要求することです。
誰しも得意・不得意が存在し、得意なことは気持ち良く取組めると思いますが、不得意なことはなかなか取り組めないと思います。つまり、あなたの思考基準で、社員に思考・行動を求めることは、社員の生産性を著しく低下させる要因になります。
もちろん、「仕事なんだから。指示されたことやるのは当然のこと」という考えもあるでしょう。しかし、「社員の能力を引き出すことが、社長や経営幹部の当然の仕事である」とも言えます。
経営学者のピーター・ドラッガーは、著書『創造する経営者』で、
「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである」と言います。そして
「人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである」とも論じます。
まとめ
あなたは、社長として、社員の強みを活かすことが出来ているでしょうか?
ビジネスをする上で目標は欠かせません。しかし、数字の目標だけでは、展開型のタイプには響きません。是非、目標設定する際には、展開型の人たちがワクワクできるような目標を設定することを心掛けてみてください。より、一層パフォーマンスを発揮してくれるはずです。
中小企業が、厳しい変化の時代を生き残っていくためには、社員一人ひとりが、活き活きと働き、各々の能力を最大限に発揮する必要性に異論はないと思います。
その社員の能力を最大限に発揮させるためには、社員一人ひとりを良く知る必要があります。
今回、成功にも目標型と展開型の2タイプが存在することをお伝えしました。
目標型と展開型とでは、基本的な思考が異なります。その思考が異なっていることを理解した上で、それぞれを補完する考え方を活かしてください。
そして、会社全員でより大きな成功を掴み取って下さい。
補足
以下、目標型と展開型の補完する考え方を今一度整理します。今後の活動の参考にして頂ければと思います。
目標型の人が、より効果的に夢・願望を実現するポイント
- 最終結果だけでなく、過程を楽しむ(途中で起きることを楽しみにする)
- 時間軸にとらわれず、多少の誤差を許す
- やるべきことより、やりたいこと・ワクワクすることを目標にする
展開型の人が、より効果的に願望を実現するポイント
- 方向性をつくるために目標を作る
- ワクワクできる目標を作る
- 積極的に行動を起こすことが苦手であるため、段取り・準備を大切にする
- より良い成功のために目標は役に立つと考える
経営学者のピーター・ドラッガーは、
仕事を生産的なものにするには、成果すなわち仕事のアウトプットを中心に考えなければならない。技能や知識などインプットからスタートしてはならない。技能・情報・知識は道具にすぎない 『マネジメント』, P.F.ドラッガー
と述べています。
結果を得るためには、行動が必要です。
しかし、そうは言っても「行動できない」という方は、たくさんいるかと思います。何故、行動できないのか?それをABC理論から紐解いていきます。
ABC理論とは
ABC理論とは、アルバート・エリス(Albert Ellis)が1995年に提唱した心理療法である論理療法の理論です。この論理療法は1990年代より、理性感情行動療法(REBT, Rational Emotive Behavior Therapy)と呼ばれるようになります。従来の論理療法という名称では、感情に目を向けない、行動を見ないといった誤解が生じることから、Emotional(感情)とBehavior(行動)の文字を入れるようになりました。
また、論理療法は、後にアーロン・ベックが提唱した認知療法と合わせて、認知行動療法(CBT, Cognitive Behavior Therapy)と称されるようになります。この認知行動療法は、従来の行動に焦点を当てた行動療法から、思考など認知に焦点をあてることで発展してきた心理療法の総称です。
アルバート・エリスは、心理的問題や生理的反応は、事象や外的刺激そのものではなく、それをどのように受け取ったかという認知を媒介として生じるとして、論理的な思考が心理に影響を及ぼしていることを重視しました。
つまり、感情は「ある出来事」そのものが起因するのではなく、その人の「信念」を通じた解釈によって生み出された「結果」であるとアルバート・エリスは論じたのです。
言い換えれば、「ある出来事」と「結果」の間には、「信念」による解釈の違いが存在し、その解釈の違いによって「結果」が左右されると言えます。
そして、同じ「出来事」であっても、人によってその「出来事」に対する「感情や行動(結果)」が異なることがありますが、それは、人ぞれぞれの「考え方(信念)」に影響されているという訳です。
このように、「出来事(Activating event)」から、直接「結果(Consequence)」に結び付くのではなく、必ず「信念(Belief)」を通すことで「結果(Consequence)」として現れてくると考えた理論が、これらの英語の頭文字を取ったABC理論です。
そして、このABC理論が示すことは、「出来事(A)」と「結果(C)」の間にある「信念(B)」を意識的に活用することが、問題解決を促進することに繋がるということです。
2人の社員さんを例にABC理論を考える
例えば、あなたが、佐藤さんと田中さんの2人の社員に対して、仕事について同じ指摘をしたとします。
田中さんは、次のように考えます。
出来事(A):仕事について指摘された
信念(B):(思考)自分は期待されている!
結果(C):(感情)期待に応えるために、もっと頑張ろう!
しかし、佐藤さんは、次のように考えます。
出来事(A):仕事について指摘された
信念(B):(思考)自分は、なんて仕事ができいなんだ。
結果(C):(感情)今の仕事は自分に向いていない。早く辞めたい。
あなたは、常に、田中さんのように解釈してくれることを期待して、仕事に対する指摘をしていると思います。しかし、中には、佐藤さんのように解釈する社員もいます。
このような小さな意思疎通のすれ違いが、時には、社員の立場からは「パワハラを受けた」という大きなすれ違いに発展してしまうかもしれません。
そこで、佐藤さんのように解釈せずに、田中さんのように解釈してもらうためには、どうしたら良いか?
それは、きちんと「意図を伝えること」です。
つまり、あなたの言葉(出来事)が、個々の考え方(信念)による感情(結果)とならないように、意図をしっかりと伝えることが大切です。
そして、その意図が、言葉にしなくても伝わるようになって初めて、会社共通の信念となります。つまり、会社共通の信念になって初めて、意図を伝えなくても、「仕事に関する指摘は、怒られているのではない。次を期待されているのだ」と誰もが指摘を前向きに解釈することができるようになります。
これが、グーグルが唱えた「心理的安全性」です。
心理的安全性とは、グーグルが導き出したチームのパフォーマンスを決定付ける一番大きな要因です。つまり、チームのパフォーマンスを上げるためには、チームメンバー間で不安や恥ずかしさを感じることなく、個々がリスクある行動を取ることができるか。という要素です。
詳しくは「成果を出す組織~関係の質~」をご参照下さい。
「社員が行動しない理由」と「あなたが行動できない理由」
社員が行動しない理由
経営者の方とお話していると、次のような発言を良く耳にします。
「うちの社員は何度指示しても、きちんと行動しない。何故やらないのか、わからない」
これをABC理論で考えてみます。まず、指示(A)から直接的に、行動すること(C)には結びつきません。それは、指示した側と指示された側の両方に言えることです。
すなわち、指示した側では、指示(A)から行動する(C)に至るまでの考え方(B)があるため、指示から行動することは当然のことと考えます。
一方、指示された側にも、指示(A)を解釈する考え方(B)があり、その結果、行動しないという結果(C)に至ります。
つまり、「指示したから、やりなさい」では、人は行動しません。「何故、それをするのか」という考え方が変わらない限り、人は行動しません。
もし、あなたの会社でも「指示しても、その指示に従わない」という社員がいるようであれば、その人の考え方を変える働きかけが必要です。
この考え方を変える働きかけとして「会社共通の理念を醸成していくこと」が最も望ましいです。
一方、極端な働きかけとしては、「指示に従わなければ、人事評価・給与に反映させる」ということを人事制度に明記することも考えられます。
あなたが行動できない理由
さて次は、もし、あなたが「なかなか行動できない」でいる場合、その理由について考えてみたいと思います。
あなたは、「会社を変えていくためには、やることがある。でも、何をすればよいのか分からず、なかなか行動できない」ということはありませんか?
そのような場合、「何をやるべきか?」とやることを探し続けていませんか?
つまり、「行動できない」の結果(C)を変えて、「行動する」の結果(C)を得るために、「やること」という事象(A)を変えることに焦点を当てていませんか?
ここでもABC理論で考えると、「行動できない」の結果(C)を変えて「行動する」の結果(C)に変えるためには、「やること」の事象(A)を変えるのではなく、信念である考え方(B)を変える必要があります。
言い換えれば、これまで「行動できない」結果は、「行動できない」に至る考え方があるはずです。この考え方を変えない限り、「行動する」という異なる結果に変えることはできません。
あなたの行動を変えるための考え方
「あなたが指示しても社員が行動しない理由」と、「あなたがやらなければいけないと考えても行動できない」ことに共通することは、考え方を変えることだと指摘しました。
では、具体的に、あなたの「行動できない」に至った、どのような考え方を変える必要があるのでしょうか。例えを挙げてみると「行動できない」でいる時は、以下のような考え方が想定されます。
- 行動するなら、失敗したくない
- 失敗すると、会社に悪い影響を及ぼす
- 行動して失敗するなら、行動しないほうが良い
そして、「行動する」結果(C)に変えるためには、この考え方(B)を以下のように書き換える必要があります。
- 行動するときは、失敗してもいい
- 失敗しても、会社への影響は小さい
- 本当の失敗は、行動しないことである
いかがでしょうか。「なるほど」と納得して頂ける場合もあるでしょう。しかし、「そんな単純にはいかない」と納得できない場合もあるかと思います。
ABCDE理論で解釈を変える
そのように単純にいかない場合に、あなたの解釈を変える方法が、更なるABCDE理論です。
繰り返しとなりますが、ABC理論は、ある出来事(Activating event)に対して反応は、その人の信念(Belief)を通して解釈された結果(Consequence)です。
つまり、この結果(C)を変えるためには、この非合理な信念(B)を修正する必要があります。
そして、この非合理な信念(B)を変えるために、今の解釈が不適切であると気づいてもらうことを目的として、非合理な信念に対して反論(Dispute)をします。その結果、新しい合理的な信念に変えることができるという効果(Effective)が得られます。
これらの一連を英語の頭文字を取って、ABCDE理論と呼びます。なお、 効果を新しい効果的な信念と言う意味で、Effective new beliefという言葉が使われることもあります。
例えば、「失敗すると、会社に悪い影響を及ぼす」という解釈は以下のように反論(D)することができます。
- 失敗したら、本当に会社に悪い影響を及ぼすのでしょうか?
- 失敗して会社に悪い影響を及ぼすとしたら、具体的にどのような規模でしょうか?
- 失敗した場合、具体的に会社はどのような状態に陥るのでしょうか?
このように反論することで、例えば「失敗しても、会社に与える影響は問題ないレベルである」と解釈を変えていきます。
なお、このような変えるべき不適切な解釈をイラショナルビリーフ(非合理的信念)と呼びます。イラショナルビリーフは、「~であるべき」とか「~であらねばならない」というような融通の利かない信念のことを言います。
一方で、ラショナルビリーフ(合理的信念)は、確実性ではなく確率的な考えに基づいて「~にこしたことはない」という考えです。
つまり、何故、そのような不適切な解釈をしているかを問うことで、合理的な信念に変えていくことがABCDE理論です。
「人はWhatではなく、Whyに動かされる」という言葉がありますが、まさしく、ここでいうWhatが事象(A)であり、Whyが信念(B)です。Whyである信念(B)を変えることが極めて重要であるということです。
まとめ
今回、「行動しない」・「行動できない」をABC理論で紐解いていきました。「行動する」ためには、その元にある「行動しない」・「行動できない」理由を作っている非合理な信念(B)を変える必要があります。
つまり、「WhatではなくWhyが大事」という訳です。言い換えれば「手段と目的」です。「やり方と考え方」とも言えます。
しばしば、目の前の「手段」に焦点が当たってしまうことで、「目的」が見えなくなることがあります。是非、「手段と目的」をセットで物事を捉えて頂ければと思います。
社員にも、「手段と目的」をセットで伝える。
あなたも、「手段と目的」をセットで物事を判断する。
「やり方」だけでなく、その「考え方」をセットで検討する。
当たり前のことと言えば、当たり前のことですが、なかなかできていないのが事実です。今一度、心がけることで、見えてくる世界が異なってくるはずです。
経営やマネジメントの場面では、よく「PDCAサイクル(PDCA)を回すことが大切だ」と聞くことがあると思います。もしかしたら、あなたも社員に「きちんと、PDCAサイクルを回しなさい」と指示をしているかもしれません。
しかし、一方で「PDCAサイクルは時代遅れだ」「これからは、OODAループ(ウーダ・ループ)の時代だ」ということを耳にする人もいるのではないでしょうか。
人は新しいものを好む傾向にあります。特に世間で噂されているものであれば、その新しいものが、より一層よいものに見えてきます。
しかし、経営は、一つの判断が大きな機会損失になります。是非、流行に流されずに、物事の本質を見極めた上で判断する習慣を身に付けて下さい。
今回は、このPDCAサイクルとOODAループについて取り上げます。このPDCAサイクルとOODAループの説明した上で、これら2つに対する考え方を提示したいと思います。
PDCAサイクルとは
PDCAサイクルは、PDCAとも表記され、多くの方が一度は聞いたことがある言葉だと思います。それほど、PDCAサイクルは日本に浸透しています。
このPDCAサイクルは、生産技術における品質管理などの継続的な改善活動を行う際に使われるフレームワークの一つです。1950年代にアメリカの品質管理研究の第一人者であった統計学者ウィリアム・エドワーズ・デミングとウォルター・シューハートによって提唱された考え方です。
そして、PDCAサイクルのポイントは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4段階を繰り返すことです。PDCAは、それぞれの英語の頭文字を取っています。なお、最後のActは名詞のActionと表記される場面が多いです。
現在、このPDCAサイクルは、管理手法の基礎として利用されるだけでなく、ビジネスやスポーツなど分野を問わずさまざまな場面で活用されています。
なお、提唱者のデミングは、晩年まで「CheckはHold Backという停止を意味することから好ましくない」と主張していました。そして、没年には「Checkは、研究を行うStudyに置き換えPDSAサイクルとすべきである」とも主張していました。
【PDCAサイクルの概要】
- Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する。
- Do(実行):計画に沿って業務を行う。
- Check(評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを評価する。
- Act(改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて改善をする。
OODAループとは
OODAループとは、意思決定と行動に関する思考法です。Observe(観察)→Orient(情勢への適応)→Decide(意思決定)→Act(行動)のループによって、健全な意思決定を実現するというものです。
このOODAループは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐が、朝鮮戦争における戦闘機の空中戦での洞察を元に提唱し、元々は航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象としていました。
しかし、指揮官のあるべき意思決定プロセスを分かりやすく理論化したものとして、アメリカ全軍やNATO(北太平洋条約機構)加盟国をはじめとする西側各国の軍隊だけでなく、中国やロシアを含む世界中の軍隊でも採用されるようになりました。
そして、今ではシリコンバレーをはじめとするビジネス界でも採用され、アメリカのビジネススクールでも取り上げられるようになっています。
なお、ジョン・ボイド大佐は、航空戦において、どんなに不利な状況からであっても、40秒あれば形勢を逆転できたということから「40秒ボイド」の異名を持っていました。そんな彼の強さの秘訣を一言でいうと「行動に移す速さ」です。
ジョン・ボイド大佐は、軍を引退した後に人間の意思決定に関する研究に没頭し、その研究の末に作り上げたのがこのOODAループです。
すなわち、OODAループは、そのループの速さも必要な要素とされています。
【OODAループの概要】
- Observe(観察):周囲の状況を観察する。
- Orient(方向付け):Observeで分析した結果を踏まえ、行動する方向性を定める。
- Decide(意思決定):Orientで定めた方向性から行動を定め、意思決定を行う。
- Act(実行):Decideまでに決めた行動を実行する。
PDCAサイクルとOODAループの違いは?
よく、PDCAサイクルとOODAループとを比較した説明では、次のように説明されることがあります。
「近年の予測の難しい環境では、臨機応変さやスピードが求められる。しかし、多くの企業では、過去の前例などからPDCAサイクルが染み付いており、スタートアップやニッチ企業との競争では明らかに不利である。
一方、OODAループは、状況の不確実性や不透明性を前提に、機敏な意思決定と行動によって優位性や高いパフォーマンスを実現しうる思考法である」
ひと言で表現すると「PDCAサイクルは行動までに時間がかかる。OODAループは行動までの時間が速い。だから、OODAループの方が優れている」
このような説明は、完全に間違っているとまでとは言いませんが、抑えて置くべきポイントがズレていると言えます。
何故なら、PDCAサイクルは上述したように、もともとは生産管理や品質管理の手法です。そのため「決まっている工程で、どのようにすれば低いコストでより多くの効果を発揮できるか」を解決するのに適した手段です。
つまり、PDCAサイクルは、プロセスを重視しており、数値的な裏付けや指標をもとに目の前の課題や中長期的な視点から企業を成功に導くフレームワークです。
一方で、OODAループは状況に応じて意思決定を行うための思考法です。そのためPDCAサイクルのような決まった業務のフロー改善ではなく、明確な工程のない物事に対して意思決定を行うための手法と言えます。
言い換えれば、OODAループは現場適合性を重視しています。迅速な周囲の観察や迅速な判断、実行が常に求められる市場の動向や顧客ニーズに適合した思考法なのです。
すなわち、PDCAサイクルとOODAループは、効果を発揮するために使われる場面・状況が異なります。一概に「PDCAサイクルは古くて使えない。OODAループは新しくて時代に合った思考法だ」とは言えないのです。
PDCAサイクルとOODAループの共通点
もう一つ、PDCAサイクルとOODAループの違いとして、スタート地点が異なることが指摘され、以下のように説明されることが多いです。
つまり、PDCAサイクルは、計画を立てて実行し、それを評価・分析した上で、はじめて次の改善に移る。
一方、OODAループは、まず現状を観察することから開始し、分析から実行までを速やかに実施する。
結局、サイクル・ループを回すことが大事
しかしながら、どちらにも共通することは、各要素を回し続けることが大切だということです。つまり、プロセスとして回すことができれば、スタート地点が異なったとしても、それは大きな問題ではないのではないでしょうか。
具体的には、両者のプロセスを直線に表すと、各要素が何度も出てきます。
PDCAサイクルのDo(実行)と、OODAループのAct(実行)を起点として考えると、「PDCAサイクルのD→C→A→P」と「OODAループのA→O→O→D」は、実行→検証→修正→仮説の流れでほぼ同じ意味になることに気付いて頂けると思います。
つまり、両者とも仮説・実行・検証・修正のプロセスを回しているに過ぎません。
ここで言いたいことは、成果を出すための活動として「如何にプロセスを回し続けることができるか」。そして、「そのサイクル・ループを如何に速く回せるか」が重要であるということです。
「何のために」の目標を定めておくことが最も重要
そして何より、PDCAサイクルもOODAループも、あくまでも手段・方法に過ぎません。
あなたも、「PDCAサイクルを上手く回せない」「上手く回せないPDCAサイクルは意味がない」ということを耳にしたことがあるのではないでしょうか。
しかし、このようなコメントの背景には、手段である「PDCAサイクルを回す」ことが目的化している現場は多々あります。
極端な話、目標が達成されれば、PDCAサイクルが回せているか回せていないかは関係ありません。
あくまでも、「PDCAサイクル・OODAループで達成したい目標は何なのか?」を見失わずにプロセスを回してください。
OODAループは、新しい概念ではない。
このOODAループは、新星のごとく現れた新しい概念だと考えてしまいます。しかし、実はそうではありません。
では、いつ・どこで考えられていたのか?その答えは、仏教にあります。
仏教の教え:苦集滅道
仏教の教えに、四諦(したい)というものがあります。四諦とは、仏教が説く4種の基本的な真理で、以下の苦諦、集諦、滅諦、道諦の4つを指します。その4つを合わせて「苦集滅道(くしゅうめつどう)」と呼びます。
苦諦(くたい):生死の苦。つまり、現状。
集諦(じったい):苦の原因である煩悩の集まり。つまり、原因。
滅諦(めったい):苦集の無くなった悟りの境地。つまり、あるべき姿。
道諦(どうたい):悟りに至るまでの修行。つまり、やるべきこと。
OODAループ、ならびにPDCAサイクルの各要素と比較すると以下のように対応していると考えられるのではないでしょうか。
つまり、苦諦とは現状を受け入れること。集諦とは苦の原因を知ること。滅諦とは苦集のない理想のあるべき姿のこと。そして、道諦とは、滅諦までに行うこと。
まとめ
今回、従来から馴染みのあるPDCAサイクルと、近年新たに提唱されているOODAループとを比較して説明し、両者が使われる場面が異なることなどを示してきました。
しかし、実は、『OODA LOOP』(東洋経済新報社)の著者チェット・リチャードは、「PDCAの『Check』のプロセス、すなわち結果を観察し、必要ならば状況を変えるという行動にOODAは相当する」と述べています。
つまり、PDCAサイクルは会社・組織に属する活動領域を扱っており、OODAループは個人的な思考領域を扱っていると言えます。
時代と共に、新しい手段や方法が提唱されますが、それらはあくまでもやり方に過ぎません。大切なのは、そのやり方をどのように扱うかという考え方です。
さらに言うなら、正しい考え方と正しいやり方が合わさった時に初めて効果が得られます。やり方に流されずに、しっかりとした考え方を持って頂ければと思います。
ビジネスを行う上で、避けて通れない1つとして「集客」があります。そして、「集客」さえ何とかなれば・・・。と考える経営者は多くいると思います。
しかし、残念ながら「集客」は簡単ではありません。そのため、世の中にたくさん存在する「○○集客」という方法論が気になるかと思います。
これらの方法論を十分に活かすためには「集客」について理解し、どのような場面で使える「集客」方法なのかを見極める必要があります。
何故なら、「集客」を“どんなお客さま”を“集める”かによって、「集客」の方法が異なってくるからです。
「集客」とは、“どんなお客さま”を“集める”ことなのか?
「集客」とは“お客さま”を“集める”ことですが、その“お客さま”は、誰のことを指すのでしょうか。そして、“集める”とはどのような状態を言うのでしょうか?
当たり前すぎる話ですが、マーケティングを「売れる仕組み」としていくためには、ここから抑えて頂くことが大切です。
特に、もしあなたが「集客」について以下のように考えている場合は、是非、この機会に「集客」について整理して下さい。
- 集客のためにホームページを開設したい
- 集客力が落ちてきているので、ホームページを改修したい
- 集客するためには、ホームページのSEO対策が必要だ
- SNSで発信し続けているのに、いつまでたっても集客ができない
- インターネット時代、チラシには集客効果はない
- ネット広告に出しても、なかなか売上に繋がらない
マーケティングにおける6つの“お客さま”
マーケティングを考えた時、様々なお客さまがいます。それらが以下です。
- 潜在顧客
- 見込顧客(見込み客)
- 新規顧客
- 既存顧客
- 固定顧客(リピーター・リピート顧客)
- 優良顧客(ファン・ロイヤルカスタマー)
なお、潜在顧客以外の見込顧客・新規顧客・既存顧客・固定顧客・優良顧客を総じて顕在顧客とも言います。
この5つのお客さまは、各段階に応じて、あなたの商品・サービスに対する興味・関心や理解度が異なります。また、あなたとの関係性も異なってきます。
潜在顧客
潜在顧客とは、あなたの商品・サービスのことを知らなかったり、その必要性を感じていない人々です。
潜在顧客と合わせて、次に説明する見込顧客も、将来的にあなたの商品・サービスを購入する可能性がある人々という意味では、同じ意味で使われる場合があります。
ここでの潜在顧客は、あなたがアプローチをすることによって、これから見込顧客になる可能性がある人々を指します。
つまり、潜在顧客とは、あなたの商品・サービスを知らない。また、あなた自身のことを知らないお客さまです。
見込顧客
見込顧客とは、あなたの商品・サービスを知っていて、それらに興味・関心がある人々です。
あなたの無料サービスを利用したり、メールアドレスの登録、資料請求や資料のダウンロードなどをしていますが、この時点では、まだお金を支払っていません。今後、あなたにお金を払ってくれる可能性がある人々です。
つまり、見込顧客は、あなたの商品・サービスに興味を持ち、あなたとの関係性を構築し始めた段階のお客さまです。
新規顧客
新規顧客は、あなたの商品・サービスに対して、初めてお金を支払ってくれた人々です。
つまり、新規顧客は、初めて、あなたの商品・サービスの良さを理解し、あなたとの関係性が構築できたお客さまです。
既存顧客
既存顧客は、その名の通り、既にお客さまになった人々です。1回以上購入したお客さまを指します。ある意味、先に説明した新規顧客も既存顧客と言えますし、次に説明する固定顧客も含みます。定義の範囲が広いお客さまです。
つまり、既存顧客は、既に、あなたの商品・サービスの良さを理解し、あなたとの関係性を構築したお客さまです。
固定顧客
固定顧客は、固定化されたお客さまを指します。既存顧客は1回でも購入したお客さまを指しますが、この固定顧客は、あなたの商品・サービスを2回以上購入した、リピーター・リピート顧客が該当します。
もし、新規顧客となり、既存顧客となったとしても、あなたの商品・サービスに満足しなかった場合、一度はあなたと関係性を構築したとしても、それ以降にあなたから商品・サービスを購入することはありません。
つまり、固定顧客は、新規顧客の段階から更に一歩進んで、あなたとより強い関係性が構築できた段階のお客さまです。
優良顧客
優良顧客は、あなたが紹介する商品・サービスなら何でも買います!と言って頂ける人々です。
あなたの商品・サービス、ならびにあなた自身に惚れこんでいるため、あなたが「紹介してくれたらこんな良い事がありますよ!」と言わなくても、見返りを求めずに自ら口コミで知人・友人にあなたの商品・サービスを紹介してくれる人々です。
つまり、優良顧客とは、あなたの商品・サービスを愛用するだけでなく、推薦者としてあなたの商品(もしくはあなた自身)を他の人にも勧めるまで、あなたとの強い関係性が構築できた段階のお客さまです。
「新規顧客」を「集める」ための2つのルートを抑える
ここまでで、「お客さま」の定義について整理しました。では、改めて「集客」とは、どのようなことを言うのでしょうか。
多くの経営者は、「集客」とは“新規顧客”を“集める”と考えていると思いますが、先ほど説明した6つのお客さまのうち、潜在顧客、見込顧客、新規顧客の3つのお客さまについて考えてみます。
そして、この3つのお客さまを「商品の認知・理解」と「あなたとの関係性」の2軸で整理すると、以下の通りとなります。
潜在顧客:あなたの商品・サービスを認知しておらず、あなたとの関係性が構築できていない人々
見込顧客:あなたの商品・サービスは認知しているが、まだあなたとの関係性が構築できていない人々
新規顧客:あなたの商品・サービスの良さを理解しており、あなたとの関係性も構築できた人々
ここでの「集客」のスタートは潜在顧客であり、ゴールは新規顧客です。この時、スタートからゴールへのルートは、以下の2つが考えられます。
ルート1:「潜在顧客」→「新規顧客」
ルート2:「潜在顧客」→「見込顧客」→「新規顧客」
すなわち、最終的に新規顧客にあなたの商品・サービスを購入してもらう「集客」を考えた場合、ポイントは2つあります。
1つ目は、「集客」のルートをこの2つ分けて考えられているか。
2つ目は、2つのルートに分けた上で、ルート2は「潜在顧客に商品の認知・理解してもらい見込顧客となること」と、「見込顧客の状態から、あなたとの関係性を構築して、新規顧客になること」の2つの別のアクションを考えられているか。ということ。
3つ目として「既にあなたとの関係性が構築できている知人から、商品を購入してもらう」というルートもありますが、今回は考慮しません。
ちなみに、ルート1は、あなたの商品・サービスを知った時点で購入に至るワンステップマーケティングです。ルート2が、商品を見て、お試しを経て、購入に至るツーステップマーケティングです。
そして、インターネット上でこのプロセスを一度に行っているのが、LPと呼ばれているランディングページ(Landing Page)です。このLPを作成することをセールスライティングと呼びますが、まさしく、セールスするためのライティング技術です。
なお、ワンステップマーケティングとツーステップマーケティングについては、「ツーステップマーケティングという『売れる仕組』」をご参照ください。
「集客」を理解することで、正しいアクションに繋がる
多くの経営者は、この2つのルートの区別と、各ルートで行うべきことがはっきりと理解できていないため、「集客が上手く行かない」という言葉につながります。
つまり、スタートとゴールとそのプロセスが不明確であるために、具体的にどのようなアクションを取れば成果に繋がるかが分からない、という状況に陥っています。
逆に、スタートとゴールとそのプロセスが明確になれば、アクションも明確になります。具体的には、ルート2の場合、プロセスを以下の2つに分解します。
ルート2のプロセス1:「潜在顧客」→「見込顧客」
目的:あなたの商品・サービスを知らない潜在顧客に対して「商品の認知・理解」を広めて、見込顧客になってもらう。
ルート2のプロセス2:「見込顧客」→「新規顧客」
目的:あなたの商品・サービスに興味を持ってもらった見込顧客に対して「あなたとの関係性」を深めて、新規顧客になってもらう。
メディアの特徴を理解して“新規顧客”を“集める”
つまり、「集客」は“新規顧客を“集める”ことと考えた場合、「商品の認知・理解」を広める活動と、「あなたとの関係性」を深める活動の両方が必要になってきます。
そして、「商品の認知・理解」を広めることに得意なメディア(広告媒体)と「あなたとの関係性」を深めることに得意なメディアが存在します。
オンライン広告は「商品の認知・理解」を広めることに向いているメディアです。メルマガ(メールマガジン)は、「あなたとの関係性」を深めるメディアと言えます。
また、近年、様々なSNSツールが発達しており、種類によって「商品の認知・理解」を広めることができたり、「あなたとの関係性」を深めることができたりと、用途幅が広いメディアです。
このように、各メディアの特徴を理解した上で、メディア毎に「商品の認知・理解」と「あなたとの関係性」を促すメッセージを発信していくことが必要となります。
まとめ
「集客」は、「集客」の定義によって様々な説明がされます。今回、多くの経営者が考えている“新規顧客”を“集める”ことを「集客」と定義した上で、「集客」に必要な考え方について整理しました。
この時の「集客」には、「あなたの商品の認知・理解」を広げること、ならびに「あなたとの関係性」を深めることの2つの観点が必要であること。
ならびに、これら2つの観点を達成するために、各メディアの特徴を理解し、総合的にメディアを活用していく必要があること。これら2点について説明しました。
もし、あなたが、なかなか「集客」が上手くいかない。と嘆いているのであれば、それは、一つのメディアで“新規顧客”を“集める”ことを考えていませんか?
まずは、あなたの「集客」の活動は、「あなたの商品の認知・理解」を広げることができていますか?また、「あなたとの関係性」を深めることができていますか?そして、それらはどのメディアを使って達成しようとされていますか?
これらを考えて頂き、あなたの「集客」を改善させるきっかけを得て頂ければと思います。
「ツーステップマーケティングという『売れる仕組み』」では、2ステップマーケティングの考え方について説明しました。是非、マーケティングを「売れる仕組み」とするために、取入れて頂きたい考え方です。
今回は、この2ステップマーケティングの具体的なやり方・注意点について説明します。
ステップマーケティングに向いている商品・サービス
まず、2ステップマーケティングに向いている商品・サービスについて確認します。
「ツーステップマーケティングという『売れる仕組み』」でも説明したように、ビジネスの基本は1ステップマーケティングです。そして、2ステップマーケティングに向いている商品・サービスとは、1ステップで売りにくい商品・サービスの全てとなります。
具体的には、以下が挙げられます。
高額な商品・サービス
「ちょっと、妻(財布)と相談してみます」
と言われてるような高額な商品・サービスです。お客さまが購入する際に価格そのものが、大きなハードルになります。
1ステップで最初のハードルを低くして、お客さま(見込み客)と接する機会を作る必要があります。実際に、お客さまが商品・サービスを購入されるまでに費用がかかっても、最終的に購入して頂くお客さまが増えれば、1ステップから2ステップまでの購入にかかった費用を回収できるという計算も成り立ちます。
実際に使用して判断してもらいたい商品・商品
「私も使っているの。あなたも1回使ってみて、他との違いがすぐにわかるから!」
と言って人に勧めたくなる商品・サービスです。実際に使用してもらわなければ、その価値や使用感が伝わりづらい商品・サービスです。
化粧品、健康食品、健康器具、ダイエット関連商品などがその代表です。これらも2ステップマーケティング向きです。1ステップ目で、商品の価値や使用感を実際に体験してもらう事が必要です。まずは、お客さま(見込み客)に対して商品の体験を積極的に勧めることが必要です。
説明が難しい商品・サービス
「なんて説明していいのか・・・。説明するより1回使ってもらった方が、分かると思う!」
まだ世の中に浸透していない新しい商品・サービスは、一度使ってもらう必要があります。最近話題のサブスクリプション(継続課金)サービスは、実際に体験してもらわないと、その利便性などがなかなか伝わりません。文章や口頭で説明するより、まずは一度実際に使ってもらう。そして、その価値に気付いてもらうという商品・サービスです。
2ステップマーケティングを成功させるための鍵
2ステップマーケティングでは、「お試し→本購入」の流れと説明しました。これを「売れる仕組み」として考えた場合、全体プロセスは「広告宣伝→お試し→本購入」となります。すなわち、「広告宣伝」でお客さま(見込み客)を集客することから「売れる仕組み」として始まります。2ステップマーケティングを作る流れは、以下の3つです。
- 本購入の商品(バックエンド商品)を作る
- お試し商品(フロントエンド商品)を作る
- お客さま(見込み客)が目にする広告媒体を選ぶ
マーケティング用語では、本購入してもらう商品をバックエンド商品、お試し商品をフロントエンド商品と呼びます。以下では、マーケティング用語を使って説明します。
3つの流れの中には、それぞれポイントがあります。以下で、それを1つずつ押さえていきます。
バックエンド商品を決める
まず、最初に抑えておくべき大前提です。2ステップマーケティングの全体プロセスは「広告→お試し→本購入」ですが、決める順番は、「バックエンド商品」→「フロントエンド商品」→「広告媒体」の逆順です。
つまり、何事も目的が一番大切なように、この2ステップマーケティングも、最終目的であるバックエンド商品を最初に決めることが大事です。
決して、初めから「ネット広告を使おう」とか「フロントエンド商品でこれを使ってみよう」と考えてはいけません。
まず、「バックエンド商品としてこれを売りたい」と明確にすることが重要です。それは、あなたが本当に売りたい商品や、あなたの会社が得意としているサービスです。
一つだけ注意点を挙げるなら、後から決める広告宣伝の費用、フロントエンド商品の費用を回収できる売上が見込める商品・サービスである必要があります。
フロントエンド商品を設計する
フロントエンド商品は「商品」と言っても、利益が出る商品・サービスを作るわけではありません。クーポンや割引券、試供品、無料相談、無料レポートなどが中心になります。
もしくは、あなたの会社で多くの商品を抱えているならば、一番売りやすく、売れている商品を値下げすることで、フロントエンド商品とすることも可能です。
フロントエンド商品の注意点は、以下の4点です。一見すると矛盾する内容も含まれていますが、その矛盾をどのように実行に落とし込んでいくかが大切です。
- バックエンド商品に関係があること
- フロントエンド商品で利益を上げない
- フロントエンド商品には手間をかけない
- 効果測定がしやすく、意見が吸い上げやすいもの
バックエンド商品に関係した商品・サービス
フロントエンド商品の役目は、最終目的であるバックエンド商品を購入してもらうための1ステップ目です。つまり、フロンドエンド商品は、単純に人を集めることではなく、「バックエンド商品に興味を持ってもらう人を集める」ことです。
例えば、住宅展示場で「来店してアンケートにお答え頂いたら商品券1,000円分をプレゼント」というフロントエンド商品をよく見かけますが、これは良い例とは言えません。住宅購入に興味はなくても、商品券が欲しい人が集まってきます。
また、子供向けの無料イベントを行っている住宅展示場もよく見かけます。しかし、子供がいる全ての世帯が、住宅購入を考えているわけではありません。このため、この子供向けの無料イベントもフロントエンド商品としては、あまり良い例とは言えません。
但し、アンケートなどを取り、お客さまの連絡先を取っておくことで、継続的にアプローチすることができます。今すぐに住宅購入をすることがなくても、将来的に住宅購入を検討することになった際には、有望なお客さま(見込み客)になる可能性があります。
ここで大切なのは、フロントエンド商品を使って、バックエンド商品の購入までのプロセスをどのように設計するかです。
フロントエンド商品で利益は考えない
フロントエンド商品で利益を出すことを考えるなら、2ステップの必要はありません。ビジネスの基本である1ステップマーケティングを採用し、フロントエンド商品とバックエンド商品は別に販売して下さい。
ここでは、あくまでもバックエンド商品で利益を上げるためのフロントエンド商品と考える必要があります。つまり、極端な話、フロントエンド商品で利益が出てはいけません。フロントエンド商品は費用として考える必要があります。
もし、フロントエンド商品で利益が出るならば、その分、広告費・販促費を増やし、より多くのお客さま(見込み客)を獲得することを考えてください。
手間がかからないフロントエンド商品にする
利益が出ないフロントエンド商品の提供に手間がかかると、利益を出すためのバックエンド商品の提供に割く時間がなくなります。その結果、バックエンド商品の販売数に影響を及ぼしかねません。費用が掛かっても、手間をかけないフロントエンド商品とする必要があります。
例えば、整体院でフロントエンド商品を初回無料とした場合、初回のお客さまの数が多くなれば、既存のお客さまの予約が取れないなど、利益が得られにくくなります。この場合、既存のお客さまの予約状況にもよりますが、初回は施術時間を短くするなどの対応・微調整が必要となります。
フロントエンド商品の一番良い例が、定期購入してもらう健康食品の初回お試しセットです。バックエンド商品と同じ商品を扱うので、フロントエンド商品を作る手間がゼロです。
効果測定がしやすく、意見が吸い上げやすいものにする
フロントエンド商品の設計によって、バックエンド商品の売上が左右されます。
たとえば、フロントエンド商品のハードルを下げれば、お客さま(見込み客)の数は多くなります。しかし、単純に価格でつられたお客さま(見込み客)も増えると、バックエンド商品の購入率は下がります。
逆に、フロントエンド商品のハードルを上げれば、お客さま(見込み客)の数は減ります。ところが、多少のお金を払っても、商品・サービスの中身を確認したいと思うお客さま(見込み客)が増えれば、バックエンド商品の購入率は上がることになります。
繰り返しとなりますが、最終的な目的は、バックエンド商品の売上を最大化することです。そのために、フロントエンド商品の設計を最適化する必要があります。
この最適化は、試行錯誤することでしか達成されません。効果測定やお客さま(見込み客)の意見集約がしやすいフロントエンド商品の設計と仕組みを作る必要があります。
お客さま(見込み客)が目にする広告媒体を選ぶ
広告の役割は「バックエンド商品の存在を知ってもらう」ことです。
ここでの注意点は一つ、バックエンド商品を購入してもらいたいお客さま(見込み客)がよく目にする広告媒体にすることです。例えば、最近はネット広告が主流になりつつありますが、年配の方に購入してもらいたいバックエンド商品の場合、紙媒体の方がお客さま(見込み客)が反応する確率が高い場合もあると想定されます。
このためには、あなたがバックエンド商品を購入して欲しいと思うお客さま(見込み客)がどのような生活を送っているのかを知る必要があります。このお客さま(見込み客)を決めることが、ターゲット設定やペルソナ設定と言われているものです。
このターゲット設定やペルソナ設定は別途詳しくお話します。まずはそのような言葉あることを知って頂ければと存じます。
2ステップマーケティングの広告は、どのような媒体を使っても行えます。DM(ダイレクトメール)、チラシ、街頭でのビラ撒き、周辺地域へのポスティングなど基本的な紙媒体の他、ネット広告、そしてスーパーの試食のように店内でも行えます。
まとめ
2ステップマーケティングの具体的なやり方について説明しました。よく、マーケティングは「売れる仕組み」と表現されることがありますが、この2ステップマーケティングは「売れる仕組み」として設計しやすい販売手法です。
確かに、精度のよい「売れる仕組み」とするためには、色々と考えることや設定すること、そして測定して改善していくことは多岐に渡ります。しかし、それを地道に構築していくことがビジネスです。
また、何より、数字計測を継続することで、ビジネスの変化の兆しを早く察知できるようになります。ビジネスが悪化する傾向が見えれば、早めに改善策を打つことができます。この点でも2ステップマーケティングは極めて優れた販売手法だと言えます。
もしかしたら、あなたの商品・サービスの販売手法は、既に2ステップマーケティングの型になっているかもしれません。しかし、無意識にやっていることと、意識してやることには大きな差があります。是非一度、2ステップマーケティングの考え方を取り入れてみては如何でしょうか?
もし、慣れないことを一人で考えるのは難しい。と思われるのであれば、是非一度、無料相談をお申込み下さい。不明な点や疑問点を解消して、あなたの次の一歩の後押しをさせて頂きます。
あなたは「ツーステップ・マーケティング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
ツー(2)ステップ・マーケティングということは、ワン(1)ステップ・マーケティングも存在します。では、この1ステップ・マーケティングと2ステップ・マーケティングとは何か?
そして、この2つは何が違うのか。今回はこの2ステップ・マーケティングについて説明します(以後「・」は除いて記述します)。
1ステップマーケティングと2ステップマーケティング
まず、あらゆるマーケティング(販売方法)は、この1ステップマーケティングと2ステップマーケティングのいずれかに分類されます。
1ステップマーケティングは「商品を見た時に、購入してもらう」
2ステップマーケティングは「商品を試してもらってから、購入してもらう」
1ステップマーケティングは、街角などで見られる通常の販売方法です。コンビニやスーパーなど、お客さまに店頭で直接商品を買ってもらう販売方法です。これには、飛び込み営業、訪問販売なども含まれます。
また、インターネット上では、商品に繋がるリンクやバナー広告などから、商品・サービスを売買するECサイト(楽天・Yahooショピングなど)に直接アクセスをして購入してもらう販売方法も、1ステップマーケティングに分類されます。
一方、2ステップマーケティングは、商品を購入してもらうために、お客さまが「お試し→本購入」という2ステップ(以上)の過程を経る販売方法です。
例えば
- スーパーマーケットで試食してもらい、商品を購入してもらう
- 化粧品の試供品・サンプル品を取り寄せ・配布して、商品を購入してもらう
- 無料でゲームを試してもらい、継続する際に課金してもらう
- 動画見放題などのサブスクリプションサービスで、一定期間の無料期間後に課金する
- エステサロンにて、初めての方へのワンコイン・お試しチケットを配布する
このように2ステップマーケティングは、身近な場面で使われており、店舗ビジネスでも、情報商材ビジネスでも有効な販売方法です。
2ステップマーケティングの考え方
では、なぜ、2ステップの段階を踏む必要があるのでしょうか。
2ステップマーケティングを考える前の基本的な前提
この疑問に回答する前に、基本的な前提を抑えたいと思います。
まず、2ステップマーケティングは、流行りのマーケティング手法ではありません。
先ほどの例で挙げたように、あなたの身近にある販売方法です。あくまでも、2ステップマーケティングは、従来から存在しており、マーケティング(販売方法)を大きく2つに分類したうちの一つです。
そして、ビジネスの基本は、1ステップマーケティングだということです。
2ステップマーケティングは、商品を購入して頂くまでに手間と時間がかかります。その結果、現金(キャッシュ)が手元に入るまでの期間も長くなります。
このため、ビジネスの基本からは、2ステップマーケティングよりも1ステップマーケティングを優先しなければいけません。
何故、2ステップマーケティングなのか?
では、先ほどの質問を繰り返します。
「では、なぜ、2ステップの段階を踏む必要があるのでしょうか?」
その答えは「1ステップでは売れないから、もしくは2ステップで売った方が1ステップで売るよりも大きな利益が得られるから。だから、2ステップにしている」ということになります。
まずは、ビジネスの基本から、優先すべき1ステップで売れる方法がないかを考える。
そして、無理なのであれば「なぜ1ステップでは売れないのか?」と考える。
例えば、見ず知らずの人から、自分にとって役に立つのかわからない商品・サービスを購入することは躊躇すると思います。これが、手に取れない商品や形のないサービスならば、なおさら顕著になります。
そのほかにも、
- 見た目だけでは、商品・サービスの価値が伝わらない…
- 商品・サービスが複雑で、お客さまから見て価値がわかりにくい…
- 新しい商品・サービスなので、お客さまへの説明が必要…etc
いろいろな答えが出てくるのではないでしょうか。
その答えこそが、2ステップマーケティングで、お客さまに対して伝えるべきことだ、ということです。
つまり、2ステップマーケティングを導入することは、お客さまが商品・サービスを購入する際の不安やリスクのハードルを大きく下げることを目的としています。
言い換えれば、お客さまに不安なく購入してもらおう、気持ち良く購入をしてもらおう、つまり「信頼関係を構築してから、購入してもらう」。
そのための、工夫のひとつが2ステップマーケティングなのです。
2ステップマーケティングのメリット・デメリット
1ステップで売りにくい商品・サービスに、2ステップマーケティングを採用することは有効です。では、2ステップマーケティングのメリット、デメリットとは何か?これらについて整理します。
2ステップマーケティングのメリット
2ステップマーケティングでは、特に、高額商品・サービス、実際に使用感を確かめてもらいたい商品・サービス、事前に説明が難しい商品・サービスに対して、特に効果を発揮します。そして、以下のようなメリットが挙げられます。
お客さまの不満が発生しにくい
2ステップを踏むことで、お客さまにその商品・サービスの価値を判断してもらった上で購入してもらうことができます。つまり、1ステップはお試しなので、試して次にどうするかはお客さまの自由です。その後、納得の上での商品・サービスを購入してもらうため、お客さまの不満は発生しづらくなります。
お客さまの連絡先(見込み客リスト)が手に入る
2ステップマーケティングの具体的なやり方にもよりますが、お客さま(見込み客)の連絡先を入手することができます。
例えば、通販やネットショップで試供品を取り寄せるパターンであれば、お客さま(見込み客)の連絡先などの情報を頂くことになります。このため、その後、新商品を販売する際にメールなどで個別にアナウンスすることができます。
あなたの会社や商品・サービスに対して良い印象を持ったお客さま(見込み客)に対して、継続的なアプローチが可能になります。
効果測定を行いやすく、改善しやすい
よく、マーケティングは「売れる仕組み」と表現されます。しかし、高額な商品・サービスなど、お客さまの購入ハードルが高い商品・サービスを売る場合、どのような仕組みにすればよいかは難しい場合が多いです。
しかし、この「お試し→本購入」のステップを踏むことで、どのくらいの広告をかければ、どのくらいのお客さまがお試ししてくれるのか、お試ししてくれたお客さまがどれだけ購入していただけるのかを測定しやすくなります。
そのお客さま(見込み客)の反応を数字で測定することで、広告宣伝やお客さま(見込み客)へのアプローチ方法などの問題点や改善点などを見つけやすくなります。
商品・サービスの改善のヒントがもらえる
商品・サービスを体験したお客さま(見込み客)から直接お話を聞くことができます。たとえば、使ってみてどう思ったか、どうすれば使い続けるかなど、本来は購入後でなければ聞くことができない話の展開も可能です。
これらのお客さま(見込み客)の声を元に、商品・サービスの改善に繋げることができます。
ブランディング効果がある
お客さまに対して購入を急がせることなく、じっくりと向きあう2ステップマーケティングは、会社や商品・サービスの好感度や信頼感を高めることに繋がります。
その結果、商品・サービスやブランドに対してのイメージアップにも繋がり、結果としてブランディングを促す効果が期待できます。
特に、単純な広告宣伝ではブランド力のある大企業には勝てません。ブランド力のない中小企業こそ、2ステップマーケティングを有効に使うべきです。
お客さまの心理的効果にアプローチできる
「人は感情で買って、理屈で正当化する」という言葉があるように、マーケティングには心理的効果を上手く活用する必要があります。その点で、2ステップマーケティングはその心理的効果を上手く活用できます。詳細は、次項で説明します。
2ステップマーケティングのデメリット
デメリットは、お客さまが商品・サービスを購入するまでに時間を要し、手間がかかることです。試食や試供品を配るならコストもかかります。
そして、商品・サービスを購入してもらうまでの2ステップをスムーズにするための仕掛け作りと、反応率を上げるための改善も必要です。
しかし、この仕掛けをしっかりと作ることができれば、2ステップマーケティングは精度の高い「売れる仕組み」とすることができます。
2ステップマーケティングの心理的効果
2ステップマーケティングは、単純接触効果、一貫性の法則など、複数の心理的効果に基づいて考えることができ、極めて理論的なマーケティング手法と言えます。以下に、2ステップマーケティングに含まれる心理学的効果を説明します。
単純接触効果(ザイオンス効果・ザイアンス効果)
単純接触効果という心理的効果があります。人と人の関係は「他人→知人→友人→特別な人」というように、接触頻度によって親密度が増していきます。つまり、接触回数が増えることで、好感度が増していくという効果です。
これは人と人の接触だけではなく、商品・サービスの体験や見聞きしたもの全てが対象になります。例えば、大手企業が絶えずテレビCMを打ち続けているのは、商品やブランドへ対して好印象を持ってもらう効果を狙っているからです。
返報性の原理(返報性の法則)
返報性の原理とは、人は他人から何らかの施しを受けた場合に、お返しをしなければならないという感情を抱く心理のことです。
身近な例では、試食が当てはまります。スーパーなどでは試食したことで、商品を買わなければいけないという気持ちになることが多いですが、これは返報性の原理が働いています。
但し、ご自身が求めていないにも関わらず、積極的に試食や購入を促される場合は、次の「一貫性の原理」の方が強く働くことになります。
一貫性の法則
一貫性の法則とは「人は一度自分で決めたことをやり続ける、または信じ続けようとする」という心理のことです。
1ステップ目のお試し商品やサービスを受け入れたことで、引き続いて2ステップ目の本購入へのハードルを低くすることに繋がります。
一貫性の法則を利用したものとして、フット・イン・ザ・ドア「段階的承認法」というものがあります。フット・イン・ザ・ドアとは、小さな要求から承諾してもらい、次に、大きな要求を承諾してもらう、というトーク術です。
保有効果
保有効果とは、自分が所有しているものに対して高い価値をつけるようになる心理のことです。
得られた体験によって価値が向上するのではなく、ただ所有しているという事実だけで人の心のなかではそのモノの価値が上がります。
特に、一度手に入れたものを失うことを恐れるため、再購入しやすくなります。課金サービスで、殆ど使っていないにも関わらず、なかなか解約できないサービスはないでしょうか。これは、一旦、購入し始めると解約した時のデメリットを回避しようとする保持効果です。
まとめ
2ステップマーケティングの特徴について、様々な観点からまとめました。
2ステップマーケティングという言葉は、馴染みのない言葉だったかもしれません。しかし、昔からあなたの身近に存在している販売手法であることをご理解いただけたのではないでしょうか?また、その有効性も感じて頂けたのではないでしょうか?
もし、思うようにあなたの会社の商品・サービスをお客さまに購入してもらえていない。と感じているようであれば、この2ステップマーケティングを取り入れてみてはいかがでしょうか?
2ステップマーケティングの具体的なやり方については『ツーステップマーケティングの作り方』を参考にして下さい。
経営者のあなたは「やらなきゃいけない仕事に追われて、毎日が忙しい」と感じていませんか?しかし、それらは本当にやらなければいけない仕事ばかりでしょうか?
今回のビジネス・ビルディング・フォーミュラーとは、ビジネスにはステージがあり、今のステージから次のステージに登るために「やめるべきこと・やるべきこと」を示してくれる考え方です。
まずは、自分がどのステージにあるかを確認し、そのステージに応じた「やめるべきこと・やるべきこと」を知って下さい。そして次に、やめるべきことをやめ、やるべきことを行動に移して下さい、そうすれば、より得たい結果が得られるはずです。
ビジネス・ビルディング・フォーミュラーとは
「結果を出したい!」と思うと、やるべきことが多くなると考えがちです。
しかし、80:20の法則と言われるパレートの法則では「結果の8割は、2割の行動で決まっている。行動の8割は、結果の2割にしか影響しない」と言わます。
つまり、やるべきことに焦点を合わせることで、より少ない行動量で得たい結果が得られることになります。
そして、やるべきことは、ビジネスのステージによって異なります。逆に、自分のビジネスのステージに合わないことをやっていると、いつまでも小さな結果しか得られないことになります。
もし、ご自身が「やらなきゃいけない仕事に追われて、毎日が忙しい」と感じているのであれば、それは、今取り組んでいることが“今の”ビジネスのステージに合っていない可能性が高いです。
是非、ビジネスのステージに応じたやるべきことがあることを知り、効率よく結果を出すための考え方を知ってください。そして、やるべきことに焦点を合わせた行動で、最短で得たい結果を得て頂ければと思います。
その考え方が、今回お話するビジネス・ビルディング・フォーミュラー(ビジネス構築の方程式)です。
ビジネス・ビルディング・フォーミュラーには、次の4つステージがあります。
- ドリーマー
- プロフェッショナル
- マーケッター
- マネージャー
そして、各ステージで直面する恐怖があります。この恐怖を克服できずにいると、目の前の行動に固執してしまい、その結果、いつまで経っても得たい成果が得られないことになります。
まずは、この恐怖を克服することが大切です。そして、正しい行動を起こすことにより、ビジネスを次のステージへ移行させることができるようになります。
では、以下で詳しく見ていきましょう。
ドリーマー
ドリーマーとは、その名の通り「夢見る人」です。自分の好みばかりを考えて、色々と可能性を考えている段階です。ひと言で表現すると、妄想を楽しんでいる状態です。
「あれもしたい。これもしたい。」
「あっ、でも、こんなこともできるのでは?」
「あのビジネスは儲かるのでは?いや、最近はあっちの方がいいかも。」
個人であれば、起業時のゼロからビジネスを起こす時を指します。また、会社であれば、既存事業とは別の新規事業を立ち上げる時に相当します。
ドリーマーの克服すべき恐怖とその後の対応
このステージでは、絞ると他のことができないという「可能性を捨てる」恐怖を抱いています。次のステージに登るためには、この恐怖を克服することが必要です。
すなわち、ドリーマーのステージから次のステージに駆け上がるためには、「捨てて、集中する」ことが必要です。
「捨てて、集中する」際の注意点
個人起業家としての「捨てて、集中する」際の注意点もありますが、今回は会社として新規事業立ち上げを検討する時の「捨てて、集中する」際の最も大切な注意点について説明します。
それは「既存事業が儲かっていないから、儲かりそうな他の事業を手掛ける」という考えは、極めて危険だということです。
特に、既存事業が儲かっていない原因が、景気や人口減少などの外部環境にあると考えている場合は特に注意が必要です。そのように考えている方のビジネスが上手く行っていない原因は、ビジネスのやり方に問題がある可能性が高いのです。
そのような状態で新たな事業を立ち上げても、同じように考えて参入する競合も多いはずです。初めは利益が出るでしょうが、2、3年後には利益が出なくなる可能性が高いです。
もし、あなたが既に会社を経営されていて、色々な新規事業を考え、新たな事業の展開を夢見ている「ドリーマー」である段階ならば、改めて考えて頂きたいことは、「新規事業への夢を“捨てて”、既存事業に“集中する”」ことです。
そして、既存事業に“集中する”方法を、このビジネス・ビルディング・フォーミュラーから整理して頂ければ幸いです。
プロフェッショナル
プロフェッショナルとは「専門家」です。「商品の質」を上げ続ける人です。商品に恋をしているため、商品を中心に物事を考える傾向にあります。そのような方の発する言葉が以下です。
「こんなによい商品なのに、何故、みんなは買ってくれないの?」
「一度、買ってさえくれたら、この商品の良さがきっとわかってもらえるのに!」
「この商品の良さが分かってくれる人にしか、買ってくれなくていい!」
自分の商品に恋しているため、商品を手に取って頂く方、みんなに喜んで頂きたい。このため、完璧な商品にするために、ひたすら商品の質を上げ続けます。
プロフェッショナルの克服すべき恐怖とその対応
買った人から批判をされたくないので、商品は買って欲しいけど、自分から売るのは怖い。極端な例では「売ることは悪いこと」とまで考えてしまいます。その結果、当然自分が思っているように売れずに、上記のような言葉が口から出てきます。
つまり、この段階では、こちらから売ることで「自分が恋している商品を悪く言われるのではないか」という恐怖を抱き、更に品質を磨いてしまいます。次のステージに登るためには、まずは、この恐怖を克服することが必要です。
そして、この恐怖を乗り越えて、やるべきことは「売る」ことです。よく言われているのが「8割の時間を『販売』に使え!」です。商品が売れているのは、品質が良いから売れているのではなく、売っているから売れているのです。
プロフェッショナルのステージから次のステージに駆け上がるためには「品質は上げ続けずに、まずは売る」ことが必要です。
「売る」際の注意点
ひと昔前の商品の数が限られていた時代には、商品の質を上げるだけで売れていました。言い換えると、商品の質を上げることで、お客さまから選ばれることができました。
しかし、現在は、商品の質を上げるだけでは、お客さまから選ばれることはできません。お客さまが商品を選ぶ基準は多様化しており、必ずしも商品の質だけで選びません。当然、低価格だからといって簡単には買ってくれません。
では、どのようにして「売る」のか?そのための大切な考えが「商品への恋からお客さまへの恋に変える」ことです。
商品に恋していると「この商品はこんなにスゴイです!」と商品をPRしてしまう傾向にあります。しかし、精神分析学者であるフロイトが「人間の行動原理は、痛みを避け快楽を得るためである」と提唱したように、お客さまは、商品を買いたいのではなく、自分の悩みの解消や、快楽を得るための手段として商品を購入するのです。
つまり、お客さまに恋するとは、お客さまが何を望んでいて、何を欲しているのかを知り、その欲求を満たすために「この商品はいかがですか?」と提案していく行動に変えるということです。
マーケッター
マーケッターとは、広くはマーケティング業務に従事している人を指します。プロフェッショナルの壁を越えられた方は、ある意味「売る」ことが得意で「売る」ことに自信を持っています。このため、難なく新規顧客の獲得ができます。
マーケッターの克服すべき恐怖とその対応
次のマネージャーのステージに登るために、マーケッターが取組むべきことは「他の人(社員)に仕事を任せる」ことです。マーケッターは自分が「売る」ことで確実に売上も上がるため、仕事を他の人に任せることができません。
つまり、社員に任せることで「一時的に売上が減る」恐怖を抱きます。しかし、マーケッターが次のステージに登るためには、この恐怖を乗り越えて「社員に仕事を任せる」ことが必要となってきます。
一次的な売上減は、長期的な成長のための投資と考え、次のステージに登るためには目の前の日常業務よりも大切な経営業務があることを理解して下さい。
「任せる」際の注意点
ひと昔前には「1:5の法則」と言われ、「既存客に再来店・再購買してもらうコスト」と比較して「新規顧客を獲得して来店・購入してもらうためのコスト」は約5倍と言われていました。しかし、年々新規顧客の獲得コストは上昇傾向にあり、5倍から更に拡大し20倍とも言われています。
このように、新規顧客を獲得するのには大きなコストがかかります。新規顧客の獲得も必要ですが、それよりも、大切にする必要があるのは既存顧客です。
その考えが、次の3Rです。すなわち、Relation(既存顧客との関係づくり)、Retention(既存顧客の維持・継続)、Referral(既存顧客からの紹介・口コミ)。この3つのRを意識することが大切です。
マネージャー
マネージャー(manager)とは、本来「manage=困難なことを何とかする」+「er=人」です。
しかし、日本では、managerは「管理職」と訳されるように、多くの会社では、マネージャー(管理職)の仕事は、部下の業務の管理(監視)役だと誤解されている方が多いように思います。
本来のマネージャー(経営者を含めた管理職)は、部下がビジネスの最前線で業務を遂行できるように「業務のジャマをしない」「業務の妨げとなるジャマを取り除く」ことが仕事です。
マネージャーの克服すべき恐怖とその対応
このマネージャーのステージでは、会社の裏方として組織や社員を仕組みで動かす発想が必要となります。
この仕組みを作り上げるためには、投資が必要となってきます。しかし、投資は先に費用が掛かってくる上、必ずしも成功することが保証されていません。つまり、リスク、損失の可能性があることを理解した上で投資する必要があります。
マーケッターは自分が動くことが売上に直結するため、失敗する可能性がある投資という判断ができません。マネージャーとして成功するならば、この投資への恐怖を克服し、投資していく必要があります。
「投資する」際の注意点
投資する際の注意点は、費用の回収が早い順に投資する必要があります。それが次の3Sです。すなわち、Sales(広告宣伝)、Staff(人材)、System(システム)です。
広告宣伝
広告宣伝は、回収が最も早い投資先となります。当然、広告が不発に終わり投資が回収することができない可能性もあります。成功すれば売上を拡大させることができます。
人材
人材は「企業は人なり」という言葉があるように、会社の成長には社内の人材が重要な要素を占めます。ここでの投資は、人材育成や人材雇用の両方です。
社内研修などによる人材育成も必要ですが、時には自社に足りない人材は、新たに雇用する必要もあります。
ただし、人件費は固定費となるため、アルバイトから始める。外注(業務委託)を使うなど、様々な方法があります(人件費は固定費ではない、との指摘もありますが、法的会計の考えとして捉えて下さい)。
システム
システムは、マーケティングの販売管理システムや人事制度も含めています。最終的に、仕組み化、組織化、マニュアル化を視野に入れて業務設計していく必要があります。
なお、自分はビジネスの最前線で業務に関わりたいという方もいます。社員の方であれば、マーケッターとしてビジネスの最前線に残ってもらうことも可能ですが、ご自身が経営者であれば、マネージャーとして仕組みを作る立場も必要です。
もし、ご自身がマーケッターとしてビジネスの最前線に立ちたいというならば、マネージャーと兼任という形でも結構です。
しかしながら、少なくとも、社内でマネージャー役は立てる必要があります。社員を登用するか、外部から雇うか、の二者択一です。
いずれにせよ、会社が組織として活動するためにも社内にマネージャーは必須です。
まとめ
ビジネスには、ステージがあります。各ステージの特徴を理解することで、克服すべき恐怖(課題)とその対策が明確になります。すると、その対策を実行するために必要な情報が明確になり、迷いなく突き進めることができます。その結果、ビジネスの各ステージを最短で登っていけるようになります。
最後に、ビジネス・ビルディング・フォーミュラーの各ステージと克服すべき恐怖、並びにその対策について整理します。
ステージ |
克服すべき恐怖 |
対策 |
ポイント |
ドリーマー |
可能性を捨てる |
集中する |
既存事業への集中・見直し |
プロフェッショナル |
商品の品質向上 |
商品を売る |
お客さまに恋をする |
マーケッター |
自分しか売れない |
他の人に任せる |
既存顧客に目を向ける |
マネージャー |
投資の失敗 |
3Sに投資する |
仕組み化・組織化・マニュアル化 |
いかがでしたでしょうか?一度、ご自身の行動を振り返って頂き、ビジネスのステージと照らし合わせてみてください。
もし、「あっ!」と思うことができたら、半分は課題が解決しています。残りの半分は、実際に行動に移していくのみです。
さぁ。次のステージに最短距離で駆け上がって下さい。成功をお祈りしています!
これまで3回にわたって、経営者の立場、従業員の立場、そしてお客さまの立場からみた、「値上げ」の考え方と手順について説明してきました。
今回は番外編として、最後にお客さまにお伝えする時の態度や心構えについて説明します。最後はやはり、気持ちが大事です。
少しでも心に迷いがあれば、それがお客さまにも伝わり「本当に値上げは必要なの?」と疑問を持たれかねません。
もし、疑問を持たれたら、例え「価値」を正しく伝えられていたとしても、その「価格」に納得してもらえません。その結果、お客さまに喜んで頂けません。
是非、態度や心構えについても万全の準備をして「値上げ」をお伝えして頂ければと思います。
「値上げ」を伝える時の態度
伝える時は、堂々とした態度で
これまでの習慣の影響で、値上げは悪いこと、お客さまに迷惑をかけることであると思い込んでいたら、以下のようにお願いする姿勢を取りたくなると思います。
「あの・・・、本当に大変申し訳ないのですが、今回値上げをさせて頂きたいと思っておりまして・・・」
しかし、この姿勢は望ましくありません。極端な例になりますが、逆に以下のように伝えることをお勧めします。
「これまでにお伝えしました通り、現在このような価値をご提供させて頂いております。つきましては、サービスをよりよくしていく為に値上げをさせて頂きたいと思っております。宜しくお願いします。」
「価値が合わないということであれば、今回で契約を打ち切りにしてください。」
このように、しっかりと堂々と伝えることが大切です。実際、値上げ自体は、決して悪いことではありません。そもそも値上げの理由は、現在提供している価値と価格が見合わないからであり、その差を埋めさせて下さいという姿勢です。
値上げを伝える時、つい「お客さまに不利益を強要し、お客さまの機嫌を損ねてしまうのでは」と考えてしまいがちです。しかし、価格というのはこちらからの提案です。
お客さまが離れても、ただ「買うのを止めます」と言われるだけです。つまり、それ以上の問題が起こるわけではありません。臆せず堂々と伝える。ということを忘れないで下さい。
値上げは単なる売買契約の更新に過ぎない。
お客さまの反応を考えずに値上げをお伝えする。
伝える時は、感謝の気持ちを添えて
同じような状況で、店舗型ビジネスなどで、事前に値上げがお客さまに十分に伝わっていなかった時にお客さまから「値上げしたの?」と問われると、つい以下のように言ってしまいたくありませんか。
「○月○日から料金改定させて頂きました。すみません。」
もし、逆の立場で、ご自身がお店に行った時に「○月○日から料金改定させて頂きました。すみません。」と言われたら、何を思いますか。「謝るくらいなら値上げをするな!」と思うのではないでしょうか。
ご自身は、値上げをしたことで、その店の店員さんに謝って欲しいと考えるでしょうか。謝られても喜ぶお客さまはほとんどいないのではないでしょうか。
このような場合、値上げをした時にはお客さまには何と言えば良いのでしょうか。値上げをしたお店でお客さまが喜んでくれたとしたら、それは何をしたときでしょうか。
難しく考える必要は何もなく、ただ感謝の気持ちを込めて「いつも当店をご利用頂きありがとうございます」など、「ありがとう」の感謝を添えるだけで良いのではないでしょうか。
ご自身も謝られるより、感謝される方が嬉しいと思います。つまり、お客さまにも「ありがとう」と感謝の言葉を伝えるだけで良いのです。しかし、以下では若干不自然な感じがします。
「○月○日から料金改定させて頂きました。いつも当店をご利用下さいましてありがとうございます。」
なぜ、不自然なのか。それは「値上げのお知らせの後に何かを言わなくてはいけない」と思っているからです。
言い換えれば、値上げのお知らせは事実を伝えるだけで十分です。
ほとんどのお客さまは、単に値段が上がったことを確認しているだけです。よって、正しい対応は、値段が変わったことを正しくお知らせする。それ以上でもそれ以下でもありません。
しかしながら、値上げしたにも関わらず、変わらず来店してくれるお客さまは大変有難いと感じているはずです。その気持ちを「いつもご来店下さいまして、ありがとうございます。」ときちんと伝える。
値上げをした後の接客では「すみません」ではなく、是非、「ありがとう」を増やすことを意識して下さい。
「値上げ」を伝える時の心がまえ
値上げをして「お客さまが去るのでは」と心配をすると思います。確かに値上げをすると一部のお客さまが去ることは事実です。しかし、「お客さまが去る」ことを恐れる必要はありません。これには2つの理由があります。
値上げで得た利益分以上のお客は去って行かない
一部のお客さまは、当然値上げを許容してくれません。しかし、ここまでお伝えしてきた「価値」を伝える手順を踏んでも、それでも値上げを理解してくれないお客さまは、大半は「価格」でしか判断してくれないお客さまです。
そのようなお客さまは、もっと安いところや値頃感のある商品・サービスを見つければ、すぐに去って行きます。価格しか見ていませんので、当然のことです。
よって、遅かれ早かれ離れていく可能性が高いお客さまのために、値上げを躊躇して、それらのお客さまをつなぎ止めておこうとする必要は一切ありません。
また、よく言われるのが「値下げをして潰れた会社はたくさんあるが、値上げをして潰れた会社はない。」ということです。値上げをしたら当然、購入を止めるというお客さまがいるため、客数は一定数減ります。しかし、実は利益が増えることが多いのです。
それは、きちんと説明があって根拠が示せる値上げであれば、一部のお客さまは去っても「値上げ分の利益を上回るような数のお客さまが去ることはない」ということです。よって、値上げによって顧客が去ることを恐れる必要はありません。
値上げによって、一部のお客さまは去るが、会社に残る利益は上がる。
よって、値上げによって、お客さまが去ることは恐れる必要はない。
ビジネスの良い循環に入ることができる
前述した通り、値上げをしたことで一定数のお客さまは減ります。
しかし、価格が上がって客数が減るということは、1人のお客さまと接したり、コミュニケーションを取ったりする時間が増えるということに繋がります。その結果、お客さまの満足度を上げることが可能となります。
そして、既存のお客さまの満足度が上がると、評判が上がり、次は新規のお客さまが増える。という良い循環に入っていくとことができます。
このように、実は一部のお客さまが去る事自体は悪いことではありません。利益を増やすだけでなく、実は既存のお客さまのためにも値上げは有用であることを理解頂けると思います。
繰り返しとなりますが、前述した「価格」でしか判断していないお客さまには、早い段階で去ってもらった方が、会社だけでなくロイヤルカスタマーにとっても良い影響を及ぼします。
まとめ
本書を読んで頂き「値上げはできないことはない。ということは分かった。でも、実際にやっていくのは、やっぱり色々と不安要素がある」という経営者の方も多いのではないでしょうか。
実際、焼き鳥の居酒屋チェーン大手「鳥貴族」が2017年10年に280円から298円に6 %の値上げをしたことで、長期間、売上・客数ともに減少しました。このようなニュースが流れると「やっぱり、値上げは危険だ」と考えてしまいがちです。
しかし一方で、ヘアカット専門店「QBハウス」は、2019年2月に従来の1,080円から1,200円に11 %の値上げをしても、同年2月、3月の売上は共に+ 9 %を超え、客離れは2 %に留まった事実もあります。
この2社の差は、価格以上にお客さまが受け取る価値をしっかりと提供できていたかという1点に尽きると思います。是非、皆さんも自社の商品・サービスのお客さまへ提供している価値について、今一度、問い直してみてください。
もし、自社だけでは自信をもって「値上げ」ができない。とお悩みであれば、是非一度、お問合せ下さい。
皆さんのお悩みをお伺いし「値上げ」のガイドラインを無料でご提案させて頂きます。お問い合わせはコンタクトフォームからお願いいたします。
いきなりですが、中小企業が永続するための基本的な戦略は「高価格化」しかありません。
しかし、中小企業の多くの経営者が「‟価値”に見合った‟価格”を付けられていない」と感じています。つまり、経営資源で圧倒的な差がある大手企業と「低価格化」で競争している、という状態です。
このように大手企業と「低価格化」で戦っていては、会社も従業員も、そして何より、経営者ご自身が疲弊して、長く永続できないことは火を見るよりも明らかです。
つまり、多くの中小企業は、‟価値”に見合った‟価格”にするための「値上げ」の活動が必要です。
そこで、この「値上げ」の考え方とやり方について、本ブログで順番にお伝えしております。その順番は以下です。
- まず、経営者ご自身が「値上げ」の必要性について理解する
- 次に、従業員にも「値上げ」が必要であることを納得してもらう
- 後は、取引先やお得意様などのお客さまに「値上げ」を受け入れてもらう
今回、この「値上げ」をお客さまに受け入れてもらうための手順を説明します。
まだ、経営者が「値上げ」を理解するための手順「中小企業の値上げの考え方ー経営者にむけてー」をお読みになっていない方は、そちらもご参照下さい。
従業員に「値上げ」を納得してもらう手順は、「中小企業の値上げの考え方-従業員にむけて-」をご参照ください。
お客さまに理解してもらう-基本編-
「値上げ」の大前提として、経営者ご自身や従業員の方々は、基本的に同じ側の立場ですが、お客さまは全く逆の立場であることを理解しておく必要があります。
例えば、原材料が上がったから値上げする場合、会社にとって値上げは当然と考えても、お客さまがそれを当たり前と受け取るわけではないということです。
この自社の事情とその事情に対するお客さまの受け取り方は異なることを前提に、値上げに際してお客さまに伝える基本姿勢は以下の3つです。
お客さまに伝える基本姿勢
1つ目は、利益をむやみに増やそうとした値上げではないということ。あくまでも提供している価値に見合った価格であること。
2つ目は、本来であればもっと値上げをすべきところを、企業努力をした上で必要最低限の値上げとしていること。
最後3つ目は、自社特有の値上げではない場合、つまり業界の競合も値上げする場合、自社だけが特別な事情で値上げをしているわけではないとこと。
値上げを感じさせない方法
この3つは、基本姿勢に過ぎません。例え、お客さまの理解を得たとしても安心してはいけません。値上げ分をお客さまに負担して頂く代わりに、お客さまにはきちんと値上げ以上の高い価値を約束することが重要となります。
‟価格”と‟価値”には、お客さまが感じる‟価値”に対して、納得して支払うことができる‟価格”が存在します。つまり、お客さま毎に納得する‟価値”と‟価格”がバランスしている点があります。
この‟価値”と‟価格”がバランスしている商品・サービスに対して、単に値上げをすると、お客さまは「値段が高くなっただけ!」と不満要因となります。しかし、値上げしても、それ以上に‟価値”を感じてもらえれば、「いい買い物ができた!」と満足してもらうことができます。
言い換えれば、値上げ以上に‟価値”を感じてもらう。これが値上げの際の大切な考え方です。
最も大切なのはお客さまとの関係性
そして、重要なことは、お客さまの信頼を獲得できているかということです。
自社に対して信頼を寄せ、これまでの関係性も重要視してくれる優良なお客さまのことをロイヤルカスタマーと呼びます。
伸びる会社には必ずロイヤルカスタマーが存在しています。もう少し馴染みのある表現とするならば、自社のファンと呼べます。
では、いかにしてお客さまの信頼を勝ち取り、ロイヤルカスタマー、もしくはファンになって頂けるのか。そのためには、まず、心から目の前のお客さまのお役に立つことを考えることができているか。
つまり、お客さまが、何に困っていて、その課題を解決するために、何を必要としているかを理解することが大前提になります。
お客さまへの伝え方-手法編-
では、次に手法編として、お客さまに値上げをスムーズに受け入れてもらうための具体的な方法を説明します。
お客さまに値上げを伝えるためには、次の3段階に分けて考える必要があります。
- 値上げを伝える前
- 値上げを伝える時
- 値上げを実施する時
では、各段階でするべきことを整理してきます。
値上げを伝える前にするべきこと
値上げをする際、一番初めに考えるのは、お客さまに対して、
「どのように“値上げ”を説明しようか?」
「どのような理由なら、“値上げ”を理解してもらえるか?」など、
“値上げ”の伝え方や理由について考えてしまいがちです。
しかし、値上げを伝える前に、まずやるべき事があります。それは、お客さまに対して「自社の商品・サービスは、もっと素晴らしい‟価値”がある」ことを理解してもらうことです。
まずは、価値を伝え切る
仮に、初めに値上げをして、価値を後付けで説明した場合、「値上げをします。それは○○といった価値があるからです」と言ってしまうと、単純に‟価値”が十分に伝わったとしても、それが「言い訳」に聞こえてしまいます。
このため、値上げに見合う価値をしっかりと伝える前振りが重要です。この前振りがあることで、後で値上げしやすくなります。つまり、最初に「前振りで‟価値”を伝える。」次に「‟価値”が十分に伝わった上で値上げを伝える。」この順序が大切です。
‟価格”は値札で確認することができます。しかし、‟価値”はブランドのロゴなど目で見て分かるから、機能など実際に使ってみないと分からないもの、さらには原材料など目に見えないものまで多岐に渡ります。
このため、‟価格”については、売り手と買い手とで明確な数字情報として共通認識できますが、‟価値”については、明確な情報として共通の認識が持てません。
つまり、皆さんがお客さまに対して、日頃から‟価値”を伝える努力をしていないのであれば、「お客さまは、自社の商品・サービスの‟価値”を正しく理解できていない」と認識を改める必要があります。
ラーメン屋を例に
例えば、皆さんが個人経営のラーメン店を出店することにしました。当然、店主である皆さんは、こだわりが詰まったラーメンを出すことを考えます。
しかし、どのようなこだわりがあるかを伝えなければ、お客さまはそれを知る機会がありません。スープのこだわりも、出汁にこだわっているのか、出汁の素材にこだわっているのか、素材の産地にもこだわっているのか。挙げだせばキリがありません。
しかし、それでも何にどこまでこだわっているのかをお客さまにお伝えない限り、お客さまはそのラーメンの本来の‟価値”を知ることができません。
「食べてもらえれば、その‟価値”がわかる」と考える方もいると思います。しかし、そのまずは食べてもらうために、お店に入ってもらう必要があります。
お店の前を通る人に対して、ラーメンの‟価値”を伝えるための看板を店頭に出そうと考えることができますか?また、お店に入って頂いてからもラーメンの‟価値”をより理解して頂くために、更なる情報を店内にも貼り出すことができそうですか?
店主であるあなたの方からラーメンの‟価値”を伝えなければ、お客さまはラーメンの本当の‟価値”を知ることができません。それができなければ、お客さまは‟価格”という単純な物差し”でしか判断することができません。
結果として、自ら競合と価格勝負に挑むことになってしまいます。
価値を伝えるためには?
直接お会いできるのであれば、会って話をすることをお勧めします。対面で会話することで、お客さまの反応を見ながら様々な観点で本来の‟価値”をお伝えすることが可能です。
直接お会いできないお客さまに対しては、ダイレクトメール(DM)などの郵便物でお伝えすることも可能です。
大切な視点は、まずは自社の商品・サービスには「‟価格”以上の‟価値”がある」ということをお客さまにしっかりと伝えることです。
なお、‟価値”には決まった内容はありません。可能であれば、色々な角度から自社の商品・サービスの良さを伝えることが必要です。もし、思いつかないようであれば、お客さまにアンケートを取ることをお勧めします。
‟価値”の伝え方にも表現方法があります。例えば、「競合他社との比較」が有効です。競合他社と比較することで、お客さまが自社の商品・サービスの‟価値”を理解しやすくなります。
値上げを伝える時にすべきこと
値上げを決断し、お客さまに‟価値”を伝えた。そして、値上げを伝える段階にきても、実際に実行に移せないことがあります。これは、「お客さまが値上げを納得してくれるためには、どのようにお伝えすれば良いのか?」というように、具体的な伝え方が分からないという状況から起こります。
この「お客さまへの具体的な伝え方が分からない」という感想は極めて普通です。そして、この「分からない」状況から脱するために、お客さまに伝える時の注意点があります。
それは「既存のすべてのお客さまに一斉に値上げを伝えてはいけない」ということです。
何故、既存のお客さまに一斉に値上げを伝えてはいけないのか。
それは、「どのように伝えて良いか分からない」から「なるほど、このように伝えれば良いのだな」に変化するためには、値上げを伝えた時の実際のお客さまの反応を見て、お客さまがより納得する言い回しを検証するしか方法がないからです。
自社との関係性から伝える順番を決める
伝えるお客さまの順番に唯一の正解はありませんが、お勧めの方法があります。それは「自社にとって重要度の低い順」です。
何故、重要度の低い重要度の低いお客さまから伝えるのか。1つ目の理由は「どのような‟価値”の伝え方であれば、お客さまは値上げを納得してくれるか?」ということを試行錯誤して、伝え方を磨いていく必要があるからです。
試行錯誤していく過程で「この方法は上手くいった!」という感触が得られます。そして、その上手くいった伝え方を元に、更に試行錯誤することで「なるほど、このように伝えれば良いのだな」という伝え方の精度を上げていくのです。
このように「重要度の低いお客さまから」というお話をすると、経営者の皆さんの中には「いや、重要度の低いお客さまなんていない!」という方もいらっしゃるかと思います。そこで、「重要度の低さ」の定義について、以下に参考となる2つの考え方を挙げます。
- 値上げを機に関係が切れてもよいと思うお客さま
- 自社の売上(利益)に占める割合が小さいお客さま
1つ目の値上げを機に関係が切れてもよいと思うお客さまとは、購入してくれるけど、色々とクレームが多いお客さまや、度々支払が滞るお客さまなど。様々なお客さまが考えられますが、極端な例では、個人的にお付き合いしたくないお客さまを考えて下さい。
パレートの法則
2つ目の考え方について、以下に詳しく説明します。経営やビジネスを行う中で、よく出てくる法則として「パレートの法則」があります。この法則は、イタリアの経済学者ヴィルフレッド・パレートが発見した「経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出している」という経験則を指します。別名「80:20の法則」とも称されます。
このことから、ビジネスにおいては「売上げの8割は全顧客の2割が生み出している。よって、売上を伸ばすには顧客全員を対象としたサービスを行うよりも、2割の顧客に的を絞ったサービスを行うほうが効率的である」と言われています。
極端な表現を用いれば「重要なお客さまは全体の2割に過ぎず、お客さま全体の8割は重要ではない」と言えます。
つまり、2割の重要なお客さまに伝える順番は最後にして、8割のお客さまで試行錯誤して「なるほど、このように伝えれば良いのだな」という伝え方を磨いて下さい。
そして、重要度の低いお客さまから伝えていく2つめの理由が、もし値上げを受け入れてもらえなくても、売上(利益)に占める割合が小さいお客さまであれば、会社に及ぼす影響を最小限に回避することができるからです。
そして、お客さまに値上げを受け入れられなかった場合でも「やっぱり、値上げは無理だ」と値上げに対する消極的な感情を抑えることができます。その伝え方を検証することで、改善して次に活かせば良いと考えることができます。
以上が、伝え方に磨きをかける、値上げに対して消極的にならないためにも、順番を決めて、重要度の低い顧客から伝えていくことをお勧めします。
値上げを実施する時にすべきこと
前項までで、商品・サービスの‟価値”を伝えた後に、値上げを伝える。また、値上げを伝えるお客さまの優先順位があることを説明しました。しかし、値上げを伝えたからと言って、直ぐに実際の値上げを実施してはいけません。
つまり、実際の値上げまでには期間を置く必要があります。
既存のお客さまは特別な存在
前項までで説明した「‟価値”を伝える」と「値上げを伝える」の時間軸には、それほど期間を空ける必要はありません。一方、「値上げを伝える」と「値上げを実施する」には、一定期間を空ける必要があります。
具体的には、3ヶ月や半年間の猶予期間を設けます。但し、それは既存のお客さまを対象にします。これは、既存のお客さまを大切にしているという配慮を形で示す意図があります。
例えば、以下のようになります。
「ご新規のお客さまには、○月○日から値上げを行う予定ですが、既存のお客さまには、○月○日まで値上げはせず、現在のまま価格の据え置きをさせて頂きます」
既存のお客さまには、このような配慮を形として見せる。これが極めて重要です。「お得意様だから、配慮をしてくれているのだ」と顧客に嬉しく思ってもらえることで、お客さまとの関係性をより強いものにすることができます。
お客さまが受け入れてくれるのを待つ
そして、もう一つ理由があります。それは、人は値上げに対して“思考”では理解することができても、“感情”で受け入れられるまでには、多少の時間差が生じるからです。つまり、お客さま側に立って、この“思考”の理解に“感情”での納得感が追い付くまで時間を設ける、ということです。
そして、この時間差を設けることは、お客さまの「その‟価値”は理解できるけど、急な値上げは困る!」という反応も避けることができます。お客さま側に、今後について判断する猶予期間を与える事にも繋がるのです。
まとめ
既存の商品・サービスの「値上げ」は、経営者の誰しもが、一度は「できるなら、是非やりたい」と考えるのではないでしょうか。しかし、大半の経営者は、実際には「やっぱり、値上げは無理だ」と取り組む前に諦めていると思います。
でも、中小企業が生き残っていくためには、商品・サービスの高価格化・値上げは必須活動です。
これまで3回に渡って説明してきた通り「値上げ」には順序・やり方があります。今まで「値上げは無理だ」と思考停止されていた方も、これらのやり方を知って頂き、「値上げ」に対する考え方を変えるきっかけになったでしょうか。
是非、この機会に「値上げ」について真剣に考えて頂ければと思います。
労働の対価としての報酬は、時代共に変化しています。そして、労働基準法で「賃金が労働の対価」と定義されてからも、賃金の捉え方は時代と共に変化しています。
今回は、この賃金の捉え方の変化について歴史から紐解きます。この整理を通じて、経営者として従業員に支払う賃金に対する考えを深める機会にして頂ければ幸いです。
賃金は何に支払っているのか?
民法では、雇用契約のあり方を「労働に従事すること」と「報酬を支払うこと」の債権契約と定められています。そして、労働基準法では「賃金は労働の対価」と定義しています。
では、現代での報酬の主体である賃金は、何に対して支払われているのでしょうか?
この時のポイントとなる考えが、雇用する側と雇用される側のいずれに立っているかという点です。
人に支払う日本式
日本的な考え方は、雇用される側に立っており、人に対して報酬を支払っているという考えがあります。この考え方は「pay for parson」と表現されます。
つまり、日本独自に発展した職能資格制度は、職務を遂行する能力を有する“人”に対して報酬を支払っているとする考え方です。
この職能資格制度には、年齢給や年功給と呼ばれる年齢と共に給料が上がる賃金体系です。これは、経験を積むことで職務を遂行する能力が年齢と共に高まっていくという考えが基本にあります。
仕事に支払う欧米式
一方、欧米的な考え方は、雇用する側に立っており、仕事そのものに対して報酬を支払っているという考えです。この考え方は「pay for job」と表現されます。
欧米の職務等級制度は、仕事と報酬は連動しており、その仕事(職務)に対して報酬を支払うという考え方です。この考えは「同一労働同一賃金」と呼ばれます。
賃金体系の変化からみえてくるもの
以下では、マズローの欲求5段階説とを照らし合わせながら、日本における賃金体系の変化の歴史を「pay for parson」と「pay for job」の立場を紐解きます。
江戸時代
江戸時代には、労働と報酬は直接的に結びついておらず「奉公」という雇用形態(奉公人制度)を取っていました。この奉公制度により、雇う側は雇われる側の衣食住の生理的欲求を満たしていたと言えます。
ここでは「pay for parson」と「pay for job」の中間から、スタートします。
明治時代
明治時代は「出来高給」に代表されるように、工場の働き手である職工は働きに応じて報酬が支払われていました。
つまり、「出来高給」は、完全な「pay for job」であったと言えます。
大正時代~昭和前半
そして、大正時代から昭和前半の戦後に至るまでに、人に焦点が当たった「生活給(年功給)」が完成します。この生活給により、雇う側は雇われる側の日々の生活に対する金銭的な安全欲求を満たしていました。
つまり、「生活給」は、完全な「pay for parson」であったと言えます。
昭和前半~昭和後半
そして、昭和前半から昭和後半にかけて、職務給という、職務に応じて賃金を支払う「pay for job」の考え方が欧米から入ってきます。しかし、従来の「pay for parson」の考えである生活給(年功給)との均衡を保つことで「職能給」という考えに至ります。
同時に、この「職能給」の賃金制度を含む、職能資格制度(等級制度)が確立し、雇われる側は、社内出世などを通じて社会的欲求が満たされるようになります。
ここでは「生活給」と「職務給」の融合という意味で、「職能給」は、完全な「pay for parson」ではなく「pay for job」の要素も含まれていると考えられます。
平成時代
しかし、バブル崩壊の平成時代には、仕事の結果を重視する成果主義として「成果給」が台頭します。しかし、成果主義は従来の日本企業の文化に馴染むことがなく、失敗に終わります。
その後、既存の「職能給」と欧米型の「職務給」を再度融合することで、「役割給(職責給)」という新たな概念を生み出します。
この背景には、年功的な横並びの評価ではなく、一個人として「働いている自分を正当に評価して欲しい」という承認欲求が現れていると考えられます。
報酬として賃金体系を考えた場合「役割給」は「職能給」よりも「pay for job」の要素がさらに強まったと言えます。
今後
そして、これからの賃金体系の展開を考えた場合、フリーランスという働き方、つまり仕事単位で業務を委託・受託する「請負給」は、完全な「pay for job」の考えと言えます。
なお、フリーランスという働き方は、まさしく自分らしい働き方という意味で自己実現欲求の現れではないでしょうか。
しかし、この「請負給」には日本的な「pay for parson」という概念がありません。上記の歴史的な賃金体系の変化を見てくると、再び何らかの形で「par for parson」の要素が入ってくることが予想されます。
時代背景により賃金体系の見直しが迫られた時、常に欧米的な「pay for job」の概念が入ってきます。そして、新たな日本的な賃金体系として落ち着きを見せる時、マズローの欲求5段階を1段上がっているように見えます。
このように、賃金体系も時代と共にマズローの欲求5段階の上位欲求を満たすように、螺旋階段を登るようにして変化しています。
(時代の変化とマズローの欲求5段階との関係性は「歴史から見る人事制度のトレンド」をご参照ください)
(また、螺旋階段を登るという考え方は、田坂広志氏の「未来を予見する5つの法則」を説明した「イノベーションを促進する第一の法則」をご参照下さい)
まとめ
賃金体系について、歴史を追って「pay for parson」と「pay for job」の要素を切り口に見てきました。
その結果、「pay for parson」と「pay for job」の間を揺れ続けながら、賃金体系が変化してきたことが分かります。
また、時代の変化の波が訪れた時、常に「pay for job」の観点によって賃金体系が見直されてきました。しかし、必ず「pay for parson」の要素を含むことで、日本的な賃金体系として落ち着きを見せているように思えます。
今後も、「pay for parson」と「pay for job」の間を揺れ続けることが予想されます。しかし、どちらの位置か、どこの位置が正解というわけではありません。
「経営者として賃金に対して、どのように考えるのか?」
要は、経営者として、この問いに対する回答を用意することです。あなたの会社の賃金体系の基本となる考えは「pay for parson」ですか?それとも「pay for job」ですか?
今回の内容が、今一度、会社の賃金体系を考える機会になっておれば幸いです。