中小企業が本当に実践できるマーケティング 社員も社長も幸せになれる経営システムの構築
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経営者であれば、誰しもが「会社発展のために、組織を強くしたい」と考えていると思います。そのため、経営学の中でも組織論は、非常に関心が高い分野です。
しかし、忘れてはいけないのは、組織を強くするための基盤となる仕組みが「人事制度(人事評価制度)」 です。つまり、組織を強くするためには、組織開発の方法論から始めるのではなく、人事制度の制度を整えることから考えて頂く必要があります。
この「人事制度(人事評価制度)」 は、等級制度・評価制度・報酬制度 の3本柱の制度で構成されています。今回は、等級制度について説明します。
なお、報酬制度(賃金制度)については「賃金は何に対して支払われているのか」 にて説明しました。また、評価制度については「評価制度の大切な目的」 で説明しています。是非、合わせてご一読下さい。
等級制度とは?
等級制度とは、職務能力や担当職務で「等級」という区分・格付けにより、社員の序列と処遇を決める人事制度の土台となる制度です。等級制度には職能資格制度・職務等級制度・役割等級制度 の3種類が存在します。以下、この3種類の等級制度について説明します。
職能資格制度とは?
職能資格制度 とは、 “職務”を遂行する社員の“能力”を「職能」と定義し、その職能レベルに応じて等級を定める制度です。
その能力は、営業職や事務職などの職種を問わず、すべての職務に関連する能力を指し、特定の分野に関するものではありません。
また、職能資格制度 で決定される等級は、組織上の役職(課長・係長などの職位)と一致するとは限りません。
この職能資格制度 は「pay for person」 と呼ばれています。つまり、人やその人が有している能力に焦点を当てた制度です。後述する「pay for job」 と呼ばれる職務に焦点を当てた職務等級制度 とは対照的です。
多くの日本企業に根付いており、経済成長を支えたシステムではありますが、いくつかの欠陥が指摘され、うまく機能しない場面も指摘されています。
職能資格制度のメリットとデメリット
職能資格制度 は日本独自の制度であり、社内でゼネラリストを育成するための職種転換などのジョブ・ローテーションに適しています。また、等級と役職とが連動していないため、人員が多くなり、部長や課長などの役職が不足した場合、等級を上げることで資格の呼称(例:参事や主事など)が変わることによって、長期にわたるモチベーション維持が可能です。
このため、長期(終身)雇用を中心とした日本企業の人材育成に適した制度として広く採用されてきました。
しかし、この職能資格制度 は、年功的な運用に陥りやすいことから、人件費の増大につながりやすく、更に人事評価が曖昧になりやすいことが指摘されています。
特に、バブル崩壊後の低成長時代に入り、人件費が企業の業績を圧迫するようになると、この職能資格制度 に対するデメリットが指摘されるようになりました。
そして近年、派遣社員・契約社員が増加し、業務の外注化(アウトソーシング)も活発に行われています。転職現場でも即戦力となるスペシャリストが求められ、企業は長期間育成コストをかけられる状況ではなくなっています。これらの時代背景が、職能資格制度 を見直す機会となっています。
職務等級制度とは?
職務等級制度 は、従業員の担当している“職務”の難易度で賃金を決めるシステムです。年齢・学歴・勤続年数などの個人的要素を考慮せず、同一労働・同一賃金が原則となる制度です。
欧米でよく導入される制度で、職務内容と仕事の市場賃金相場から賃金が決められます。職務内容記述書(ジョブ・ディスクリプション) に基づいて、職務評価が行われることで従業員の等級が決められます。
先ほど説明した職能資格制度 が、人を主語にして「pay for parson」と呼ばれる制度に対して、この職務等級制度 は「pay for job」と呼ばれ、職務が主語となります。
職務等級制度のメリットとデメリット
職務等級制度 は、スペシャリスト育成に適しており、欧米企業のように、経営と執行の分離が行われる組織と相性のよい制度です。
また、この職務等級制度 は、不要な職務を排除しやすいことから余剰人員の発生が起こりにくく、総人件費が抑えられるというメリットもありました。
しかし、経営環境が著しく変化する中で、組織や職務の硬直化が企業の自律的な活動を抑制し戦略実行の妨げになることが指摘されるようになりました。
更に、職務が変わらないと賃金が上がらない制度設計であり、人材の流出につながりやすいというデメリットもあります。
このような背景から、欧米企業でも、脱・職務等級制度を目指す人事制度改革が見られるようになります。
役割等級制度とは
役割等級制度 は、ミッショングレード制とも呼ばれ、経営目標を達成するために従業員が果たすべき“役割”を明確にし、“役割”に等級を持たせる制度です。
1980年代頃のアメリカで始まった制度であり、職務の定義ではなく達成すべきミッションの定義を重視する等級制度です。
役割の内容に応じて待遇を決定しますが、各企業で役割の定義は異なるため、統一的な定義は存在しません。
職務等級制度の“職務”の定義は、一度設定すると変更は容易ではありません。一方で、役割等級制度 の“役割”なら比較的変更が簡単です。
このため、役割等級制度 は、日本企業には導入しやすい制度と言われていましたが、役割の定義が曖昧なため、導入した各企業とも試行段階という状態です。
この役割職等級制度 は、一時、務等級制度を根付かせることが難しい日本の組織において、次に導入検討されている制度の候補とされていました。
しかし、役割等級制度 は厳密な定義や定型が存在しておらず、各企業が自社に適用する役割定義を設定しなくてはならない難しさがあります。
役割等級制度のメリット・デメリット
従業員の役割が明確になることで、主体性を持って動きやすくなることがメリットとして挙げられます。つまり、自らのミッションがクリアになると、自分で判断できる領域が広がるため、組織の活動が円滑になる効果が期待できます。
また、役割が外から見ても明確であれば、従業員が役割を果たしているかの判断がつきやすく、処遇も適切に行うことが可能です。さらに、役割は経営状況に応じて柔軟に変更することもできます。
しかし、一方でデメリットも挙げられます。それは、役割の内容を自社で主体性を持って考えないとうまく機能しないということです。役割は組織風土・文化とも関連がありますので、他社の定義を流用しても自社とマッチしないことが多いです。
役割等級制度を導入するなら、人事は経営・現場と細かくすり合わせを行い、適切な役割定義・グレードを定めることが求められます。
現在の人事制度のトレンドとは?
総じて、日本独自の「職能型」の人事制度は、欧米型の「職務型」に向かい、適正なインセンティブの分配を目指しています。
また、欧米型の「職務型」の人事制度は、日本型の「職能型」の要素を取り入れ、自律的な組織集団となることを目指すという流れが、近年の人事制度改革の潮流として見られます。
この双方の歩み寄りの流れから「役割型」の人事制度が検討されましたが、その運用の難しさから、日本と欧米共に、人事制度として根付くことはありませんでした。
こうした「職能型」と「職務型」を検討する流れは、時代と共に、多少の揺り戻しを繰り返しながらも続いていくことが予想されていますが、今後の人事制度改革にあたり注目されている動きが「働き方の多様化」です。
「働き方の多様化」の流れによって従業員の雇用スタイルが様々になる中で、従来より議論が繰り返されてきた「同一価値労働・同一賃金」の問題や、雇用形態等によらず多様な人材が混合した従業員のポートフォリオとその処遇を検討する必要に迫られています。
この流れの中で「従業員エンゲージメント(組織・仕事への取組み)」の重視は必然的に求められることになり、新たな人材マネジメントに適した人事制度改革の形が、これから模索されようとしています。
まとめ
近年は「ジョブ型雇用」と呼ばれるように、職務等級制度 が再度、見直されています。この背景には、近年のグローバル化により、海外からの優秀な人材を採用するために必要と考えられていることが挙げられます。
つまり、海外の人材は職務等級制度 に親しんでいるため、職務の内容を明確に定義しておかないと、海外の人材から応募先として選ばれにくくなる可能性があるからです。
しかし、日本企業では従業員同士が助け合うことも頻繁に行われ、個々の職務を明確に区別するのが難しい場合も多く、職務等級制度 は日本に馴染まないという考え方も根強く残っています。
世の中のトレンドの背景にある考え方を抑えた上で、自社の経営に合った等級制度を採用する必要があります。人事制度を改定する際は、是非、この「自社の経営に合った人事制度とは?」という問いに答えて頂ければと思います。
ちなみに、私が考える日本の中小企業の経営に合った等級制度は職能資格制度 です。
何故、日本の中業企業には職能資格制度が合っていると考えるのかは、改めてお伝えしたいと思います。
1 on 1とは、1 on 1ミーティングとも呼ばれます。この1 on 1で行うことは上司と部下との1対1の定期的な「対話」です。この「対話」の対極にあるのが「面談」です。
従来の「面談」は、上司が部下の人事評価などを行う際に、仕事の達成度合いや来期の目標設定について、上司が部下に確認したい話をする、いわば“上司のための時間”でした。
一方、この1 on 1の「対話」とは、“部下のための時間”です。この1 on 1は、週に1回~月に1回といった定期的なペースで30分程度の「対話」を行い、部下が仕事を通じて得た体験や課題、悩みを上司と共有する、部下個人を中心としたミーティングです。
このブログを読み終わった時に、「1 on 1は面白そうだ。是非、自社でも1 on 1を取り入れてみよう」と思ってもらえればと思います。
特に、会社の大きさが、経営者のあなたの目が全社員に行き届く規模であるならば、是非、経営者と社員との立場で、従来の「面談」とは異なる「対話」を重視した1 on 1を貴社で取り入れて頂きたいと思います。きっと、この1 on 1が会社の活性化につながるはずです。
1 on 1とは
この1 on 1は、最先端の企業が集まるシリコンバレーでは古くから行われています。その中でも、一番初めに1 on 1を組織開発の手法として取り入れたのはインテルでした。インテルが1 on 1を取り入れた背景には、人種や宗教、価値観が異なる国だからこそ、1対1の対話の重要性を重んじていることが挙げられます。
また近年は、グーグル社でも上司と部下が30分~1時間の1 on 1を行っています。グーグル社の元CEOエリック・シュミットは以下のように言います。
“事業は常に業務プロセスを上回るスピードで進化しなければならない。だからカオスこそが理想の状態だ。そのカオスの中で必要な業務を成し遂げる唯一の手段は、人間関係だ。社員と知り合い、関係を深めるのに時間をかけよう。”
シリコンバレーでは、優秀なエンジニア一人で会社の命運が変わることもあるため、優秀な人材を確保するために各社の経営陣は頭を悩ましています。今いる会社に得るものがなくなれば、優秀な人材はすぐに他社に流れていきます。そのため、シリコンバレーでは1 on 1の時間を「Quality Time(部下にとって高質で貴重な時間)」としている企業もあります。
日本においても、シリコンバレーの企業同様に、優秀な人材に自社で活躍してもらうために、より個別に人を見ていく必要が出てきたと言えます。そして、この1 on 1を日本でいち早く取り入れた企業にヤフーが挙げられます。ヤフーでは、早くから全社に取り入れ大きな改革を起こしたことからも注目が集まっており、日本でもここ数年で1 on 1を導入する企業が増えています。
この1 on 1を通じて、経営者のあなたは、時にカウンセラーのように社員の話を聞き、社員の状況や問題、関心事を把握します。1 on 1の結果として社員は、気持ちがすっきりしたり、納得感を得たり、次のチャレンジへ行動していこうとすることが最も重要なことです。
1 on 1が注目される背景
近年、技術革新により経営環境や市場動向はめまぐるしく変化するようになりました。そのため、年度初めに立てた目標が、期末になる頃には全く違ったものになっているという状況も珍しくありません。
つまり、変化の激しい現代では、期初に目標を立て1年後に振り返りをするというのでは、現代の経営の実態に合わなくなってきています。
そんな時代に合わせて、短い期間でより多く経営者と社員が対話する機会を持ち、PDCA を繰り返していくことが必要になっています。
また、社会的背景が急速に変わっているのに「経営者と社員のコミュニケーションの取り方が変わっていないこと」にも問題があります。
つまり、社員の価値観が多様化し、働き方も多様化している現代だからこそ、社会的背景に合わせたコミュニケーションに変化させていく必要があるはずです。
そして、従来の組織で行われているコミュニケーションとは、結果を出すだけの「情報交換」を指しているのではないでしょうか。
組織の課題とは、例えば、人が育たない、優秀な人が辞めてしまう。チームに活気がない、といった「人」に関することで、問題となっている事象は多岐に渡ります。しかし、これらの問題を突き詰めていくと、実は根本的な原因はたった一つ。それは「個人に焦点を当てた対話の不足」です。
結果を出すために必要なコミュニケーションは密に取っている、と経営者側が思っていても、それは業務に焦点をあてたいわゆる「仕事の話」をしているだけに留まっているのではないでしょうか。
個人に焦点を当てた「対話」が継続的な結果をもたらします。
個人に焦点を当てた対話の目的とは「社員との信頼関係づくり」や「社員の不安の解消」、さらには「社員の心身状態の確認」など、社員自身に関することです。これらの一連の働きかけが、「心理的安全性」に繋がるのです。
1 on 1の目的
1 on 1の大きな目的は以下の2つです。
社員の成長
1 on 1では、従来の目標管理や業務の進捗管理が目的ではありません。効果的な社員の成長を促すことを目的としています。
1 on 1により、社員は自分の失敗体験や成功体験を振り返る習慣がつきます。その過程で取組むべき課題を明確にすることが可能となります。その結果、経験学習のサイクルが身に付きます。自分に繰り返し起こるパターンを認識することで、精神的な面での課題も見つかる可能性もあります。
また、経験の振り返りから社員自身が自分の適性や可能性に気づくこともあり、こういった気づきが社員のキャリア支援のきっかけとなります。
目標の達成
社員の成長とセットとなる目的が目標の達成です。1 on 1の機会を設けることによって社員は困っていることへの解決方法やヒントや経営者や上司からの協力を得ることができます。
社員の行動について、経営者側から客観的に見て目標を得遠回りしていたり非効率的だったりした場合は、軌道修正を促せます。1 on 1により、高い頻度でフィードバックを得られれば目標達成への精度も上がります。
1 on 1のメリット
経営者のメリット「社員の情報を引き出すチャンス引き出せるチャンス」
経営者が1 on 1で、日々変化している現場の状況を直接聞き取れば、現場への理解を深めることができます。
また、1 on 1の場面で普段の業務中にはわからない社員の性格や健康状態、家庭の事情を知ることもあり、結果、社員の仕事のパフォーマンスに対する理解度を向上させることができます。
社員のメリット「タイムリーな相談」
1 on 1は週に1回から月に1回定期的に経営者の時間を得られます。このため、社員はその都度、自分がその時に困っていることについて相談したり、自分がうまくやれているのか評価を受けたりすることができます。
従来、会議は頻繁に行われているものの、1対1の面談は少ないと半年~1年に1回、多くても四半期に1回程度しか行われていない企業ばかりでした。
それが1 on 1として半強制的に面談の時間を設けることで、社員は自分の仕事について(場合によってそれ以外のプライベートな事なども)ある程度気軽に相談できるようになります。
両者のメリット「信頼関係の構築」
定期的に 1 on 1ミーティングを行うことで経営者と社員は自然と距離感が縮まるようになります。
定期的な1 on 1によって「心理的安全性」が確保されれば、通常では口に出さないような感謝の気持ちや仕事への賞賛などが自然と出るようになり、経営者・社員ともに働くことに喜びを感じる機会を得ることができます。
さいごに
1 on 1は、社員の「内省」の場でもあります。内省とは「自分の心と向き合い、自分の考えや言動について省みること」です。1 on 1において、社員は経営者のあなたの問いかけによって自分とも「対話」を行います。
一方で、経営者のあなたも自分自身を「内省」していく必要があります。それをセルフ1 on 1と呼んでみます。このセルフ1 on 1のやり方は人それぞれで良いと思いますが、大切なのは、自分自身をケアしなければ、他人はケアできないということです。
つまり、セルフ1 on 1で自分自身をケアして、通常の1 on 1では部下をケアしていく。そのような姿勢を大切にする心がけが必要です。
また、経営者は常に社員から、人格=あり方を見られています。自分が社員の立場で経営者を見る時、厳しい目でジャッジしている自分に気が付くのではないでしょうか?
「あり方=人格」と「やり方=スキル」はよく氷山に喩えられます。やり方は目に見えるものです。しかし、その下にはやり方を支えるあり方があります。これは海面に沈んでいるため直接は目に見えません。しかし、全ての行動がこのあり方=人格を作っていきます。それは社員のことをよく知ろうとする姿勢そのものも含まれます。
つまり、やり方は色々ありますが、そのやり方にこだわるのではなく、全てをあり方=人格を変えていく、自己成長につなげていくものであるという思いで、何事にもチャレンジして頂ければと思います。
是非、一度1 on 1を会社に取り入れることを検討してみて下さい。そして、どうやったら分からない。という方は、合わせて『1 on 1の基本的なやり方と考え方』 もお読みください。
1 on 1とは、1 on 1ミーティングとも呼ばれます。行うことは上司と部下の1対1の定期的な「対話」です。
ここで、上司と部下という表現を用いましたが、会社の大きさが、経営者のあなたの目が全社員に行き届く規模であるなら、是非、経営者と社員との立場で1 on 1を貴社で取り入れて頂きたいと思います。従来の「面談」とは異なる「対話」を重視することで、会社の活性化につながるはずです。
会社の成長には、社員の成長が必要不可欠です。どのような社員がいて、会社にどのようなことを望んでいるのかを知る必要があります。そのためにも、1 on 1を通じて、社員一人ひとりのことをよく知って頂ければと思います。
今回は、この1 on 1の基本的なやり方について説明しますが、やり方にこだわり過ぎずに、あくまでも、1 on 1は「社員のための時間」だということを忘れないでください。
1 on 1の基本的なやり方
1 on 1の基本ルール
1 on 1を実施するにあたって基本となるルールは以下の3つです。
少なくとも月に1回(可能なら、週1回から隔週1回の頻度で)
1回につき15分から30分
事前に話すことは考えておく
1. 少なくとも月に1回(可能なら、週1回から隔週1回の頻度)
多くの会社では社員との面談を年度ごとや半期ごとにしており、1年に1回から2回ほどしか行わないことがほとんどです。しかしそれでは社員への十分な聞き取りができているとは言えません。
本来、1 on 1は週1回から隔週1回程度の頻度で行うことが理想です。経営者のあなたが1 on 1を全社員に実施する場合、週1回での実施は社員数によっては困難だと思います。
しかし、この頻度は1 on 1で最も大切なポイントです。1回15分という短い時間でもいいので、できるだけ回数を増やしていくことを心掛けて下さい。
2. 1回につき15分から30分
定期的に行うことが重要であるため、続けやすいように1回の時間は短めとします。
ただし、社員が深刻な悩みを抱えている場合や、なかなか解決への道筋が見えない場合は、この限りではありません。社員の状況に応じて、臨機応変に時間を増やすなどの対応を行います。
3. 事前に話すことは考えておく
1 on 1導入期に起こり易いのが、いざ「何について話しますか?」と社員に聞いても、社員が「特にありません」となることです。
大きな原因の一つは、あなたと社員の間に信頼関係が構築できておらず、あなたに相談できないという場合があります。また、他の原因として、社員自身が自分の仕事について振り返りができていなかったり、客観的に見えていなかったりすることもあります。
1 on 1を実施するために、専用シートなどを使って、話したいことを2つ3つ考えておくことで、スムーズな運営が可能となります。
話をする内容の具体的な切り口としては、以下のような項目が考えられます。
よく出来たと思っていること
困っていること
気になっていること
目標の進捗
プライベートの悩み
最近新たに始めたこと、など
1 on 1を実施する際の注意点
1 on 1を実施する際はいくつかの注意点があります。その中でも特に気をつけたいのは以下の3つです。
まずは社員の話を聴く
仕事の業績向上につながる会話をする
キャンセルではなく必ずリスケジュールする
1. まずは社員の話を聴く
1 on 1は社員のための場であることを忘れてはなりません。「社員の話す時間が8割以上になる」ことを意識して下さい。
また内容が、他の社員に対する相談であったとしても「あなたならどう思うか・あなたの意見は?」というように、質問を返して、さらに深い情報を引き出すなど、社員に話をさせるようにします。
社員にあらかじめ今回の課題を提出してもらう方法もあります。たたき台として共有された文書があると社員も話がしやすくなり、あなたも落ち着いて話を聞けるというメリットがあります。
2. 仕事の業績向上につながる会話をする
慣れないうちは、対話が難しいかもしれません。沈黙が続くなどした場合は、話しやすい雰囲気を作るために、雑談は必要です。
しかし1 on 1の目的は業務時間を使って社員からアウトプットを促し、最終的には仕事の業績向上につなげることです。貴重な機会があることを忘れずに雑談だけで終わらないように注意します。
3. キャンセルではなく必ずリスケジュールする
忙しい仕事の合間を縫うため、時には予定通り1 on 1を実施できないこともあるかと思います。その際はキャンセルではなく必ずリスケジュール(再日程調整)します。
キャンセルではなくリスケジュールすることで、会社側が1 on 1を大切にしている、社員を大事にしている。という会社側の意思表示にもつながり、社員との信頼関係を構築にも寄与します。
1 on 1において話し合う目的は大きく2つ
目的を説明する前に1 on 1を始める際の気を付けるべき点は、以下の3点です。
雑談でもよいが、雑談ばかりはN.G.
業務の細かい進捗の話はN.G.(社員がどうしてもというなら別だが、毎回はN.G.)
話すテーマのゴールを決める必要はない。しかし、客観的な視点で今全体のどこ(Where)の何(What)を話しているのか?という意識は必要(ゴールへ誘導するコンパスは必要ないが地図は必要)
雑談ばかりのゆるい雰囲気ではなく、少し雑談を含む柔らかい雰囲気で社員との対話を行います。その際、具体的になり過ぎる話に終始すると、短期的な視野で問い詰めるような雰囲気にもなりかねません。
普段あまり話さない抽象度の高い話を中心に、主な視点は中長期に向けます。そして、あなたが話を誘導するのではなく、その場の雰囲気や社員の状態に共感しながら、社員の立場に寄り添って話すことを心掛けます。
目的別にさらに2つに分けることができます。
信頼関係づくり
社員の成長支援
あなたと社員の関係の根本にあるのは、人間関係です。その関係を築く基礎となるのは信頼関係です。この土台なくして強固な関係性は築けず、伝えたいことも伝わりません。まずは信頼関係づくりが不可欠です。よって、この信頼関係づくりは、1 on 1の時に毎回心がける必要があります。
そして、信頼関係をつくりながら、あなたが行うべきは社員の成長を支援することです。この社員の成長が会社に高いパフォーマンスをもたらし、会社の成果を最大化させます。この2つは完全に分けられるものではなく、相互に影響し合っています。
信頼関係づくり
プライベート相互理解
社員にプライベートなことを話してもらうためには、雰囲気が重要です。人は環境によって気分が左右されるものです。そこで特に意識してほしいのが、社員の話に、あなたの「納得」を求めてはいけない、ということです。あなたが「納得」するための時間は、あなたのための時間です。つまり、「納得」ではなく「共感」のスタンスで臨むことが必要です。
また、「共感」は相手に味方と認識させますが、「説得」は敵と認識させてしまいます。更に、「共感」は安心と勇気を与えてくれます。
心身の健康チェック
心身の健康チェックとは、心身の状態や業務量、業務時間などを確認することです。今、社員が「どのような状態で」仕事に取り組んでいるのかを知っておくことも、経営者としての役割です。なぜなら、心身の健康は仕事の結果に関わってくるからです。
「最近寝つきがよくない」「早めに起きてしまう」「疲れやすい、ダルイ」これらは、メンタル不調の最初のサインです。このような回答があった場合には、少し深堀りして原因を聞いて下さい。
「残業が多い」「変えるのが早い」残業や業務量の過多など、社員の立場ではどうしようもない状況についても確認して、場合によっては、タスクの洗い出しや効率化の方法、更には優先順位をつけることを社員と一緒に行います。
存在承認
あなたが行うのは、社員の話を「聴ききること」です。「話を聴いてもらっている」ということが何よりも、「自分は大切にされている」と存在承認を実感してもらうことが大切です。
また、仕事での成果についても触れて下さい。「自分の仕事を見てくれている」ということも存在承認に繋がります。
この存在承認は、最終的に会社の成果に繋がりますので、是非、大切な要素であることを意識して下さい。
社員の成長支援
目標設定/評価
目標設定も評価も、その本質は社員の育成にあります。また評価で最も大切なことは「正しい評価」ではなく「評価される側の納得感」です。いくら「ルールに則った」評価をしても社員が納得しなければ意味がありません。
つまり、会社として「社員の納得のいく評価」を行って、社員の育成につなげていくことにあります。そのために、日頃から短い期間での1 on 1により、物理的な接触頻度を増やして、目標へのフィードバックや承認を行う必要があります。
社員が心の中で思っていることを聴いて、社員特有の状況や想いを理解しない限り、社員は「自分をきちんと見てもらっている」という感覚は持てません。ルール通りの「正しい評価」を行っても、社員にとって納得できない評価となってしまう恐れがあります。
また、目標設定も同様に、1 on 1を通じて、正しい目標設定から納得感のある目標設定に変えていく必要があります。
能力開発/キャリア支援
業務を通して、社員の気づきを促すことで、社員個人の能力開発とキャリア支援を行うことができます。
能力開発とはすでにある能力を自覚させることです。社員は、業務を何らかの行動をとることで終わらせますが、そのときに社員は自分のどのような能力が発揮されたかについてあまり気にしていません。
しかし、ある行動がとれるのは社員が持つ能力が発揮された結果です。そして、社員本人はこの発揮した「能力」には無自覚です。その場合、たまたま発された能力として、次の機会に発揮できないかもしれません。
そこで、質問によって社員自身に気づかせるのです。そして自分の中からその能力が発掘することができれば、その能力をまた異なる場面でも活用することができます。社員自身が自覚的になることで、自分の能力を扱えるようになります。
社員が「将来やりたいこと」を考えるキャリア支援にも、目標から逆算する考え方の「トップダウン型」と現状の積み重ねによりキャリアを切り開いていく「ボトムアップ型」があります。どちらのやり方にも共通しているのは、現在を「迷わず、充実して過ごせる」ことにあります。これを踏まえた上で、将来像について社員に問うポイントは以下となります。
会社内での将来像
ビジネスパーソンとしての将来像
その他(人間として、家庭の中で、地域の中で)の将来像
業務の改善
一般的には、緊急度が高く、かつ重要度の高い業務の場合は、社員から報告や相談することができます。一方で、期限が決まっていない、重要だけど緊急ではない業務については、なかなか社員から声が上がらない傾向にあります。
しかし、本当に重要なのは、この重要だけど緊急ではない業務です。よって、1 on 1では数字や具体的案件の進捗確認などの目先の成果に関することは扱わないことを前提として、業務改善と組織改善について対話します。
これら、将来起こりうるリスクを先回りして考えたり、業務をもっと効率的なものにしていくアイデアを出したりすることです。そして社員の視野を広げていくことは、中長期的に結果を出していくために極めて重要なことです。
戦略・方針の伝達
経営者としてのあなたの大きな役割は、社員全員を一つの目標に向かって一致団結して行動を促すことです。
そのためには、経営者のあなたから「社員への報連相」が大切です。あなたは、社員が知ることのない重要な情報を得ているかと思います。「社員に開示する必要はない」とご自身の中で留めておくのではなく、社員が知りえない情報を精査して、社員に公開していきます。つまり、「社員への報連相」ができる経営者は社員を育成することが上手です。特に、社員に早い成長を期待するならば情報を頻繁に出していくべきです。
さいごに
今回、時代に合った組織開発方法の1 on 1のやり方について説明してきました。経営者のあなたが、全社員と「対話」の時間を取ることは、初めは大変だと思います。足元の業務が回らなくなる可能性が出てきて、1 on 1どころではないかもしれません。
しかし、会社には、経営者にしかできない仕事がいくつかあります。その一つが、「人事・組織」です。分業化が進んでいる大企業とは異なり、少数精鋭の中小企業では、あらゆる業務をこなすために、社員の能力を最大限に引き出す必要があります。その能力を引き出すことができるのは、経営者しかいません。
アメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)を焼く20年率いて、「20世紀最高の経営者」と称されたジャック・ウェルチは「会長として仕事の75%近くは人事だった」とコメントを残しています。
ピーター・ドラッカーも、「エグゼクティブは、人材マネジメントと人事関連の意思決定に最も多くの時間を費やしており、それがあるべき姿である。これほど影響が長引く判断、あるいは元の状態に戻すのが難しい判断は他にない」と記している。
それほど、会社にとっての人材育成・組織開発は、経営の重要課題だと言えます。是非、あなたの会社でも、1 on 1を取入れて、会社発展のきっかけにして頂ければと思います。
経営者の大きな悩みの一つとして、社員の育成(人材育成)があるかと思います。
その人材育成のプロとして、人材育成コンサルタントが存在します。しかし、その人材育成のプロであっても、自分の子どもの育成(子育て)は、思い通りにいかないと言われています。それほど、自分の子どもの子育ては難しいものです。
しかし、この子育てと人材育成には、共通点が多く、どちらも参考になることがあります。今回は、子育てと人材育成の共通点を見ながら、どのように人(子ども・社員)を育成してくべきかについて考えて行きたいと思います。
子育てと人材育成に共通する3年という期間
三つ子の魂百まで
あなたは、子育ての重要性を語ることわざとして、「三つ子の魂百まで」は聞いたことがあるかと思います。このことわざの意味は、「幼い頃に体得した性格や性質は、一生変わることがない」という例えです。
なお、全世界88か国でも同じような言葉が存在していると言われ、3歳までの幼児期の子育ての重要性は世界共通と言えます。
欧米では、「ゆりかごで学んだことは、墓場まで持っていくことになる」という意味の「What is learned in the cradle is carried to the grave」が有名ですが、「Zero to three」という短い言葉が使われることもあります。
3歳までの子育ての重要性は、脳科学的にも解明されています。脳の重量は、3歳で成人の約80%、6歳で約90~95%に達します。成人の脳にある約140億個の神経細胞は、妊娠7週から20週までの間にほぼ全部作られ、出生後は増えません。脳の重量増加は、脳の神経細胞であるニューロン同士を繋ぐシナプスが増えることや、ニューロンの突起が複雑に伸びたりすることが要因とされています。
つまり、出生後に脳の神経細胞の数は増えないが、神経細胞(ニューロン)間の連絡網(シナプス)の形成により初めて脳全体が機能するようになり、その脳の成熟が3歳ごろであるということです。このこのため、3歳ごろまでの外部からの刺激が大変重要であるという訳です。
生まれてから3歳ごろまでが子育てには重要であるということについては、会社においても同じことが言えます。
新入社員3年目までの教育研修
会社では、入社したばかりの社員が社会人として必要な知識やスキルを身に付けたり、会社への理解を深めることを目的に、新入社員研修を行います。人材育成は、会社の運営と発展に欠かせない要素であり、新入社員研修はその人材育成のスタートに当たると言えます。
そして、この社会人がスタートした時の人材育成の重要性を認識しているからこそ、多くの企業はこの3年目までの研修教育に力を入れています。
人事労務分野の情報機関である産労総合研究所が毎年行っている「教育研修費用の実態調査」の教育研修について、2019年度(第43回)の調査結果(対象企業:3,000社)では、階層別教育は、「新入社員教育」の実施率が95.7%と報告されています。また、「新入社員フォロー教育」が77.7%、「中堅社員教育」が70.7%という実施率でした。
最も大切な育成の要素は「存在承認」
以前の「結果を出す核は存在承認」 でお伝えしたように、結果の核は「存在承認」にあります。この「存在承認」の重要性は、子育てと人材育成にも同様のことが言えます。
子育ての「存在承認」
近年、「キレる子ども」により、教育現場では学級崩壊するなど、「キレる子ども」が社会問題となっています。
この「キレる子ども」は、感情を理性で抑制できないことが原因です。この理性を司る脳が、人間脳と呼ばれる大脳新皮質であり、「キレる子ども」はこの大脳新皮質(具体的には、前頭連合野の一部である眼窩前頭皮質)の発達が不十分であることが分かっています。
そして、この大脳新皮質の発達を促すために、育児現場で提唱されていることが2つあります。1つ目は、子どもに十分な愛情を与えること。2つ目は、習慣を身に付けさせること。この2つです。
この1つ目の十分な愛情とは、子どもの存在そのものを愛するということ。つまり、「存在承認」してあげることと言えます。
では、子育てにおける「存在承認」とはどのような行為を言うのでしょうか。
赤ちゃんの出生直後は、誰しもが「生まれてきてくれてありがとう」と我が子を抱きかかえ、赤ちゃんの「存在承認」を行います。この時点では、赤ちゃんにとっては、受動的に「存在承認」されていると言えます。
そして、赤ちゃん本人の意思で、能動的に「存在承認」を欲求するのはいつでしょうか。
それは、泣いた時 です。
つまり、赤ちゃんが泣く理由は、その時々ですが、赤ちゃんにとって、自分が泣くことで親がそれに反応することこそが、正に自分の「存在承認」を満たしてもらうことに他なりません。
赤ちゃんが泣いた時に、抱っこしてあげるという行為は、子育てにおいて極めて重要な「存在承認」の行為と言えます。
人材育成の「存在承認」
社員の人材育成の「存在承認」の意味について、以下の2つの研究例・調査例から考えてみます。
最初の上司との相性が会社員人生を決める
経営学では、VDL(Vertical Dyad Linkage)モデルと呼ばれる、「縦の二人関係における繋がり具合」という概念が唱えられています。
これは、最初の配属でどのような上司について、その上司とどのような関係にあったかが、入社後の会社への適応や、更にはその後の社内キャリア(昇進・昇格など)に大きな影響を与えることが示されました。
つまり、従来の考えでは、社員の成長は、個人能力に大きく依存していると考えられていましたが、このモデルにより、最初の配属先の上司との相性が人材育成に大きく左右することがわかったのです。
モチベーションは上司の資質に左右される
学校法人三幸学園が運営する東京未来大学が、2019年1月に転職経験の無い社会人3年目の男女300名を対象に実施した「仕事のモチベーション」に関する調査の結果を発表しています。
本調査では、「あなたは仕事におけるモチベーションは上司の資質に左右されると考えますか?(n = 300)」という質問に対して、「非常にそう思う」、「そう思う」への回答が、8割を超える結果となったことを報告しています。
そして、この質問の結果を受け、「上司のどのような行動によって、仕事に対するモチベーションが向上するのか?」について、男女別で比較した結果、男女ともに最も多い回答が「仕事ぶりを評価する」でした。男性で59.1%、女性では60.2%と高い数値でした。
また、上司からの声掛けに対してモチベーションが上がる傾向があり、「労(ねぎら)いの言葉をかける」や「意見に耳を傾ける」も上位に並んでいます。逆に、男女ともに最も低い回答となったのが、「責任のある仕事を任せる」ことでした。
この「責任のある仕事を任せる」よりも、「労いの言葉をかける」ことが、新入社員のモチベーションに繋がるという結果は、VDLモデルの査証であり、正に「存在承認」の重要性を示しているものと言えます。
戦後の子育ての大きな誤解
先ほど、上記で「泣いた時に抱っこすること」が、子育ての極めて重要な「存在承認」の行為とお話ししましたが、この提案に違和感を覚えることがある人も多いのではないでしょうか。
つまり、あなたは「抱っこ癖が付くので、泣いても直ぐに抱っこしてはいけない。」という子育ての方針を耳にしたことがありませんか?もし、先ほどの提案に違和感を持たれたとしたら、この子育て方針を耳にしたことがあるからだと思います。
この違和感を正してもらうためにも、歴史的な流れを説明しておきたいと思います。
第二次世界大戦後、アメリカの小児科医であるベンジャミン・スポック博士の著書で『スポック博士の育児書』という本が全世界を風靡しました。日本でも「子どもの自立心を育む」育児法として、広く認知されるようになります。その内容の一部に以下のような内容があります。
赤ちゃんが泣いても、いちいち抱き上げない。
抱き癖がつくと、必要もないのに甘え泣きをするようになる。
添い寝は自立心を妨げるので、夜は個室に入れ、一人で寝かせる。
これらの考え方は、母子手帳にまで反映され、1980年代まで長らく記載されることになります。しかし、スポック博士は、時代に合わせて8版の改定を重ねており、細部は大幅に変わっていきます。日本で広がったのは、初期の育児法だったのです。
当時、真面目なお母さんほど、忠実にこれらを守って、厳しい子育てに勤しみました。当然、我が子のことを思い、良かれと思っていたはずです。しかし、この子育て法の弊害が生じます。それが、圧倒的な愛情不足です。さらに言うならば、「存在承認」の不足です。
そして、この「スポック博士の育児書」全盛期時代に、親から突き放されて育てられた人たちが、子育て世代を迎えた時に起きた弊害が、赤ちゃんや子どもを「どう可愛がっていいかわからない」「どうしても可愛いと思えない」と悩むことです。可愛がられた記憶が希薄であるため、戸惑うのです。
先ほど、説明したように、赤ちゃんが泣くという行為は、「存在承認」を欲求しているというシグナルです。それにも関わらず、いつまでも抱っこしてもらえず、「存在承認」を満たしてもらえないとどうなるでしょうか。
また、夜中に目を覚ました時に、真っ暗な中、親が近くにいないことに対する不安は計り知れないものがあると思います。大きな不安やストレスは、大きなトラウマとなり、脳の成熟に悪影響を及ぼします。
本来の子育てとは、赤ちゃんが泣いて「存在承認」を求めたら、迷うことなく、抱っこして「存在承認」してあげることです。一緒に添い寝して、夜中に目が覚めても、親がすぐそばにいるという安心感の元で寝させてあげることです。
もし、あなたに小さなお子さんがいて、もし、「抱き癖が付くから、泣いても抱っこしない。」または、「夜中は一人で寝かせている。」という子育てをしているようであれば、是非、改めて頂きたいと思います。
まとめ
子育てと人材育成を「教育」という言葉に置き換えてみます。「教育」とは「教え育てること。人を教えて知識や技術を教えること」と説明されます。しかし、「教育」の本来の意義は、「子どもに備わった素質を引き出し、伸ばすこと」ではないでしょうか。
その「教育」には「自信」が大きく影響します。子育てでは、肌と肌の触れ合いと、目を見て交わす笑顔が、子どもに“愛されている”という全能感と信頼感を与え、「自尊感情」という自己肯定感を育みます。十分に甘えた子ほど、自身をもって巣立ち、自立していくことができるのです。
全ては、「存在承認」から始まります。それは家庭の子育てでも会社の人材育成でも同様です。そして、「存在承認」は、本人が自ら構築していくものではなく、“周りとの関わり”によって満たされていくのです。
日本では、OJT(On-the-Job Training)という教育方針が浸透しています。これは、「新入社員が上司について、“仕事を覚える”」という意味で使われているように思います。しかし、OJTの本来の意味は、「上司が新人社員について、“その社員の素質を引き出す”」ことではないでしょうか?
もし、あなたの会社で、若手社員があなたの思うような結果を出すことができていないと感じるのであれば、若手社員本人の問題に焦点を当てるのは止めましょう。まずは会社として、その若手社員の素質を引き出し、伸ばすためには、その若手社員とどのように“関わり”を持てばよいのか。そのような視点で社内を見渡してみて下さい。きっと今まで違う世界が見えてくると思います。
今回のブログが「子育て」と「人材育成」の新たな視点になれば幸いです。もし、色々な気付きを得て、変わったことがあれば、是非、嬉しいお声を聞かせて頂ければと思います。あなたの嬉しいお声をお待ちしています。
子育てでも社員育成でも「ほめて伸ばす」という言葉を聞くことがあります。また、「自分はほめられて伸びるタイプだ」という方もいます。一見、正しいように聞こえるこれらの言葉は、本当に正しいのでしょうか?
結論から申し上げると、育成のための“手段”として「ほめる」こと自体は問題ではありません。しかし、「ほめる」ことが“目的”となってしまっては問題が生じます。
ここで、“手段”と“目的”という言葉を使いましたが、手段とは「やり方」であり、目的とは「考え方」です。
今回は、“手段”として「ほめる」を使うこと、“目的”として「ほめる」を使うこと、この2つの違いについて説明し、本当の意味での育成とは「認める」ことであることを説明していきます。
「ほめる」と「認める」の違い
「ほめる」の使い方の違いを説明する前に、まずは「ほめる」とよく比較される「認める」との違いについて説明します。
「認める」とは、事実・存在をそのまま相手に伝えることであり、肯定・否定に関わらず評価を含みません。言い換えると、「認める」とは、相手のありのままの存在や、起きた事実を、ただそのまま受け止めることです。相手を他の誰かと比較することや、起きた事実に対する評価や批判を含みません。
「ほめる」とは、事実に対して良い点や成果を取り上げ、相手を肯定的に評価することです。言い換えれば、「ほめる」とは「事実を認め、良いことを肯定的に評価する」ことです。
一方、「ほめる」の反意語の一つとして「とがめる」という言葉があります。この「とがめる」とは、事実に対して悪い点や失敗を取り上げ、相手を否定的に評価することです。つまり、「とがめる」とは「事実を認め、悪いことを否定的に評価する」ことです。
以上から、「ほめる」とは、認めた上で肯定的に評価することであり、「とがめる」とは、認めた上で否定的な評価を下すことです。このことから、「ほめる」と「とがめる」の前段階に「認める」があります。
何故、「ほめる」が“目的”になってはいけないのか?
“手段”としての「ほめる」と、“目的”としての「ほめる」
“手段”としての「ほめる」とは、つまり、コミュニケーションのひとつの方法として相手を「ほめる」ことです。つまり、“手段”としての「ほめる」は、相手をほめる時もあれば、ほめない時もあります。
一方、“目的”としての「ほめる」は、基本的に「ほめる」を使うことで相手とコミュニケーションを取ることを言います。つまり、どんな時でも相手を「ほめる」ことが基本となります。
言い換えれば、“手段”としての「ほめる」は、時と場合によって「ほめる」を使う。“目的”としての「ほめる」は、常に「ほめる」を使うこと。と整理することができます。
“目的”としての「ほめる」による弊害
「ほめる」ことは「良いことを肯定的に評価する」ことであると述べました。つまり、“目的”として「ほめる」ことは、「常に良いことを肯定的に評価する」ということです。
その結果、“目的”として「ほめる」を使っている会社では、「悪いことは評価せずに、良いことだけを評価する」ことを実践されている場合が多く見受けられます。
つまり、そのような会社は、社員に対して「悪いこと(失敗)が起きても、その失敗をとがめるのではなく、良かったこと(できたこと)を取り上げて、そのできたことをほめましょう」 と教えられています。この教えを社員が素直に守ると、どうなるか?
上司は、ほめ疲れてしまう
上司は、「良いことを肯定的に評価して、常にほめなければいけない」と考えますが、会社業務では良いことばかり起きるわけではありません。その結果、真面目な上司では、以下のような症状が出てきます。
部下の新しく「ほめる」点が見当たらなくなり、「ほめる」点を見つけるのに苦労する。
新しく「ほめる」点がないと、同じ点を「ほめる」ようになる。
最終的に、心から「ほめる」ことができず、「ほめる」ことに苦悩する。
先ほど、「ほめる」ということは「良いところを肯定的に評価する」ことと定義しました。もう少し踏み込んだ表現を用いるなら、「ほめる」ということは、「達成したことや成長した部分を認めて、評価すること」です。つまり、会社で常に「ほめる」ためには、社員に成長し続けてもらう必要があります。
しかし、常に成長を続けることはできません。確かに、入社間もない時期は、著しい成長が認められ、「ほめる」ことも容易だと思います。ところが、社員の成長が停滞した時にも「ほめる」となると良い所を探すことが難しくなってきます。
そして、新たに「ほめる」点を見つけることができなければ、同じ所を「ほめる」ことになります。ここで、真面目な上司ほど、同じ言葉で「ほめる」ことを避けようとして、違う言葉で「ほめる」ことを試みようとします。
しかし、「ほめる」言葉としては、「すごい」「さすが」「上手」「えらい」など元々数が少ないため、上司は「ほめる」言葉を絞り出すことになります。この絞り出すことで、嘘っぽく「ほめる」ことになります。
その結果、心からほめなければいけないと真面目に「ほめる」上司ほど、「ほめる」ことに対して苦悩し始めます。最終的に、「ほめる」こと自体が重荷になってしまいます。いわゆる、ほめ疲れ です。
部下は、ほめ慣れてしまう
部下の立場で、常にほめられると、失敗がとがめられないため、「失敗しても良い・問題ない」という考えに至っても不思議ではありません。
特に、「ほめる」言葉として、「よくやった」「頑張った」も「ほめる」言葉に含まれますが、この「よくやった」「頑張った」という言葉を掛けられると、部下は「今やっていることで、いいのだ」「現状で評価してもらっている」と勘違いしてしまいます。その結果、「ほめる」ことが「おだてる」になる可能性があります。
そして、それが常態化してしまうと、「悪いこと(失敗したこと)」は棚に上げて、「ここまでやったのだから、私はほめられて当然だ」とか「ここまでやったのに、ほめてくれなかった」という風に、ほめられること自体を求めてしまい、それが叶わないことによって反対に不満が高まる危険性があります。
社員育成の本来の考え方
会社経営している中では、必ず良いことも悪いこともあります。良いことは、更に改良していく必要があります。また、悪いことは改善していく必要があります。つまり、会社では、良いことも悪いことも、会社の成長に変えていく必要があるはずです。
しかし、“目的”として「ほめる」を使ってしまうと、最悪な場合「悪いことは無視して、良いことは肯定的に評価する」という状態に陥ってしまいます。
社員が一番成長する時は、失敗を乗り越えた時です 。つまり、本来の育成は、「失敗しても良い・問題ない」だけど、「その失敗を次にどう生かすか?」を同時に問うことです。
元々、社員の成長を促すために「ほめる」を使っていたはずです。それが、「ほめる」ことが“目的”となるような使い方になってしまうと、社員の成長を妨げる結果になることは、十分に理解する必要があります。
「ほめる」ことを“目的”するのではなく、良いことも悪いことも「認める」。その上で、良いことに対しては「ほめる」を“手段”として使う。という意識が極めて大事です。
「認める」ことの意味
「認める」ことは評価ではありません。「ほめる」ことよりも、じわじわと本人の内面から気持ちが湧き上がるような、持続力のある意欲を喚起します。なぜなら、「認める」ことが「自信」に繋がるからです。
「自信」とは、「自己肯定感」と「自己効力感」で構成されています。「自己肯定感」とは「自分大好き!」という存在承認であり、「自己効力感」は「自分はできる!」という意欲承認・行動承認・成果承認です。詳しくは、こちら「組織を強くする「自信」」 をご確認下さい。
つまり、これらの「認める(承認)」により、人は安心感を持ち、自分自身をより信頼する気持ちが生まれます。安心感を得ると、次の目標へ向けて前向きな行動を起こすことができるようになります。また、自己信頼が増すことで、失敗にも立ち向かえるにようになります。
具体的な「認める」行為
「認める」は、「ほめる」よりも簡単です。「ほめる」とは、良いところを評価して、相手が嬉しくなる言葉を伝える必要がありますが、「認める」とは、事実・存在をそのまま相手に伝えることです。
具体的な行為について、「自己肯定感」の存在承認と、「自己効力感」の意欲承認・行動承認・成果承認に分けて説明します。
存在承認という「認める」行為
普段の何気ない動作でも相手を「認める」ことに繋がります。特に近年では、目を見て話をする人は少ないと言われています。社員が声を掛けてきたときに、パソコン画面や資料を見ながら話をしているという方は、相手を見ることを意識してください。他の具体的な行為も合わせて、以下に記します。
目を見て話をする
挨拶をする、挨拶を返す
仕事を任せる
意見を聞く
人に紹介する際に良い点をアピールする
意欲承認・行動承認・結果承認という「認める」行為
相手の行為自体をリフレーミング(オウム返し)することも「認める」行為です。このため、「ほめる」のように表現が枯渇することはなく、言葉を探す必要はありません。
具体的には、まずは事実を受け止めて「認める」だけです。例えば、お願いしていた資料を社員が持ってきたらシーンでは、以下のようになります。
社員 :「資料ができました」
あなた:「資料ができたね」(事実のリフレーミング)
そして、可能なら、自分の気持ちを添えて、相手が嬉しい言葉を伝えることができれば、更に良いです。具体的には、以下のステップで社員を認めることができます。
あなた:「資料ができたね、助かるよ!」(事実+自分の気持ち)
あなた:「資料ができたね、助かるよ、さすがだね!」(事実+自分の気持ち+相手が嬉しい褒め言葉)
まとめ
「ほめる」は、コンサルタントや研修講師の方がよく使われる言葉です。様々なところで「社員を育成するために、ほめましょう」というアドバイスは聞いたことがあるかと思います。しかし、この言葉をそのまま鵜呑みしてはいけません。
何故なら、コンサルタントや研修講師は「ほめる」ことを育成の“手段”として提案しています。しかし、短時間での研修内での説明や、聴き手の受け取り方によっては、「ほめる」ことを積極的に使う必要があると勘違いしてしまいます。その結果、最終的に「ほめる」ことを“目的”にしてしまう可能性があります。
あくまでも、「ほめる」は“手段”であることを十分に理解する必要があります。繰り返しますが、本来の社員の成長には「認める」ことが重要です。何故なら、「認める」こと自体が、社員の「自信」に繋がり、その「自信」が社員の自己成長を促すからです。
また、コンサルタントが「ほめる」を積極的に使えるのは、社外の人間だからです。コンサルタントは毎日社員と接することがありません。そのため、社員の良いところを見つけやすい立場と言えます。
特に、従来の育成方法で成長が止まっている社員に対して、コンサルティングの初期に「ほめる」ことは非常に効果的であるため、「ほめる」ことが正しい育成方法だと間違った認識を引き起こします。
そして、何より、コンサルタントは一時的な関係です。コンサルタントがいなくなった途端に、「ほめる」ことができなくなった会社は多いです。何故なら、上述のように「ほめる」ことを継続することは難しいからです。
一方、あなたを含め、社内の人間は、毎日社員と接するため、良い所も悪い所も見えています。また毎日接しているため、社員の変化に気付きにくい立場でもあります。
これは、あなたのご両親があなたのお子さん(ご両親にとって孫)と久しぶりに会って、交わす以下のようなシーンに似ています。
シーン1
ご両親:「ちょっと会わない間に、大きくなったね~ 」
あなた:「そうかな?毎日見ているから、実感が湧かないわ 」
シーン2
ご両親:「久しぶりに会ったし、何でも欲しいものを買ってあげるよ 」
あなた:「買ってくれるのは嬉しいけど、あまり、甘やかさないでね 」
つまり、たまに会うからこそ、成長に気付くことができたり、会う前から「何か喜ぶことをしてあげよう」という心づもりでいるからこそ、実際に会った時に、直ぐに相手が喜ぶ言葉がかけられるのです。
しかし、家族でも、社員でも毎日顔を合わせている関係では、よほど注意していなければ変化を見つけることは難しいのです。また、悪い所も見え、その悪い所を直して欲しいと思うからこそ、なかなか素直に良い所をほめられないのだと思います。
「ほめる」を使う時は、使う側が、この一連の内容を十分に理解して頂く必要があります。しかしながら、「ほめる」という“手段”が独り歩きしてしまい、多くの方が間違った「ほめる」の使い方をしています。
あなたは、「認める」と「ほめる」の違いを十分に理解されて、「ほめる」を使われていますか?
社員の自立した成長を促したいのであれば、「自信」を醸成する必要があります。この「自信」を醸成するためには、「認める(承認)」が必要です。是非、社員育成に必要な「正しい考え方」を身に付けて頂ければと思います。
会社経営をしていると、ビジネスで結果を出す必要があります。そして、その得たい結果を目的とするならば、会社では、この目的を達成するために目標を掲げると思います。
しかし、目標を掲げるだけでは、目的を達成することができません。このことは容易に想像することが出来るかと思います。
今回は、ビジネスで最終的な結果を得るための考え方について説明します。目的を最終的な次元とするならば、その次元に至るまでに考慮すべき次元とその構成要素について整理します。
そして最後は、目的を達成する上で、最も重要なことは何なのか?それに迫ります。
ビジネスで結果を出すまでの次元を整理する
最終的には、結果
冒頭にも述べましたが、ビジネスでは、結果(利益)が重要です。結果に至る過程(プロセス)も大切ですが、存続するという観点では、結果(利益)が最も重要な指標です。
結果に対する目標
会社として結果を出すために、組織や社員に目標を課すことは一般的です。この目標には2種類あります。一つ目は、最終的な目的である結果に対する結果目標です。
そして、もう一つの目標が、行動目標です。
行動目標とは、結果目標を達成するために必要な行動内容を示したものです。つまり、得たい結果を得るために必要な行動に落とし込むことで、行動目標を達成することができれば、結果目標も達成できるというわけです。
しかしながら、実際には、社会情勢などの外部環境の変化や、行動への落とし込みが不十分等の理由により、行動目標を達成しても、結果目標が達成できないことは多々あります。
そのため、会社では、職責に応じて、結果目標と行動目標の占める割合が異なってきます。これが、次の評価に関係してきます。
目標に対する評価
会社では、人事制度による社員の評価を行います。評価には、結果目標に対する結果評価と、行動目標に対する行動評価があります。いずれも、目標に対する達成度で評価されます。
しかし、結果目標や行動目標は、様々な理由により、予め定めた目標を達成できないことは多くみられます。このため、評価には、これら結果評価と行動評価以外にも、意欲評価というものがあります。
この意欲評価は情意評価とも称され、仕事に対して前向きに取り組んだかの姿勢を評価するものです。
職責が上がるに従い、結果責任が問われ、結果評価の割合が大きくなります。一方、新卒社員など、若手層は、結果評価の割合は小さくなり、行動評価や意欲評価の割合が大きくなります。
ちなみに、この評価は、会社側の視点では、会社への貢献度を測るためであり、社員側の視点では、成長を促すためです(詳細は「評価制度の大切な目的」 をご一読下さい)。
評価に対する承認
評価とは、評価対象の良し悪しを判断することです。一方、承認とは、「認める」ことであり、評価対象の良し悪しを判断せずに、あるがままを受け入れることです。
評価に対する承認には、結果評価に対する結果承認、行動評価に対する行動承認、意識評価に対する意識承認があります。つまり、評価する前段階として、結果そのものや行動そのもの、そして意識そのものを「認める」ことになります。
そして、もう一つ最も大切な承認があります。それが「存在承認」です。存在承認とは、その人自身の存在を認め、あるがままに受け入れる、ということです。
目に見えないものこそが大切
ビジネス基準とヒト基準の2つの観点から
ビジネス基準
ビジネスの目的は、結果を得ることです。つまり、ビジネスでは結果目的が大前提です。これは上述で説明したように、会社が存続するためには結果が必須だからです。
この目的に対する目標として、当然のことながら結果目的に対する結果目標があります。そして、結果目的を達成するために、行動という新たな指標が加わり、行動目標というものが登場します。
次に、目標の達成度を測る評価として、結果評価や行動評価が存在します。加えて、これら目標を達成するための指標として、意欲という新たな指標が加わり、意欲評価というものが登場します。
さらに、評価の前提となる承認として、結果承認や行動承認、そして意欲承認が存在します。そして、結果評価、行動評価、意欲評価を行う前提には、存在という新たな指標が加わり、存在承認が存在します。
ビジネスの観点であるビジネス基準からは、目的から目標、評価、さらに承認に次元が変わるに従い、指標が一つずつ加えられているように見られます。
ヒト基準
一方で、人の基本的な欲求として、承認欲求が挙げられます。これは「他者から認められたい、自分を価値ある存在として認められたい」という欲求です。この、他者に欲求している承認として、結果承認、行動承認、意欲承認、存在承認が挙げられます。
つまり、人の基本的な欲求の観点であるヒト基準からは、承認、評価、目標、さらに目的に次元が変わるに従い、指標が一つずつ簡略化されているように見ることができます。
ビジネスもヒトが基本
「企業は人なり」と言われるように、最終的に結果が目的のビジネスでも、その起点は人であることは容易に理解できると思います。
つまり、先ほどの目的、目標、評価、承認の次元の関係は、人の基本的欲求の観点であるヒト基準から理解していく必要があります。
この関係を概念図で示したものが、以下となります。
すなわち、次元は円錐状に形成されており、表面的には「結果」しか見えませんが、次元を切口とした断面とすることで、新たな要素が見えてくる。というわけです。
一番の核となる「存在承認」は、最下層の「承認」レベルの切口とした断面でしか、表に出てこないため、焦点が当たりにくいというわけです。
全ての始まりは「存在承認」から
しかし、逆の視点で考えると、全ての始まりは一番の核となる「存在承認」からである。ということです。
例えば、人は赤ちゃんとして生まれてきた時、「生まれてきてくれて、ありがとう」という言葉を掛けられ、初めてその存在が承認されます。この一言から、ヒトが形成されていくのです。
人と組織を強くする「自信」
この一番の核となる存在承認に加えて、意欲承認、行動承認、結果承認は、人を強くするための「自信」を醸成するために極めて重要な要素です。
「自己肯定感」と「自己効力感」で「自信」が育つ
「自信」とは、自分の価値・能力を信ずること。自己を信じる心、信頼する心です。
この自分の価値を信じることを「自己肯定感」と言います。そして、自分の能力を信じることを「自己効力感」と言います。すなわち、「自信」とは、自己肯定感と自己効力感から構成されています。
「自信」と「承認」の関係
そして、まさしく、この自己肯定感は「存在承認」であり、自己効力感は、「意欲承認」「行動承認」「結果承認」に相当します。つまり、自信を高めるためには、自己効力感と自己肯定感の構成要素である「承認」が重要となってくるのです。それは人も組織も同様にです。
以下に、自分の自信を高める言葉、人の自信を高める言葉の例を挙げました。是非、自分にも組織のメンバーにもこれらの言葉をかけて頂き、自信を高めて頂ければと思います。
なお、こちらに「組織を強くする「自信」」 について記載していますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
まとめ
今回、目的・目標・評価・承認という次元と、結果・行動・意欲・存在という要素の2軸で、ビジネスの最終目的である結果について説明しました。結論として、結果目的を果たすためには、「存在承認」から始める必要があるということです。
人としての存在承認の始まりは、「生まれてきてくれて、ありがとう」という言葉です。では、会社での存在承認の始まりは、どのような言葉でしょうか?
それは、「入社してくれて、ありがとう」 という言葉です。
世の中に数ある会社の中で、あなたの会社を選んで入社してくれたこと。まずは、このことに感謝を述べることです。
社員の中には、なかなか期待通りの結果を残せない方もいるかもしれません。会社では、結果を求めるがあまり、目に見える目的や目標に対して焦点が当たる傾向にあります。
しかし、本当に目的を達成したいならば、一見すると目には見えにくい、次元の異なる評価や承認に目を向ける必要があります。そして、何より一番に「存在承認」を大切にしなければいけません。
「自分の存在をきちんと認めてもらえている」この安心感が、社員の枯れない行動力の源になるのではないでしょうか。
時間が経つと、会社で働いてくれていることが、当たり前と勘違いしてしまいがちですが、是非、入社してくれた時の喜びを言葉に出して、社員の方に伝えて下さい。
もし、その言葉により、社員の方が仕事への取組み方が変わったならば、是非、ご報告を下さい。あなたの嬉しいお声をお待ちしています!
あなたは「ゴールデンサークル」という言葉は聞いたことがあるでしょうか?この「ゴールデンサークル」とは、サイモン・シネックが提唱した人を行動に促す時の考え方を表したものです。
「ゴールデンサークル」は、社員に行動を促したい時の考え方を示してくれます。今回は、サイモン・シネックが提唱した「ゴールデンサークル」について説明します。
「Whyから始めよ」:ゴールデンサークルとは?
サイモン・シネックは、イギリス生まれのアメリカ人作家であり、「人々をインスパイアする方法」を伝授してきたコンサルタントです。2009年のTED(Technology Entertainment Design)動画や書籍「Whyからはじめよ」によって、日本でも広く知られるようになりました。
サイモン・シネックの考え方の前提には、人が行動する時に最終的に重要になるのが「感情や直感的感覚である」というものがあります。そして、人に行動に促したい時は、この感情や直感的感覚に訴えかける必要があり、そのためには、What(何を)ではなく、Why(なぜ)がポイントになるという訳です。
ゴールデンサークル
具体的には、サイモン・シネックは、優れたリーダーや組織には共通する「考え方」があり、一般の人の「やり方」とは真逆だと言います。それを表したのが、ゴールデンサークルです。
人に何かしらの情報を伝え、人に行動を促したい時、「Why・How・What」という構成要素が存在し、中心の「Why」から始めることが重要であると説いています。しかし、多くの人や会社は、ゴールデンサークルの外側から伝えて、中心の「Why」を伝えることができいないと説きます。
そして、サイモン・シネックは、このWhy・How・Whatは、以下の脳の構造と対応していると説明しています。
動物脳(大脳辺縁系):Why
人間脳(大脳新皮質):How・What
よく、マーケティングでは「人は感情で買い(行動し)、論理で正当化する」という言葉がありますが、まさしくこの感情を動かす問いが「Whyの力」です。
人の行動を促す「Whyの力」
この「Whyの力」を心理学的にアプローチしたものが、カチッサー効果になります。このカチッサー効果は、外部からの働きかけによって、深く考えることなしに行動を起こしてしまう心理現象です。
カチッサーの語源は、テープレコーダーの再生ボタンのカチッという音と砂嵐のサーという音であり、カチッ・サー効果とも表記されます。
カチッサー効果の実験
ハーバード大学の心理学教授であるエレン・ランガー(Ellen J. Langer)が、以下の実験を行いました。
実験方法
被験者がコピー機の順番待ちの列の先頭へ行き、2通りのコピー枚数(5枚、20枚)と3通りの頼み方で「先にコピーをとらせてもらえませんか?」と頼む。
3通りの頼み方
要求のみを伝える
本物の理由を付け足す
もっともらしい理由を付け足す
その結果、コピー枚数とそれぞれの頼み方で承諾率が異なることが分かった。
コピー枚数が5枚の時、理由の内容に関わらず、理由を付け足すことで、承諾率は改善した。一方、コピー枚数が20枚の時、もっともらしい理由では効果が認められなかったが、本当の理由を付け足すことで効果が認められた。
この結果から、人に何かを頼む時に単に「○○してもらえますか?」と言うよりも「○○なので、○○してもらえますか?」と理由をつけると承諾されやすいことがわかった。
特に、ささいな頼みごとの場合は、頼みごとの内容とあまり関係のない理由でも承諾してもらいやすい。一方、頼みごとが大きくなると、その理由が重要となってくる。
人を動かす「共感」
このカチッサー効果は、人に促す時の行動障壁の高さに応じて、「Whyの力」が変わることを示しています。
行動障壁が高い場合、「Why」の理由に対して「そうか!」と感じてもらえる場合と、「それで?」と感じられた場合とでは、その後の人に行動を促すことができるか否かが異なります。
障壁が高い行動を促すためには、単に「Whyを問う」だけではなく、サイモン・シネックが説くように感情に訴えかけ、その人の感情を動かす必要があります。この感情を動かす作用が「共感」と言えます。
つまり、人の行動を促すためには、「共感を引き出すために、Whyを伝える」必要があるのです。
組織を動かすWhy・How・What
サイモン・シネックのゴールデンサークルを会社組織に当てはめた時、一番外側の「What」は組織の一員として社員が「やること」を意味します。「How」は、そのWhatの手順などの「やり方」を示しています。そして「Why」は、組織や社員の「考え方」を示していると言えます。
つまり、社員に行動を促すためには、まずは、組織として「何故(Why)、それをやるのか?」を明確にする必要があります。そして、社員の「共感が得られるWhyである必要がある」ということです。
まとめ
あなたは、忙しくなると、ついつい「これ、やっといて」の一言で社員に仕事をお願いしていませんか?
人の行動を促すためには、「What」だけではなく、「Why」伝える必要性を挙げました。今後は、是非、ひと言「Why」を付け加えて頂きたいと思います。
この「Why」は、カチッサー効果が示すように、行動障壁が低い時は、理由にならない「Why」でも問題はありません。しかし、行動障壁が高い時は、きちんとした「Why」を伝える必要があります。
ご自身が忙しいからという理由で「Why」を伝えることをさぼってはいけません。この「Why」を伝えることこそが、経営者や組織の上に立つ者の大きな責務だと言えます。
そして、会社の究極の「Why」が、経営理念です。
経営理念をつくられていない会社は、是非、これを機会に経営理念を立案することをお勧めします。そして、既に経営理念をつくられている会社は、この経営理念が社員の共感を得られているか?という観点で経営理念を見直してください。
経営理念については、こちら「経営理念を作る際に、考えておきたい要素とは」 に詳しく説明しています。合わせてお読みいただければ幸いです。
また、ABC Officeでは、経営理念を立案する勉強会を定期的に開催しています。是非、組織を活かす経営理念を立案したいとお考えの場合は、お問合せフォームからご連絡下さい。後日、勉強会の案内を送付させて頂きます。
ひと言で「人事制度」と表しても、等級制度、評価制度、報酬制度の3本柱で構成されています。
報酬制度(賃金制度)については「賃金は何に対して支払われているのか」 にて説明しました。今回は、評価制度について説明します。
評価制度とは
改めて、評価制度とは、人事制度を構成する一つの制度です。等級制度、報酬制度と関係付けられて、実際の運用が行われています。
評価制度の始まり
この3本柱の制度は、人事制度が構築される過程で順番に検討されてきました。具体的には、まずは、奉公という形で、報酬制度(後の賃金制度)が始まりました。その後、日給や月給などの給与を決めるために、出来高などで成果(実績・業績)を評価する評価制度が導入されました。そして、給与制度と評価制度とが関係付けられた社員を区分する等級制度が確立されるに至っています。
人事制度の考え方とやり方
つまり、人事制度は、報酬制度→評価制度→等級制度という順番で成り立ちました。しかし、現代社会で人事制度を構築する際は、等級制度→評価制度→報酬制度の順番で検討されることが多いです。
この人事制度を構築する順番は、人事制度の作り方、つまり、「やり方」と言えます。一方、人事制度の成り立ちは「考え方」と言えます。
全てにおいて、大切なのは「やり方」よりも「考え方」です。つまり、人事制度の「考え方」を大切にするためにも、人事制度の成り立ちも理解して頂きたいと思います。
評価の目的:なぜ評価するのか?
「考え方」を理解して頂くためには、目的を抑えておく必要があります。ここでは、評価制度の大きな2つの目的について説明します。
1つ目は、会社側の視点で見た場合です。2つ目は、社員側の視点で見た場合です。この2つの視点について、以下で説明します。
会社側の視点では、会社への貢献度を評価することが目的
会社側の視点で見た場合、評価制度を報酬制度との関係性で考えます。
民法623条では、雇用契約は、当事者の一方(労働者)が「労働に従事」し、相手方(使用者)が「これに対してその報酬を支払う」契約をいいます。つまり、人事制度では「報酬は労働の対価」と定義されています。
つまり、会社が社員に支払う報酬を決めるために、労働内容を評価する必要があります。このことから、評価制度は、報酬を決めるための制度と言えます。言い換えれば、評価制度の目的は、社員の会社への貢献度を評価することです。
社員側の視点では、社員自身の成長のために評価することが目的
社員側の視点で見た場合、評価制度を等級制度との関係で考えます。
等級制度とは、能力や職務や役割などの観点から社員を区分(等級でランク付け)する制度です。この社員の等級を決めるために、評価制度が運用されています。
しかし、評価制度は、単に社員を等級でランク付けすることが目的と考えてはいけません。評価制度の本来の目的は、その評価を通じて、社員の成長を促すことです。
具体的には、人事評価を通じて、社員を活かすために社内でのキャリアパスを考えたり、より高い能力、職務、役割を発揮してもらうための人材育成に活用するために、評価制度が存在します。
特に、日本では新卒採用が基本ですが、これは社内で求められる職務を遂行する能力をゼロから育成していくことを前提としています。つまり、日本では、人事制度(報酬制度・評価制度・等級制度)を通じて、社員を育成していくことが求められているのです。
評価の項目:何を評価するのか?
評価制度には、以下のような評価項目があります。なお、評価制度にどのような評価項目を導入するかは、報酬制度や等級制度によって変わってきます。
成果・実績・業績
業務の遂行度や目標の達成などを評価します。業務の遂行度は、仕事の量や質、スピードなども判断します。
営業職など、成果を数値で測定しやすい職種は、定量的な評価が可能です。一方、事務職など、仕事の成果を数値で測定することが困難な職種では、定性的な評価が中心になります。
情意
情意評価は、業務への取組み姿勢を評価します。単に「業務への意欲」を持っているかだけではなく、勤怠状況以外にも、規律を守っているか、他の社員と協調して業務遂行しているか、などが判断項目になります。
職務
職務とは、担当の任務や業務を指します。各職務の内容や性質を分析し、必要とされる知識、技能、精神的・肉体的負荷、作業条件などの要素に基づいて、相対的な価値を評価します。定常業務などの職務内容がマニュアル化し易く、相対的に評価しやすい業種に適しています。
この職務を軸に社員区分を決定した制度を職務等級制度と呼びます。
能力
能力とは、業務の難易度に応じた業務遂行に必要な知識、技術、技能のほか、獲得した資格なども含みます。
この能力を軸に社員区分を決定した制度を職能資格制度と呼びます。職能資格制度では、与えられた業務で発揮した能力の高さを評価します。
役割
役割とは、職務としての業務内容だけではなく、業務遂行の責任も含めたものを指します。
この役割を軸に社員区分を決定した制度を役割等級制度と呼びます。職務等級制度と職能資格制度との特徴を併せもった比較的新しい制度です。
評価の方法:どのように評価するのか?
実際の評価では、各項目が記載された評価シートを用いて実施されます。しかし、そのやり方や内容には様々な方法があります。代表的な評価方法を以下に説明します。それぞれの方法のメリットやデメリットも合わせて説明します。
目標管理制度(MBO, Management by Objectives)
目標管理制度は、社員個人やチームで目標を設定し、その達成度を評価するという手法です。
目標管理制度には「目標に対する到達度で評価するため、客観的評価が可能であるできる」、「達成すべき目標の内容や期限などを明確に示すことで評価がしやすい」、「従業員一人ひとりの目標を経営目標や部門目標と連動させることで業績アップを目指せる」といったメリットが挙げられます。
一方で、「目標達成するために、目標を低く設定する」「個人の目標達成に集中するあまり目標から外れる業務はやらなくなる」など、最初の目標設定が極めて難しいのがデメリットとして挙げられます。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、「コンピテンシー(業務の遂行能力)」が高い従業員に共通する行動特性に基づいて設定された評価項目に従って評価する手法です。
コンピテンシー評価では、「優れた社員の行動特性に基づいた評価項目を示すことで業績の向上につながる」、「社員が評価に納得しやすい」といったメリットが挙げられます。
一方で、「コンピテンシー(業務の遂行能力)」の基準は、優秀な社員の行動特性について観察やヒアリングを行い、目指すべき優秀な社員像を設定する必要があります。社員数が少ない中小企業などは、評価基準が曖昧となる可能性があるなど、コンピテンシーの設定が困難であるデメリットが挙げられます。
360度評価
360度評価とは、上司や部下、同僚といった複数の立場から、社員を多面的に評価する手法です。勤務態度や意欲といった周囲への影響を判断する情意評価を行うのに適しています。
360度評価をすることで、本人の認識と周囲の評価のギャップを明確にし、具体的かつ客観的なフィードバックが可能になるなどのメリットが挙げられます。
一方で、部下からの評価を気にするあまり上司が適切なマネジメントをしづらくなる、人間関係が悪化する、評価することに慣れていないと評価がバラツキやすいといった問題が発生する可能性があるなど、デメリットが挙げられます。
中小企業における評価制度の位置づけ
評価制度の目的は、先に挙げた大きな2つ以外にも、他にも適材適所の人員配置や、企業文化を作るため、など様々な目的がありますが、この評価制度を社員の成長のための制度と位置付けることは、日本的な考えになります。
つまり、日本な雇用の基本的な考えは、人件費は投資と考えることができます。これは、新卒採用により、社内教育を通じて人材育成するという考え方に通じています。
一方、欧米の雇用の捉え方は、基本的に人件費はコストと考えています。米国では、会社の業績が悪化すると、レイオフと呼ばれる一時解雇が経営手段として用いられていることからも、この考えは容易に理解して頂けるかと思います。
中小企業では、企業規模が小さくなるほど、評価制度を含めて人事制度を導入していない企業が多く存在します。社員が100人未満の企業規模となると、半数以上が導入されていません。
しかしながら、社員数が少なく、社員一人ひとりの活動が会社業績に大きく影響してくる中小企業こそ、社員の成長を促すための仕組みとして、人事制度(評価制度)が必要だと言えるのではないでしょうか。
まとめ
今回、人事制度の3本柱の一つである評価制度について説明しました。
評価制度にも様々な「やり方」が存在します。しかし、その「やり方」が上手く機能するためには「考え方」が重要となってきます。評価制度の「考え方」として、2つの目的について説明しました。
企業規模が小さいと人事制度の必要性について実感することがないかと思います。しかし、もしあなたが、会社の業績を伸ばすために、社員の成長が必要だと考えておられるようであれば、今回の説明で、人事制度の必要性について理解して頂けたのではないでしょうか。
また、現時点で人事制度は導入しているが、本来の意味・目的を理解できていなかったという場合は、今回の内容を踏まえて、今一度、自社の人事制度について見直して頂きたいと思います。
あなたは「ハーズバーグの二要因理論」という言葉を耳にしたことありますか?
これは、人事労務管理に大きな示唆を与えてくれる理論です。今回、この理論から、あなたの会社をより良い会社にする方法を学んで頂ければと思います。
ハーズバーグの二要因理論(Herzberg’s theory of motivation)
ハーズバーグの二要因理論は、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg)が、19世紀に発表した「How do you motivate your employees?(邦題:モチベーションとは何か?)」という論文で提唱した理論です。
このハーズバーグの二要因理論により、仕事においてどのようなことが社員の満足する要因となり、逆に社員の不満足となる要因であるのかが、明確に示されるようになりました。
ハーズバーグが二要因理論を提唱した時代背景
このハーズバーグの二要因理論が提唱された19世紀当時は、急速に産業化が進み、個々の生産効率を最大限に発揮することが重要視されていた時代です。
ハーズバーグは個々の生産効率を上げるために、仕事への態度を決める要因は何なのか、仕事への満足度やモチベーションを決める要因は何なのかを研究し始めたのが始まりです。
そして、1959年にハーズバーグとピッツバーグ心理学研究所が行った調査における分析結果から、この二要因理論が導き出されました。
ハーズバーグの二要因理論の調査方法・結果
ハーズバーグは調査の方法に「臨界事象法」と呼ばれる方法を用いました。
この「臨界事象法」は、被験者に対して、過去の出来事のうち、特に印象深い、好ましいもしくは好ましくない出来事について詳細に調査する調査方法の1つです。
具体的には、約200人のエンジニアと経理担当事務員に対して、「仕事上どのようなことによって幸福と感じ、また満足を感じたか」「どのようなことによって不幸や不満を感じたか」というインタビューを行い、これまで職場で得られた良い感情、あるいは悪い感情を引き起こした出来事を思い出してもらいました。
そして、そのような感情が引き起こされた理由、その感情が本人の態度に及ぼした影響を詳しく語ってもらいました。
最終的に、このインタビュー調査から抽出された5000もの具体的な動機付けに関する内容を「達成すること」や「承認されること」などの抽象的な要素に落とし込みました。
その結果、社員が感じる仕事への満足度やモチベーションを決める要因には2つの種類があることを明らかにしました。 そして、それぞれの要因が社員の行動に及ぼす作用が異なることがわかったのです。
ハーズバーグは仕事そのものと社内環境の2つの要因を明らかにした
この研究結果から、ハーズバーグは人事労務管理に必要な要素を「動機付け要因(Motivator Factors)」と「衛生要因(Hygiene Factors)」の2種類に分けて考えるべきだと提唱しました 。
この2つの要因の言葉を用いて、ハーズバーグの二要因理論は、ハーズバーグの動機付け・衛生要因理論とも呼ばれます。
実際、ハーズバーグの二要因理論は、「フレックスタイム制」や、社員が何種類かの福利厚生施策を自由に組み合わせる「カフェテリア・プラン」など、現在の数々のシステム誕生に貢献しています。
動機付け要因は、満足に繋がる要因
ハーズバーグが提唱した動機付け要因 とは、達成すること・承認されること・仕事そのもの・責任・昇進・(向上)といった、仕事の満足度に関わる要素です。つまり、人が仕事に満足を感じる時は、仕事そのものに向いていることがわかりました。
そして、これらが満たされると仕事に「やりがい」などの満足感を得ることができますが、逆に欠けていても仕事に対して不満足を引き起こすわけでないことも判明しました。
すなわち、動機付け要因は、「ないからといってすぐに不満が出るものではない」が、「あればあるほど仕事に前向きになる」要素です。 言い換えれば、動機付け要因は、仕事の満足に繋がる「満足要因」と言えます。
衛生要因は、不満足に繋がる要因
一方、衛生要因 とは、給与・福利厚生・経営方針・管理体制・同僚との人間関係・監督(上司との関係など)といった、仕事の不満に関わる要素です。つまり、人が仕事に不満を感じる時は、その人の関心は自分の社内環境に向いていることがわかりました。
これらが不足すると仕事に対して不満足を引き起こします。しかし、満たされたからといっても満足につながるわけではありません。この要素は、単に不満足を予防する意味しかないことが判明しました。
すなわち、衛生要因は、「整備されていないと社員が不満を感じる」が、「整備していても満足につながるわけではない」要素です。 言い換えれば、衛生要因は、社員の不満足に繋がる「不満足要因」と言えます。
満足と不満足は対極にあるのではない
一見すると、「満足」と「不満足」という言葉は、対極にあると考えてしまいます。
すなわち、あなたは「社員が満足できなければ、社員の不満につながる」、「社員の不満を解消すると、社員が満足してくれる」と考えていないでしょうか?
しかし、「動機付け要因(満足要因)」と「衛生要因(不満足要因)」は対極にある要素ではない ことを示してくれます。
つまり、動機付け要因と衛生要因が示すことは、「満足」の反対は「満足でない」ということであり、「不満足」の反対は「不満足でない」ということです。
繰り返しとなりますが、仕事における社員の満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではありません。
いわば、このハーズバーグの二要因理論は、社員の「満足」に関わる要因(動機付け要因)と社員の「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別の次元で考えることが重要である ということを示しています。
具体的には、給与に不満がある状態で仕事の成果を褒められたとしても、「褒め言葉はいいから給料を上げてくれ」と思うのではないでしょうか。
逆に、やりがいや将来性を感じられないような仕事では、給与に不満が無くても「今の仕事を続けていていいのだろうか」という不安感やモチベーションが低下する恐れがあります。
その結果、「それなりの給与なのに、何故、彼は辞めてしまったのか?」というような、優秀な社員の思わぬ離職や転職につながることになります。
社員の満足度を上げるために、動機付け要因と衛生要因の関係性を理解する
社員の満足度を上げるためには、動機付け要因と衛生要因のどちらか一方だけ満たせばよいというわけでありません。
社員のモチベーションを上手に扱う上では、まずは、この「不満足の反対」が「不満足でない」という点を十分に理解することが必要です。
つまり、仕事に満足してもらおうとして、衛生要因を解消したとしても「不満がなくなる」のであって、決して「満足する」わけではありません。
更に、衛生要因である「給与」や「福利厚生」は、不足・悪化すると不満足を引き起こす要素ですが、求める水準を超えて改善してもあまり影響がなくなります。
一方、動機付け要因である「達成」や「承認」は、仕事の満足度を高める上で重要な要素ですが、衛生要因が満たされていない状態では、動機付け要因だけ満たしても限定的な効果しか得られません。
すなわち、動機付け要因と衛生要因の両方の課題を解決する必要 がありますが、衛生要因における課題を解決した上で、動機付け要因を満たす必要 があります。
マズロー欲求5段階説を合わせて理解する
この衛生要因を解決した上で、動機付け要因を満たすという順番は、マズローの欲求5段階説と合わせて考えて頂くことで、このハーズバーグの二要因理論の理解が進むと思います。
すなわち、衛生要因は、マズローの欲求段階説でいうと、「生理的欲求」「安全・安定欲求」と「社会的欲求の一部」の欲求を満たすものと対応付けて考えることができます。
また、動機付け要因は、マズローの欲求段階説でいうと「自己実現欲求」「自尊欲求」さらに「社会的欲求の一部」に該当する欲求を満たすもの対応付けることができます。
マズローの5段階欲求説は、下位層の欲求から満たされる必要があると説かれています。この点からも、衛生要因の課題を解決した上で、動機付け要因を同時に満たしていく必要があることを理解して頂けると思います。
社員の満足度を上げるための具体的な方法
ここまでお読み頂いたあなたは、是非、会社の社員満足度を上げたいと考えて頂いていると思います。
そのために、まずは、この「動機付け要因」と「衛生要因」の2軸を使い、各領域の会社の特徴を整理してみます。
現時点で、あなたの会社はどの領域に存在するとお考えでしょうか?これまで説明してきた、「動機付け要因」と「衛生要因」を考え、整理してみてください。
タイプA:動機づけ要因が満たされ、衛生要因の課題も解決している「健全ホワイト企業」
タイプB:動機づけ要因は満たされているが、衛生要因の課題は解決できていない「やりがい搾取企業」
タイプC:動機づけ要因は満たされていないが、衛生要因の課題が解決されている「ぬるま湯企業」
タイプD:動機づけ要因も満たされず、衛生要因の課題も解決されていない「闇のブラック企業」
如何でしたでしょうか?
以下では、あなたの会社をタイプAに変えていく、また現時点でタイプAであっても更に会社をより良く改革していくためのやり方について説明していきます。
ハーズバーグの二要因理論をマネジメントに活用する方法とは?
ハーズバーグの二要因理論を活用して、タイプAの会社にしていくために、動機付け要因と衛生要因が社員に対してどのような影響を与えるかについて、改めて説明します。
動機付け要因が与える具体的な影響とは?
動機付け要因は、 簡単に言えばいわゆる「やりがい」と呼ばれる要素 で、生産性に直接関わる要因です。
「やりがいのある仕事です!」という募集がブラック企業の決まり文句のような扱いをされているように、悪く言えば「やりがい搾取」に関わる要因ですが、動機付け要因が満たされていない職場では優秀な人材はやりがいのある仕事を求めて離職してしまいます。
衛生要因が与える具体的な影響とは?
衛生要因は「きちんとしていないと社員の意欲が落ちる」要因 です。
給与や福利厚生が満たされていない状態では、いくらやりがいのある仕事であっても、ほとんどの人は生活のために離職を選びます。
ただし、多少給与が低くてもやりがいのある仕事をしたがる人が多いように、一定の水準さえ満たしていれば衛生要因よりも動機付け要因が重要になる点に注意が必要です。
社員の満足度を高めるためには、正しい認識と正しい施策が必要
ここで気を付けて頂きたいのは、より良い会社にしていくために、社員の満足度を上げようと考えた時、「やりがい搾取企業」ほど、さらに動機づけ要因を強化して社員の満足度を高めようとする会社が多い傾向にあります。
また一方で、「ぬるま湯企業」ほど、さらに衛生要因を強化しようとする会社が多い傾向にあります。
これまでに説明してきたように、「やりがい搾取企業」がさらに動機づけ要因を強化しても「健全ホワイト企業」の領域には到達しません。また、同じように「ぬるま湯企業」がさらに衛生要因を強化しても「健全ホワイト企業」にはなれません。
このように、間違った対応を取ってしまう原因は、過去の成功にある可能性があります。つまり、過去に動機づけ要因または衛生要因のどちらか一方を強化して、良い結果が得られた経験が、同じ対応を取る行動を取らせてしまうのだと思います。
しかし、上記の4つのタイプに分類したように、動機づけ要因が高い会社は、衛生要因を強化する必要があます。
また、衛生要因が高い会社は、動機づけ要因の強化に注力する必要があります。
自社分析の効果的かつ具体的なやり方は「社員に聞く」
経営者の立場では、なかなか現状を把握して、自社が4つのどの領域に存在するかを確認することが困難である可能性が考えられます。そして、具体的に何をどのように改革していけば良いか分からないことも予想されます。
そのような時、一番効果的で具体的なやり方は、「社員に実態を聞く」ということです。 例えば、まずはあなた自身で考えて、4つのどの領域に存在するのかを考えた上で、その後に社員にも(匿名で)「どの位置にあると感じているか」ということを、シールを張って表現してもらうやり方が考えられます。
また、冒頭で説明したように、ハーズバーグは調査の方法に「臨界事象法」を用いました。この「臨界事象法」は、被験者に対して、過去の出来事のうち、特に印象深い、好ましいもしくは好ましくない出来事について詳細に調査する調査方法の1つですが、同様に、社員にインタビューするやり方も考えられます。
いずれにせよ、「今、社員が満足しているか?不満足を感じているか?」を直接確認することが、第一歩です。
まとめ
ハーズバーグの二要因理論は新しいものではなく、今から半世紀以上前に提唱されたものです。
しかし、この理論を知っている方は少ないと思います。なぜか?その理由の一つとして、当時から学術研究としての調査方法や結論の導き方に対する批判が多くあったことが挙げられます。
しかしながら、社員の満足度を上げるという、経営者として目の前の大きな課題の前では「満足」と「不満足」が同軸上に存在すのではなく、別々の軸上にある。すなわち両者は次元が異なるという考え方は、大変気づきが大きい理論ではないでしょうか。
まずは、あなたの会社でも、この動機付け要因と衛生要因の二つを区別して社内の状況を整理することで、新たな視点が得られことを期待しています。
そして、客観的に見つめ直すことで、より社員の満足度が高い会社にしていくためには、動機付け要因と衛生要因の両方を改善していく、継続的な取組みの必要性を感じて頂き、明日からの活動の気付きにして頂ければ幸いです。
追伸:最後まで読んで頂いて、「給与」は衛生要因なのか?動機付け要因なのではないか?と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。この話については、別途機会を改めて説明したいと思います。
あなたは、「経営資源」について考えたことがあるでしょうか?
企業活動では、商品やサービスを作り、顧客に提供しています。この商品やサービスを作り、顧客に提供するためには、資源(資本や労働力)が必要です。
つまり、経営活動を行うための資源全体が「経営資源」です。
経営資源の様々な定義
経営資源には、「ヒト・モノ・カネ」 の3つがあります。この3つは、昔からよく言われており、あなたも耳にしたことがあるかもしれません。
IT技術の発達により、この3つに加え、「情報」 も含まれるようになりました。
そして更に、近年では、「時間」 や「知的財産」 までも含めて考えられるようになり、この6つが経営資源と言われたりします。
知的財産とは、特許などの文書化されているものから、暗黙知(あんもくち)と呼ばれる、いわゆる職人技術のような言語化されていないものまで含まれます。
経営資源の7S
コンサルティング大手のマッキンゼー社では、組織の7Sというものを上げており、これらを経営資源と定義する考えもあります。その7Sが以下です。尚、この7Sはハードとソフトで2大分類されています。
ハード的経営資源
戦略(Strategy)
組織(Structure)
システム(System)
ソフト的経営資源
スキル(Skill)
人材(Staff)
社風(Style)
価値観(Shared value)
経営資源の5M
経営資源の5Mという定義もあります。
資金(Money)
資材(Material)
機械設備(Machinery)
方法(Methods)
人的資源(Man power)
経営資源の4つの資本
次の4つの資本を経営資源と定義する場合もあります。
この4つの資本の分類は、アメリカの経営学者であるジェイ・B・バーニーが、企業の内部にある戦略に使えるものを全て「経営資源」と呼び、それらは次の4つのカテゴリーに分類できるとしました。
財務資本(Financial Capital)
物的資本(Physical Capital)
人的資本(Human Capital)
組織資本(Organization Capital)
そして、ジェイ・B・バーニーは、著書『企業戦略論(上)基本編』で、「一般に企業の経営資源とは、すべての資産、ケイパビリティ(能力)、コンピタンス、組織内のプロセス、企業の特性、情報、ナレッジなど、企業のコントロール下にあって、企業の効率と効果を改善するような戦略を構想したり実行したりすることを可能にするものである。」と論じています。
繰り返しとなりますが、経営資源とは、その企業が経営理念を実現するために、企業が活用できる全ての資源を言います。それが、時代によって変化したり、また人によって色々と定義が異なっているだけです。
経営者の役割は経営資源の配分
しかし、時代が変わっても、変わらないものも存在します。経営においては、その一つが経営者の役割です。
確かに、時代が変われば、経営者の役割は変わってくる可能性があります。しかし、現時点でも、変わっていない経営者の役割とは一体何か。
それは、「経営資源の配分の決断を下すこと」 です。
経営資源の配分は経営者しかできない仕事
この「経営資源の配分の決断を下すこと」とは、限られた経営資源を使って、どのように効率よく企業活動を行っていくのかを判断して、実際の活動を意思決定していくすることです。
つまり、経営資源を「ヒト・モノ・カネ・情報」 の4つに分類した時、以下のように問うことができます。
ヒトの配分:どのような仕事に対して集中してヒトを割り当てるのか?
モノの配分:製造業において複数製品を作る機械を保有している時、どのような割合で機械を稼働させるのか?
カネの投資:他の経営資源を手に入れるために、何にカネを割り当てるのか?
情報の投資:どのような情報を入手し、どの情報を活用して(経営)判断するのか?
因みに、ひと昔前、経営を語る上で「選択と集中」 という言葉が流行りました。これは単に「経営資源の配分の決断を下すこと」 を言い換えているに過ぎません。
また、「ビジネスステージの正しい登り方」 では、マネージャーの仕事は投資することであると説明しました。これは、カネの投資先に焦点を当てた説明でした。
経営者の役割は、この投資も含めて「経営資源の配分の決断を下すこと」です。そして、この「経営資源の配分の決断を下すこと」は、経営者にしかできない役割です 。
それは、いわゆる社内の「決裁権」とも言えます。もし、あなた以外にもそのような権限があるとすれば、それは権限を委任していることにしか過ぎません。
ヒト・モノ・カネ・情報の順番には、きちんと意味がある
よく議論されるのが、この「ヒト・モノ・カネ・情報」 の順番です。
「語呂合わせが良いから」とか、「情報は後で付け足されたから」など言われることもあります。
また、「「モノ・カネ・情報」は「ヒト」が動かすことによって初めて意味をなす経営資源だから」という理由も挙げられたりします。
松下幸之助氏が「企業は人なり」と言ったように、「ヒト」が最も大切なものであることは、誰しも納得されると思います。しかし、これでは「モノ・カネ」の順番は説明が付きません。
経営資源は、移動させるコストが高いほど重要
実は、この「ヒト・モノ・カネ・情報」の順番は、移動コストの高い順番に並んでいるのです。
すなわち、情報は、IT技術の発達により、殆どコストがかからずに全世界に送ることができます。カネは、送金コストがかかりますが手数料程度です。モノは、その大小によって輸送コストがかかります。そして、この中で、ヒトの移動コストが一番大きいことは想像に難くないと思います。
例えば、大阪から東京に経営資源を移動させる場合、以下のようなコストがかかります。
情報:メール送信料(ほぼコストゼロ)
カネ:振込手数料
モノ:配達料・郵送料
ヒト:交通費(新幹線代)
上記では、物理的な移動コストのみを考えました。しかし、ヒトを人として動いてもらうためには、心を動かす必要があり、それは目に見えないものも含めると、更に大きなコストがかかることであると理解して頂けるかと思います。
経営資源でよく言われる「ヒト・モノ・カネ・情報」の順番には、きちんと意味があります。それは、移動コストの順に並んでおり、その並びが、そのまま重要度に繋がっているのです。
中小企業の経営者にとって、最も大切な経営資源は「時間」
今回、経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」 について説明してきました。その順番と重要度をお伝えしてきましたが、それだけで終わりではありません。
実は、中小企業経営者の最も大切な経営資源がこの中に含まれていません。それは何か。
「時間」 です。
つまり、近年「時間」や「知的財産」というものも経営資源に挙げられるようなっていると冒頭で説明しました。このうち中小企業の経営者に、特に意識して頂きたい経営資源が「時間」なのです 。
何故か?
それは、先ほどの経営資源の移動コストを考えた場合、「ヒト・モノ・カネ・情報」というものは、どんなコストがかかろうとも、移動させることができる経営資源でした。
一方で、「時間」は移動させることができません 。そもそも「時間」は移動するものという概念がありません。すなわち、「時間」は先の4つの経営資源とは異なる次元にあります 。
あなたの会社の経営資源として、「ヒト・モノ・カネ」は投資することで増やすことができますが、経営者であるあなたの「時間」は増やすことができません。
あなたの経営資源である「時間」は1日24時間です。その限られたあなたの経営資源という有限な「時間」を何に配分するのか。
29,200日という限られた時間
人生80年と考えた時、人が生まれてから死ぬまでの日数は29,200日(=365日/年×80年)です。
仮に、あなたが40歳とするならば、残された人生の日数は14,600日です。
また、あなたが今のビジネスに関わるのは何歳まででしょうか?
仮に70歳でリタイヤすると考えれば、あなたが今40歳ならば、ビジネスに関わることができる日数は、後30年の10,950日です。
この日数が長いと考えるか、短いと考えるかは人それぞれです。ただ、考えなければいけないのは、この限られた日数で、あなたはどのようなビジネスを展開されたいのでしょうか?
そのように考えた時、改めて経営資源という「時間」の使い方について考える必要があるのだと思います。
まとめ
大きな企業であれば、専門性が高い豊富な人材を抱えているため、仕事を細分化することで、経営者の有限な「時間」を捻出することは容易なのかもしれません。
しかし、中小企業においては、多くの仕事を経営者に頼っているのが実情だと思います。そのため、多くの経営者の方が「毎日が仕事、仕事で、忙しい。」と時間に追われているのではないでしょうか。
もし、あなたがそのよう状況であるならば、今一度、経営資源という観点で、「ヒト・モノ・カネ・情報」そして「時間」の配分について考える必要があるのだと思います。
「成功の2つのタイプを理解して、社員を活かす」 では、「去年より人生が面白くなっているか?」と問いました。
決して、楽をすることを勧めているのではありません。「仕事があって忙しい」ことは素晴らしことです。
しかし、「去年よりも人生が面白くなっておらず、仕事に追われて、忙しい。」と感じるのであれば、裏返せば、限りある「時間」という経営資源の配分の決断を見直す必要がある。ということです。
経営者にしかできない役割は「時間・ヒト・モノ・カネ・情報」 の経営資源の配分を決断することです。
是非、一度、この経営資源の配分について、考えてみてください。明日から、見えてくる世界が変わってくるかもしれません。
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