「motivation」は「動機付け」が日本語の訳語ですが、一般的には「モチベーション」という言葉の方がよく使われています。特に、経営者なら「モチベーション向上」というキーワードに頭を悩ませることが多いのではないでしょうか。
例えば、給与や賞与を増額する、奨励金を与えるなど、「金銭報酬」によって社員のモチベーションを高めようと考えるケースは非常に多く見られます。しかし、実際に金銭報酬は従業員のモチベーションを高める効果があるのでしょうか?
本記事では、「動機付け」に関する理論を整理し、経営者が意識すべきポイントについて解説します。
報酬と動機付けの関係
一般に、動機付けには以下の2種類があります。
1. 外発的動機付け(Extrinsic Motivation)
外部からの刺激(評価・賞罰・強制など)によって引き起こされる動機付けのことです。金銭報酬もこれに含まれ、「外的報酬」と呼ばれます。
例:
- 給与やボーナスが増えるから頑張る
- 上司に評価されるために努力する
- 罰を避けるために行動を起こす
2. 内発的動機付け(Intrinsic Motivation)
個人の興味・関心や達成感、充実感など、内面から湧き起こる動機付けのことです。これは「内的報酬」によって引き起こされます。
例:
- 自分が好きな仕事だから熱中する
- スキル向上や成長が楽しいから頑張る
- 自己実現のために努力する
一般的に、「内発的動機付け」は高い集中力を生み出し、持続性のある行動につながるとされています。一方で、「外発的動機付け」は短期的な効果があるものの、長期的には必ずしも成果につながらないことが指摘されています。
アンダーマイニング効果とは?
1960年代までは、アメリカの心理学者バラス・F・スキナーらによる行動主義の考え方が主流で、金銭や物質的な報酬がモチベーションを高めると考えられていました。
しかし、1970年代に入ると、金銭や物質的な報酬が逆に内発的動機付けを低下させる現象が実験で確認されました。これを「アンダーマイニング効果(Undermining Effect)」と呼びます。
デシのソマパズル実験
アンダーマイニング効果を証明した代表的な研究が、1971年に心理学者エドワード・L・デシによって行われた「ソマパズル実験」です。
実験の概要
1日目:
- 大学生を2グループに分け、両グループに立体パズル(ソマパズル)を与えて取り組ませる。
2日目:
- 片方のグループには「パズルを解くごとに1ドルの報酬を与える」と伝え、実際に報酬を支払う。
- もう片方のグループには何も伝えず、報酬も与えない。
3日目:
- 2日目に報酬を与えたグループに対し、3日目は報酬がないことを伝える。
- 両グループとも再びパズルに取り組ませる。
実験の合間に、8分間の自由時間を設けて、大学生たちがどれだけ自主的にパズルに取り組むかを観察しました。この時の自主的にパズルに取り組む時間を測定することで、パズルを解くという純粋な行動動機に対する金銭報酬の影響について調査しました。
実験結果(8分間の自由時間にパズルに取り組んだ時間)
グループ | 1日目 | 2日目 | 3日目 |
報酬ありグループ | 248秒 | 313秒 (増加) |
198秒 (急減) |
報酬なしグループ | 213秒 | 205秒 (ほぼ変わらず) |
241秒 (増加) |
結果のポイント
- 報酬ありグループ:2日目は報酬によりパズルへの関心が一時的に増加したが、報酬が得られない3日目には急激に低下。
- 報酬なしグループ:3日目まで比較的安定してパズルに取り組み、むしろ時間が増加。
このソマパズル結果から、外的報酬(お金)を与えられると、元々持っていた内発的動機付けが低下することが示されました。
企業経営への示唆
経営者によっては、従業員のモチベーションを高めるために給与やインセンティブを重視する傾向があります。しかし、単純に金銭報酬を増やすことが必ずしもモチベーションを高める要因になるだけでなく、逆に行動動機を失わせる原因になり得るのです。
例えば、入社時には「この会社で働きたい!」と熱意を持っていた社員が、次第に「給与ばかりを気にするようになる」ケースはありませんか?
もしこのような変化が見られるなら、会社の制度や評価体系が、従業員の内発的動機付けを低下させている可能性があります。
まとめ
- 動機付けには「外発的動機付け」と「内発的動機付け」の2種類がある
- 金銭報酬(外的報酬)は短期的な効果はあるが、長期的には内発的動機付けを低下させる可能性がある(アンダーマイニング効果)
- 経営者は、単なる金銭報酬ではなく、従業員の内発的動機付けを引き出す工夫が必要
あなたの会社の評価制度や報酬設計は、従業員の行動動機を失わせる要因になっていませんか?今一度、自社の状況を見つめ直して頂く必要があるかもしれません。