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2020.03.23

「戦略MQ会計」とは

「戦略MQ会計」とは

戦略MQ会計とは、「利益拡大の科学」をめざし、西順一郎氏が昭和40年代のソニー在籍時に開発した、管理会計・戦略会計の手法です。

もともと、戦略MQ会計は、STRAC(ストラック)と呼ばれており、戦略(Strategy, ストラテジ)と会計(accounting, アカウンティング)をかけ合わせた造語です。なお、この「STRAC」は、ソニー株式会社から分社化した経緯を持つ、マネジメント・カレッジ株式会社が商標登録しています。
開発者である西順一郎氏が代表を務める株式会社西研究所では、「MQ会計」並びに「MQ戦略ゲーム」を商標登録されています。

戦略MQ会計の3つのポイント

この戦略MQ会計は、以下の3つのポイントがあります。順に説明していきます。

1.科学的である
2.戦略的である
3.平易である

1.科学的である

科学的であるということは、数学的で矛盾がないということです。

原価にはDC, Direct Costing(直接原価)とFC, Full Costing(全部原価)の2種類があります。「お金の『勘定』と『儲け』」でも触れましたが、今一度説明させて頂きます。

商業が使っているDC(直接原価)に対して、FC(全部原価)は、税法やその他で義務付けられているいるため、世の中で主流となっています。

しかし、FC(全部原価)は、例えばメーカーであれば、原材料費だけでなく、工場での固定費を製造原価として製品に配分しています。この影響により、製品の数量が倍になると製品の固定費の負担が半分になるなど、製品一つ当りの製造原価が、生産量によって変わります。

すなわち、収益性の未来を予測し、意思決定する際には、生産量との関係に十分に注意しなければ、錯覚や誤解、勘違いをもたらしてしまいます。

この点、固定費を製品に配分しないDC(直接原価)は、生産量が変わっても製品一つ当りの製造原価は変わりません。FC(全部原価)のような勘違いを起こす要素をなくすことができます。

この点で、戦略的MQ会計は数学的な矛盾を生む要素が少なく、より科学的であると言えるわけです。

2.戦略的である

このDC(直接原価)と次の3.で述べる簡素化した要素法から、単純な四則演算で「企業方程式」を導出することができます。

この企業方程式から「利益感度」が利用できます。そして、この「利益感度」の分析によって、利益拡大の指針を確認することができます。

このため、戦略MQ会計は戦略的な思考決定に使うことができます。

3.平易である

この戦略MQ会計では、会社の収益構造を5つの要素でのみ説明します。また、その要素を英語1文字で表現し、会計の難しい言葉を使いません。

一般的な法的会計や財務諸表が「良く分からない。難しい。」という経営者の皆さんの言葉の背景には、用語を理解できない。ということも含まれていると感じています。

つまり、「利益」とひと言で表しても、財務諸表では、売上高と以下の5つの利益が存在します。

・売上総利益
・営業利益
・経常利益
・税引き前当期利益
・当期利益

このように、法的会計では、覚えて理解すること(厳密には、覚えなければいけない・理解しないといけないと思い込んでいること)が多いのです。

これは、使いこなす前に、覚えて理解することの必要性を感じるために、使いこなすまでに「分からない。難しい。」という拒絶反応に繋がってくると思います。

このため、戦略的MQ会計の収益構造を単純化し、名称を簡略化することは「覚えやすい。理解しやすい。」と感じてもらえることも、重要な要素となっています。

全社員が日常的に使う「共通言語」の重要性

そして、この単純化・簡略化により、全社員にも理解しやすい考え方であることが特徴です。

つまり、この収益構造を単純化していること、要素を英語1文字で表現されていることで、全社員が日常業務で使えることに極めて重要な意味があります

組織を動かすためには社員のベクトルを合せる必要がありますが、全社員が理解できる共通言語を持つことで、共通認識が成立します。

京セラの共通言語は「時間当たり採算」

JALを再生したり、一代で世界的企業に成長させた京セラの創業者である稲盛和夫氏は、独自に確立したアメーバ経営という管理会計手法を経営に用いていました。

このアメーバ経営では、部門ごとの生産性を「時間当たり採算」という数値で計測し、全社員がこの「時間当たり採算」を最大化することを目的に活動します。

このアメーバ経営は、様々な企業で取入れられると共に、学問として大学での研究対象とされています。その研究結果から、このアメーバ経営を導入する効果として、全社員が「時間当たり採算」という共通言語で語れることが報告されています。

すなわち、言葉を扱う時には「その言葉の定義」が重要となってきますが、共通言語を用いることで、組織内で「間違いなく」意思疎通することができることができます。これが共通言語を持つメリットです。

トヨタ工場の共通言語は「チリ」

例えば、トヨタの工場では「チリ」と呼ばれる共通言語が存在します。この「チリ」は、ボディとドアの間の隙間を指します。この隙間がないと、ドアやボンネット、トランクフードやテールゲートの開閉ができなくなります。

しかし、この隙間が大きいと美しく見えず、塗装の質感などともに、安価なクルマと高級車との見た目の大きな差につながるわけです。

ちなみに、トヨタの高級車のセンチュリーでは、ボディとドアの隙間は3.5 mmで、トヨタ車で最小とされています。これ以上、隙間をつめると開閉時にドアなどとボディが干渉してしまいます。

このように、説明するニュアンスが難しいものでも、共通言語を持つことで、間違いなく、その組織内で意思疎通することができるわけです。

戦略MQ会計で使う共通言語はたった5つ

さて、戦略的MQ会計に説明を戻ると、戦略的MQ会計で使う用語は、以下の5つです。

  • 価格 :P(Price)
  • 原価 :V(Variable Cost)
  • 数量 :Q(Quantity)
  • 固定費:F(Fixed Cost)
  • 利益 :G(Gain)

そして、その収益構造は次のように表されます。

例えば、1種類のみの缶コーヒーを扱うお店があり、原価Vの缶コーヒー1本を価格Pで販売しているとします。この缶コーヒーの粗利単価Mは、価格Pから原価Vを引いた額(P-V)となります。

そして、缶コーヒーを数量Qを売った時のことを考えます。

この時、お店全体の収益は、

売上高PQ(=価格P×数量Q)と
売上原価VQ(=原価V×数量Q)との差額
つまり、PQ-VQから粗利総額MQが決まります。

最後に、このMQから固定費Fを引いた額が、お店全体の利益Gとなります。

以上の流れを図式で書くと次のようになります。

PQ=VQ+F+G

経営指標にできる利益感度計算

繰り返しとなりますが、この時の原価Vには、直接原価(DC)方式を取ります。

このように、収益構造を単純な一次式で表現することで、各項目に対する式変形が可能となり、その結果、様々な経営指標を導き出せるようになります。

例えば、価格Pについて式変形して以下の式とした上で、

P=(VQ-F+G)/Q

利益G=0とすることで、利益を出すために必要な、限界価格を導き出せることができます。

また、現状に対して、利益G=0となる固有の要素の変化を見積もることで、各要素の利益感度を計算することができます。

つまり、現状のP、V、Q、Fに対して、
V,Q、Fを固定して、G=0となるP’を求め、
P’/Pを算出することでPの感度係数を求めます。

同様に、各要素の感度係数を求め、それらの感度係数を比較検討することで、収益性に対して効果の高い施策が分かるようになります。この戦略MQ会計による利益感度分析で、明日からどのような施策を取るべきかが見えてくるのです。

まとめ

管理会計を導入することの効果は、難しい会計の専門用語を使わず、全社員が理解できる「共通言語」を持てることにあります。

そして、管理会計の中でも戦略MQ会計は、原価計算にDC(直接原価)を用いることで、科学的に運用することができます。また、四則演算のみで計算するため、全社員が容易に理解することができます。そして何より、利益感度計算により、明日からの施策の方向性を導き出すことが可能となります。

是非、皆さんの会社でも、戦略MQ会計の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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